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三井家の秘密②


―――ピンポーン


不意にチャイムがなり、話が打ち切られる。


俺の頭の中は混乱している。


「あなた。」


叔母さんが声をかける。


「どうした?」

「結仁くんが来たけど…。」

「何だと。」


(兄貴が?)


キヨさんに叔父さんの家でご飯を食べて帰ると伝えた。

キヨさんから聞いたのか?なんで?俺は叔父さんと一緒にいたらだめなのか。





「何しに来た。」


通された兄貴に叔父さんが憎しみのこもった声で問いかける。


「申し訳ありません。直之がお邪魔していると伺いましたので、迎えに参りました。」


まだここでも子供扱いを受けるのか…


「お前…約束はどうした。端からこのつもりか。乗っ取るつもりだったんだろう!?家も!!会社も!!!」


叔父さんが怒ってる。こんなこと始めてで、俺は恐怖で顔をあげることが出来ない。


「滅相もありません。そのような気持ちは一ミリとてございませんので。」


兄貴は冷静に切り返す。


「大体、直之くんが一般社員と同じ扱いとはどういう事だ!!前社長の息子だぞ!」


兄貴だって高卒と言えど、前社長の息子だ。なのにずっと平社員だった。

俺も兄貴のように同じ事をして、学んで、兄貴を支えたい。それが目標だった。


「おっしゃる通りです。その話はまた今度にして頂けませんでしょうか?直之も疲れていると思いますので、本日はこれにて、連れて帰りたいと思います。」


兄貴は冷静だ。俺は初めての事で驚いているのに。


まるで…


いつもの通りといった感じで、叔父さんと話している。


「直之くんは渡さんぞ。帰るなら一人で帰れ。お前の本当の家にな。」


本当の家?


「お願いします。本日は直之を連れて、三井の家に行かせて下さい。」


三井の家って。兄貴の家でもあるだろ…。


頭がグチャグチャだ…。


「直之くん、コイツと帰るのは嫌だろう。今日はここに泊まりなさい。」


叔父さんから提案されてようやく頭をあげる。


兄貴が視界に入る。


傷ついたような…緊張しているような…いつになく兄貴が小さく見えて、兄貴に対する怒りも何もかもなくなって…このまま…兄貴を一人で帰らせられない。


「…今日は兄貴と帰るよ。叔父さん、また今度。」


兄貴が緊張が解けたような、ホッとしたような顔をした。俺が断るとでも思ったのだろうか…






今度は兄貴と一緒に車で帰る。

前には運転手さんと秘書さん。庶民派ぶってたけど、兄貴はやはりCEOだ。


なんで今まで家に乗り入れなかったんだろ。



着いた先は家ではなく、料亭。


兄貴と二人で降りて、運転手さんと秘書さんは帰って行った。


個室に通されて、兄貴と二人。


「直くん何飲む?何食べる?コースでいい?」


兄貴は元通りだ。


「ウーロン茶で…」



だけど、家ではなく、個室に連れてきたということは家では、話せない事を話すつもりなんだろう。


兄貴と二人、俺は先程の事を聞くことにする。




「兄貴は…お父さんと血が繋がって…ないの?」


「――うん。」


何それ……。


「じゃ、じゃあ。お母さんの連れ子?」


三井は元々お母さんの家だ。お父さんが婿養子だった。

お母さんの連れ子なら、兄貴は三井の子で…


「え?ああ、そういう考えもあるか。違うよ。」



―――、誰か嘘だと言ってくれ…。




「だってさ、直くん、考えてみてよ。直くんはお母さんが何歳の時の子供?」


?考えた事もなかった。確か…


「28歳だった…かな?」

「そう。お兄ちゃんと直くん、いくつ歳が離れてる?」

「…10歳。」

「俺がお母さんの子供だと、お母さんが俺を18歳で産んだことになるよ。」


…確かに。


「でも…産めない事もないし…」


「ありがとう、直くん。ずっと、…ずっと黙っててごめんね。俺は、お父さんとお母さんの子供じゃないんだ。」




鈍器で、ドーンと殴られたような衝撃だった。



「俺は五歳の時に、お父さんとお母さんの子供として、特別養子縁組を受けただけの…他人なんだよ。」


…他人って。


「直くんが産まれた時に、お父さんとお母さんにいつ伝えるか聞いたんだけど、成長してからって言われただけで、そして明確に決めないまま亡くなってしまったから。」


聞くと、色々と腑に落ちる事がある。


兄貴はいつも両親に敬語だった。余所余所しかった。


あぁ…そうか。


だから、兄貴が産まれたときの写真が…なかったんだ。



「兄貴は良かったの?」

「なにが?」


兄貴は暗い俺と違ってケロッとしている。何事もないように、普通の会話のように、話している。


「さっき、〝本当の家〟って。本当の家に帰らなくて…いいの?」


両親を亡くした俺と貴将に寄り添ってくれた。本当は自分の家に帰りたかったろうに…。


「直くんは優しいね。だけど、それは家がある人だから出る言葉だよ。」

「え?」

「直くんは本当にお父さんに似てるね。あぁ、お母さんにも似てるな。同じ事を言われたよ。お父さんにも、お母さんにも。〝本当のお父さんとお母さんがいなくて寂しくない?おうちに帰りたくない?〟って。」


兄貴が…見たことの無い冷たい顔をする。


「家が無い人間の気持ちなんて分からないだろ?」


家が無いって…


「今の…家は?」


兄貴が〝ただいま〟って帰って来てる家は、家じゃないの?


「直くんと貴ちゃんのおうち。俺のじゃないんだよ。」


喉がカラカラに乾いて、よく声が出ない。


「…兄貴の本当のお父さんとお母さんは?」


俺と貴将はもう会えないけど、兄貴は生きてるなら会えるじゃないか…


「さあね。父親の顔も覚えてないし、母親も知らないしね。」


凍てつくような聞いたことのない兄貴の声だ。


いつも、穏やかだった。


いつも、優しかった。


いつも、可愛がってくれた。


いつも、頼りになった。


いつも、受け止めてくれた。


どんなときも…俺と貴将の…兄だったのに…。




「直くん、今更だけど、だから直くんは婿にはやれない。直くんは正真正銘の三井家の長男なんだ。」


俺はずっと次男で…三人兄弟の真ん中で…


「叔父さんは何を勘違いしてるのか知らないけど、三井の会社は会長…直くんのお祖父さんの会社で、お父さんが跡取り娘のお母さんと結婚した。その義理で叔父さんが社長のポジションについてるだけで、叔父さんもこの会社からしたら…他人なんだよ。」


義理…俺は何も知らなかった。


「お祖父さん、お母さんの旦那様のお父さん、次は、直くんなんだ。直くんと貴将は、三井家の血を引く唯一の子供なんだよ。叔父さんとはそこの意見は一致してるから。守られるは、お血筋だ。」


血筋って…そんなに大事なのか?



「騙してて…ごめんね…。」



騙す?俺、兄貴に騙されてたの?




「そんなの、お父さんとお母さんが悪いんじゃん!!」

「え?」

「兄貴を養子にして、自分達の子供にしたくせに、俺が産まれたから、俺が長男なのかよ!!」


兄貴は悪くない。俺の兄貴は絶対悪くない!


「兄貴だって被害者だろ!?お父さんとお母さんに利用されたんだろ!?」


両親が亡くなって、寝食を削って働いて俺と貴将を育ててくれた。お父さんとお母さんがちゃんと兄貴を家族としてお金を残してくれてたら兄貴はこんな苦労も、惨めな思いもしなくてすんだのに。


俺はお父さんとお母さんを許せない。


「違うよ。直くん。俺が利用したんだ。」

「…え?」

「直くんも貴ちゃんも俺を買い被り過ぎだよ。俺は冷酷な人間だから。」

「…絶対嘘だ。」

「よく、誘拐された子供が一緒に暮らしている内にその誘拐犯を親と思ったりするとか言うだろ?それと同じだよ。直くんも貴ちゃんも。…俺はお父さんとお母さんの優しさにつけ込んで、三井に潜り込んだ人間だから。」


…。何を信じていいのか分からない。何が本当で何が正しいのか。


どこまでが本当で、どこからが嘘なのか…。





兄貴と血が繋がってない…



どうか…ここから…ここから嘘であってほしい。


「――ッ。」


あれ。


「直くん?」


喉が熱い。


「――ッ!」


乾いて、カラカラする。


「直くん!」


あ、昔と同じだ。お父さんとお母さんが急にこの世からいなくなった…悲しくて、悲しくて…泣き叫びたいのに…


声が出なくて…



兄貴は…ずっと…俺の兄貴だったのに…



駄目だ。声が出ない。

詳しくはシリーズ作品

〝お兄ちゃんのこれまで〟と

直くんのお父さんとお母さんの〝政略結婚の裏側に…〟をご覧下さい(*^^*)


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