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気の利くおせっかい


百子の家を後にして兄貴の車で帰る。


「家賃は絶対払うから。」


結婚はまだ先だけど、丸め込まれそうだから先に言っておく。


「お兄ちゃんが所有するマンションはどれもいい値段だよ。兄弟割引だと思って甘えなよ。」


…今日からまた説得の日々が続くな。勝ったこと無いけど。


「兄貴、いつの間にマンションとか買ってたんだよ。」


一番聞きたいのはこれでは無いけど


「そりゃあ老後を考えて不動産収入があると安心だし、家を出ようと思ってたからどのみち借りるくらいなら自分が所有したらいいかな、とか。まぁ一番は趣味だよ。俺の趣味、不動産投資だから。」


…庶民派ぶってたのに、やっぱりCEOだ。


「なんで百子の両親と勝手に話が進んでるんだよ。」


そう、一番聞きたいのはここだ。


俺が今日説明する予定だったのに、兄貴が勝手に話をまとめて百子との婚約があっという間に決まってしまった。

いきなり、結婚では無くなったけど、それも兄貴の口車に乗せられた形だ。助かったけど!


…俺も百子も百子の両親も全て兄貴の思惑通りに動かされている気がする。


そして百子がお嫁に来くるけど、新居は百子と百子の両親が決める…


「だって直くんが早く百子さんと結婚したかったんだろ?だからお互いの条件をすり合わせたんだよ。」


「しないでって言ったのに。」


「…直くんは本田さんファミリーに丸め込まれそうだからね。」


兄貴はカミングアウトして以来、口が悪いと思う出来事が増えた。


「営業マンみたいだったな。」


ちょっと仕返し。嫌味ったらしく言う。


「そりゃあ、元営業マンですから。」


は?


「うちの営業部、古巣。」


「えー!!??」


知らなかった!だから塚本部長と仲がいいのか!だから皆が慕ってたのか!


「営業って絶対向いて無いと思ってたけど、やってみるといいものだね。少し仕事抜けても誰も何とも思わないから。」


だから仕事中に抜けて帰ってこれて、看病してくれたのか…。


「営業の基本だろ?下手に出て、おだてて勝ち取る。だからお酒を持って行ったんだよ。本田さんの好みはリサーチ済み。契約の成就率を上げるのは食後と、適度な飲酒。」


……なんて策士だ。


「兄貴は腹黒かったんだな!!」


穏やかで優しい兄貴の内側はこんなにも計算高かったとは!


「そりゃあ、生きていく上で大事なことですから。」


…タヌキだ。


「だけど、嘘は言ってないよ。」


…。


「相手の本心を知りたいときは自分から先に本心を出さないと。相手を探ってばかりのときは自分も相手から探られてる。」


兄貴はやっぱり深い。


「表面上でもない、社交辞令でもない、心の会話をしたかったら、心を開くしかないんだよ。」


やっぱり偉大だ。


「なんでまたお手伝いさん雇わないの?仕事だって送迎車は?」


兄貴の隠し事を全て暴こう。


「お手伝いさんは忘れてた。」

「は?」

「今の生活が当たり前になってたから忘れてた。雇おうと思えば雇えるけど。キヨさんにも聞いてみるよ。」


…やっぱり兄貴は天然だ。そんな単純な理由だったとは…


「当時は30人も雇えなくて、叔父さんに頼んで別の働く場所を探してもらったんだ。だから、俺は叔父さんに感謝してる。使用人の皆さんを路頭に迷わせなくて済んだから…」


そうだったんだ。


…環境も自己責任。兄貴は叔父さんも自分の中で良い人に変えているんだろう。


「送迎はね。お兄ちゃん、歩き派だから。」


ん?


「歩いてるとインスピレーションが湧くから、仕事とかのね。だから普段は、歩いて行って、歩いて帰ってる。」


は、はあー!?


「あ、歩いてどれくらい?」

「一時間半弱かな?お兄ちゃん、歩くのめちゃくちゃ早いよ。」


だ、だから朝があんなに早いのか…


「汗かくだろ?」


爽やかCEOに汗は似合わない。


「ホテルのフィットネス会員だから、そこでシャワー浴びてから出社してるよ。ほら、会社のすぐ側にあるでしょ?」


あの高級ホテルのフィットネス会員…やっぱり兄貴はCEOだ。そして秘密が多い。


「フィットネス会員だけど、ロッカーとシャワーしか借りない変わった客だよ。たまには運動もしないとねぇ。」


隠してるわけではないんだ。言わないだけで。聞いたら、教えてくれる。


「…兄貴、お見合い写真が山ほどあるって?」


やられっぱなしは嫌だ。


「塚本くんか…」

「兄貴に良い人探してやる。お見合い写真、見せてごらん。」


俺は最近百子の口癖が写ったようだ。


「良いって。もう返したし。」

「兄貴には結婚してもらわないと困る!」


兄貴にも幸せになってもらいたい。


「良いって。」「良くない!」


車の中でギャーギャー言いあってたら遂に兄貴が折れた。


「…好きな人は…いるから。」

「…。」


兄貴が少し赤くなった気がした。


「なんだ。兄貴もかわいい所あるじゃん。」


なんか初めて兄貴に勝った気分だ。嬉しい。


「…直くんはせいぜい本田さんファミリーから尻に敷かれたらいいよ。」

「は?」

悔しかったのか恥ずかしかったのか、恨めしそうに兄貴が呟いた。


「あの娘を溺愛してる両親はこれからも直くんに色々と助言をするだろうね。今の直くんは切り返し術がないからね。」


〝穏やかな兄〟の化けの皮を剥いだら、性格が捻くれてた。


「せいぜい、ひっぱり込まれないように頑張って。」


に、憎たらしい。


「兄貴と貴将は似てるな。性格悪いところ。」


血が繋がってなくても、側に入れば似てくる。俺が百子の口癖が写ったのと同じように。


「…直くんは大丈夫。本田さんファミリーとも上手くやっていけるよ。お父さんに似て忍耐強いから。」


「お父さん、忍耐強かったの?」


確か、松本さんも俺が忍耐強いと言ってたらしいけど…


「びっくりするくらい、忍耐強かった。」


そうなんだ…。



直くんのお父さんの忍耐強さはシリーズ〝政略結婚の裏側に…〟をご確認下さい(笑)


そしてお兄さんの好きな人はシリーズ〝一生に一度の素敵な恋をキミと〟と〝お兄ちゃんのこれまで〟をご覧下さい♪


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