動揺
今日も視線を感じる
――本田さんだ。
この見られているというのは何とも落ち着かない。本田さんはなんで俺につきまとうんだろうか…
本田さんは俺が気づいていないと思っているのだろうか。…とても分かりやすく木の陰にいるのに。隠れているつもりだろうか。
(一人になりたい。静かな場所に行きたい。)
校庭の奥の、人が滅多に通らない所で過ごす。
一度、小学生の時に告白のような事をされて以来、しっかりと“本田さん”という人物を認識した。
あれは、いったい何だったんだろう…
✽✽
「直くん、私、直くんが好きなの。軽々しい気持ちじゃないから。」
突然、木の陰にいた本田さんが出て来てそんな事を言われる。
何を俺に伝えたいのか分からない。俺にどうしてほしいんだろう。意図が見えない。どういうつもりなんだ。
「…他を当たってよ。」
こうも毎回付きまとわれていては休まるときがない。からかっているのか、何かのゲームか。俺を巻き込むのはやめてもらいたい。
✽✽✽
本田さんを泣かしてしまってから一週間が経った。
「…三井くん、ちょっといい?」
声をかけられる。一人になりたいのに。
「…。何?」
多分同じクラスの女子だ。
「あのね。…えっと…。」
「…。」
中々言おうとしない。これで何人目か。なんとなく先を予感する。
「えっと…私、三井くんを好きになったの。付き合って下さい!!」
「…。」
やはり、か。女子の気持ちはさっぱり分からない。男兄弟だからか?好きという感覚を俺は知らない。
何を思ってこの人達はこういう事を言うんだろう。特に接点も無い、話したことも無い。
からかわれているんだろうか…。
「…。ごめん。俺、誰とも付き合う気無いから。」
ここ数カ月で覚えた言葉だ。
冗談か本気か分からない相手を出来る限り傷つけず、けれども明確な意志を伝える。
本田さんにも同じ言葉を言えば良かった。結構…いや、だいぶ突き放した言い方をしてしまった。
本田さんの泣き顔が頭から離れない。
母に“女の子には優しくしなさい”と言われてきた。
そして兄は誰に対しても優しい人だ。
(……。)
ものすごい罪悪感が押し寄せて来る。
これまでも告白を断った女性に泣かれた事はある。
その時もどうしていいか分からず罪悪感でいっぱいだった。
…だけど本田さんの泣き顔が一番堪えた。
罪悪感と動揺が波の如く押し寄せ心の中を占領している。
(謝ろう…。)
そう思っていても中々声をかけることは出来ない。
クラスも違うし、接点もない。
こういうとき、どうしたらいいんだろう…