直くん以上の人はいない
シーン。
今日もシーン。というよりこの一週間、シーン。
いてもいなくても同じみたいな感じ。つまらない!
直くんもいないし、もっとつまらない。
…直くんは今日はお休みだって。直くん落ち込んでるだろうな。真面目だし。
無遅刻無欠勤を地で行く人だもんなー。
私も寂しい。
直くんの体調を心配してメールを送っても、返事はおろか既読にすらならない。
直くんの携帯は携帯の意味を持たない。…直くんめ。
今度、直くんに紐をプレゼントしよう。そして首から携帯を常にかけておいてもらおう。
あ、いい考え。私、頭いい!さすが直くんの彼女!!
✽✽
「はぁ〜。」
ポテポテ。足取りは重い。
仕事が終わって家に帰り着く。ようやく暇な経理部の一週間が終わった。
直くんに会いたい。
「ただいま〜。あれ?パパ、帰ってたの?」
「百子〜。おかえり。」
パパが私に抱きついてくる。大体、元はと言えば。
「パパ、私直くんに会いたいから今から直くんの家に行ってくる。それとスキンシッププリーズ。おーけー?」
私と直くんの愛を引き裂く元凶は取り除かないと。
「な、なんだとー!!」
「もう直くんはびっくりするくらい約束を守った。充分でしょう?私の人生、直くん以外いらないから。パパ、サヨウナラ。」
「百子〜!!」
直くんを苦しめる人はたとえ家族といえど、許せない。
「百子、パパが泣いちゃうわよ。あなた、直くん以上の人はこの日本にいないわよ。もういいでしょう?」
ママ、ありがとう。よく分かってるじゃない。
その通りよ。
直くん以上の人は
この日本にも…
世界にも…
宇宙にも…いない。
直くんだけ。
「パパ、ボイスレコーダー動いてる。ほら、早く言ってごらん。スキンシップおーけー?」
「ぐ…22時までだぞ…」
ヤ、ヤッター!!百子選手やりました!!金メダルです!!
「〜!パパ!!ありがとう!!大好き!!愛してる!!」
パパにもあつーい、あつーい、包容。ギュッと。
「百子〜!!」
「じゃ行ってきまーす。」
パパが抱きしめ返して来たのをサラッとかわして、直くんの家に急ぐ。
直くんに会いたい。
今すぐ、会いたい!!
✽✽✽
直くんの家の前。20時前になってしまった…
きっともうお兄さんも貴ちゃんも帰ってる。
チャイムを押す。
なんか…懐かしい。
小学校の時もこうしてお休みの直くんに会いたくて…家まできた。
会いたくて会いたくて、いてもたってもいられなくて、家まで来た。
『はい?』
お兄さんだ。
時間は違うけど、初めて直くんの家に来たときと…同じだ。
✽
「直くん、百子さんが来てくれたよ。」
お兄さんに家の中に入れてもらって、直くんの部屋の前にくる。
「なーおーくーん。」
私も声をかける。
――ガタガタ、ガチャ
慌てた感じの直くんが顔を出した。
会いたかった。思ったより元気そう。
「百子さん、ゆっくりしていってね。」
「ありがとうございます!」
お兄さんが階段を降りていく。
私は直くんの部屋にズカズカと入る。
…ん?ズカズカ?
ハッ!いけない!図々しい彼女になってる!!
驚く直くん、かわいい。…愛しい。