人生の第二幕
「うふふ。来ちゃった!」
目の前に、百子がいる。
「なんで…」
!声が出た…。
百子に会った瞬間、喉の焼けるような熱さがなくなって…。
「!百子、18時過ぎてるって!!」
お父様との約束が!
「そうそう、ボイスレコーダーとってきた。直くん信じないだろうから。」
ボイスレコーダー?
『パパ、ボイスレコーダー動いてる。ほら、早く言ってごらん。スキンシップおーけー?』
『ぐ…22時までだぞ…』
〝ぐ〟って…
確実に百子の脅しが入ってるだろ。これは。
『〜!パパ!!ありがとう!!大好き!!愛してる!!』
…だけど、お父様もやられたはずだ。百子のこのテレのない愛の言葉を前に、俺も平伏すしかない。
「22時まで、スキンシップおーけー!!」
百子がニコニコと笑って俺を見る。
…
……
――ガバッ
「――はぁ。百子だ。」
百子を抱きしめる。思いっきり。ギューッと。
思いっきり百子を抱きしめて堪能する。
百子だ。
――百子だ。
「直くん〜!」
百子が嬉しそうに俺を抱きしめ返す。
あぁ、近い距離に百子がいる。
嬉しい。
しばらくそうして抱きしめあっていた。
「あ!そうだ!直くん、スマホ!!」
百子が体を離して喋りだす。名残惜しいが俺も体を離す。
「スマホ?」
「未だに未読スルー!」
未読?
スマホを手にする。そういえば今日はじめて持ったな。
「あ、ごめん百子。電源切れてた。」
どうりで着信がならないはずだ。
「はぁー!!??」
あ、ヤバイ。怒られる流れだ。
「ちょっと!直くん!愛しい彼女がメールいっぱい送ってるわよ!紐レベルじゃないじゃない!!」
紐?
あ、
「ん?わっ!わっ!直くん何?どうしたの?」
百子の頭をワシャワシャと撫で回す。俺は幼稚で嫉妬深い。そしてさらに根に持つ男だったようだ。
「高田さんの手が当たったの、この辺だった。」
百子の頭の上にポンポンと手を置いた。それもポンポンと、二回だ!
「直くん…。記憶力いーい…。」
百子は呆然としている。百子はもう忘れていたんだろう。
兄貴はグレーゾーンとか言ってたけど違う!あれは確実に黒だ!真っ黒!
…治ったと思っていた失語症は簡単に顔を出す。今また喋れるようになったけど、もしかしたらまた、声が出なくなるかもしれない。
…。
「百子、俺と結婚してほしい。」
色々とプランは練っていた。ちゃんと指輪を買って、レストランを予約して…。お父様の件で急ごうと思ったけど、こんなにも早急じゃない。
百子はポカンとした顔をしている。
…返事はない。
「…俺と、結婚してくれませんか?」
ずっと思っていた。
百子が俺を好きなってくれて、諦めないでいてくれたから、今の俺の幸せがある。
始まりは百子から。だから、この関係は百子が俺に愛想尽かしたらその時点で終わる。
終わらせたくない。
だから…
「好きだよ。百子…。俺と結婚して下さい。」
人生の第二幕の始まりは、俺から――。
「な、直くんはいつも唐突に喋るね…」
驚いてる百子にそんな事を言われる。
(…いつも唐突なのは百子の方だって。)
俺も唐突なのか?
「もう一回言おうか?」
前はどんな言葉も恥ずかしくて仕方なかった。一回が限度だった。
今は言える。
それは、百子がいつだって俺に自信を与えてくれるから。