秘密が明るみに出るとき
夕方になり、兄貴と貴将が帰って来た。
「お兄ちゃん!俺の今日の活躍すごかったよね!?さすが俺!!」
「うん、そうだね。」
「あー。お腹空いた〜。もうペコペコ!!キヨさ〜ん!ご飯〜!!」
貴将も兄貴もいつも通りだ。
いつ…言うのかな。
「…貴ちゃん、その前にお兄ちゃんお話があるんだけど…」
い、今か。そうだよな。兄貴は俺に気を使ってるんだ。俺がこの精神状態で食事を食べられないって…
「え?後にして。それより先にご飯。今の俺にご飯より重要な物はない!」
「…。」
これは…ご飯が先だ。
✽
「あ~。お腹いっぱい!ご馳走様でした!!」
食事を終え、キヨさんが食事をダイニングからキッチンに下げる。
ダイニングには俺と貴将と…兄貴。
「貴ちゃん、あのね。お兄ちゃん貴ちゃんに謝らないといけない事があるんだ。」
つ、遂にきた。俺は緊張で心臓が飛び跳ねそうだ。
「え?お兄ちゃん何したの?じゃあゲーム買ってくれたら許してあげる。」
…。貴将はこの重々しい空気に気づいていない。
「うん…。あのさ、ずっと黙ってたんだけど…お兄ちゃん、直お兄ちゃんと貴ちゃんと…本当の兄弟じゃないんだ…。」
「え?」
貴将が聞き返す。
あぁ…遂に…。
「お兄ちゃんは二人とは血が繋がってないんだ。」
…泣き叫ぶかな。…きっと、貴将はそれでも、兄貴は兄貴と思うはずだ。…俺がそうだから。
出ていくと言った兄貴を、貴将と二人で止めよう。兄貴の家はここだろって。これからも兄貴でいて欲しいって。
そしたら…きっとこの、優しい兄貴は言うことを聞いてくれるはずだ。
「あ、そうなんだ!分かった!」
…ん?
随分と明るい返事…。
「話はそれだけ?」
貴将はあっけらかんとしている。
「えっ…。えーっと、まぁ、そう…かな。」
兄貴がしどろもどろになる。(あの兄貴がしどろもどろ…)
「じゃあお兄ちゃん、約束のゲーム!まだお店開いてるよ!買いに行こう!!」
…こいつ本当に分かってるのか?
「いや、貴ちゃん。お兄ちゃんは血が繋がってないから、貴ちゃんのお兄ちゃんじゃないんだよ?」
兄貴も俺と同じ事を思ったのかもう一度説明する。
「え?なんでお兄ちゃんじゃないの?」
「いや、だから…血が繋がってないから。」
兄貴は焦って説明をしている。あの兄貴を焦らせる。貴将は別の意味で、すごい。
「血が繋がってないとお兄ちゃんにはなれないの?」
「え…、」
「だってさ、ももちゃんもキヨさんも血が繋がってないよ?」
それは当たり前だろう。急にコイツは何を言い出すんだ。
「だけど、家族でしょう?」
…。
貴将はすごい。きっと、一番…兄貴の心に響いたはずだ。
(貴将の中では百子ももう家族なのか。)
「ははっ。そっか。ありがとう、貴ちゃん。」
兄貴が笑った。久しぶりに見た気がする。
俺が言われたときに、そう兄貴に言ってあげれたら良かった。そしたら、兄貴はこの数日だけでも、救われたのに…
俺が、深刻に考えたから、兄貴を傷つけてしまった。
俺はずっと、人として何かが足りないと思ってきたけど、まさかこれほどとは…。
「直くんもありがとう。」
俺が落ち込んでるのに気づいたのか、兄貴は俺を見て微笑む。
明るい、和やかな雰囲気なのに…
せっかく、兄貴が長年の重荷から解放されたのに…
「あれ?直、泣いてる?」
「泣いてない!!」
貴将にからかわれる。悔しい。
「貴ちゃん、直お兄ちゃんはお兄ちゃんの代わりに泣いてくれたんだよ。」
俺が泣いてること確定じゃないか。
「お兄ちゃん、人前じゃ絶対泣かないから。直お兄ちゃんが今のお兄ちゃんの気持ちを察して、代わってくれてるの。」
兄貴は俺をフォローする。…やっぱり気の利くおせっかいだ。
〝人前じゃ絶対泣かないから〟
俺は兄貴が泣いたのをこれまで一度も見たことがない。
〝男が泣くときは権力に負けたときだけだ〟
兄貴は覚えてなかったけど、確かにそう聞いた事がある。
あの穏やかな兄からは想像もつかない言葉だったから、小さいときだし、聞き間違いか夢だったんだろうとも思った。
今は、思う。
きっと、兄貴の実体験だ。
「お兄ちゃん!分かったから!早くゲーム!!」
「はいはい。ゲームね。」
…兄貴はすぐに甘やかす。
「直くんも一緒に行こうよ。」
「行かない!」
なんか照れくさい。
なんか、頭がグチャグチャだけど…良かった。
結局、俺が最初に取り乱してしまわなかったら、とも思うけど。
でも…色んな、隠されていた兄貴を知れて…良かったと思う。
家族なんだから。
血が繋がってなくても、格好つかなくても、どんな姿でも、どんなことがあっても、何でも受け入れたいと思える。
それが、家族というはずだ。