直くんの土曜日
土曜日。
兄貴は貴将のラグビーについて行った。キヨさんは買い物に出かけた。
家には一人。
(百子に頼まれたアルバムを探そう。)
まずは書庫。久しぶりに入る。
俺は自分の家なのにあまり家の事を分かってない。以前は使用人も沢山いて人が沢山出入りしていた。部屋数もかなりあり、知らない部屋もある。
家の事を全部兄貴に任せっきりだった。…俺もこの家の子供なのに。
本当に俺は人として何かが足りない。
兄貴に教えてもらいながら、家の事ももっと知ろう。
月の生活費がいくらかかるのかとか、なんかもっと色々。
百子と一緒にいるためには分からないといけない事がいっぱいある。
百子に聞いても、絶対分からないだろうし。
(俺がしっかりしないと。)
…探したけど書庫にはない。あるのは本だけだった。
次は書斎。
書斎はあまり好きではない。以前は祖父が使っていたらしいが物々しい雰囲気があって、あまり入りたくない。
書斎に入ってすぐにアルバムが見つかった。
(奥まで行かずに済んで良かった。)
俺が産まれて間もないときの写真。まだ生きていた両親がニコニコと嬉しそうに微笑んでいる。
(うん、思ったより、感傷的にはなってない。)
久しぶりに、両親の写真を見る。…見れる。
懐かしさがこみ上げる。
(お父さんとお母さんだ…)
確かに、どちらかと言えば俺はお父さん似だ。百子と貴とお母さん。うーん…。…いや、認めたくない。
貴と百子が似てるのだけは認めたくない!!
兄貴は確かにそうだなぁ。あまりどちらにも似ていない。
おじいちゃん似か。隔世遺伝。…おじいちゃんの写真が無いしな。
両親がマメだったのか、かつての使用人がしたのか、俺と貴の産まれてからの写真が時系列でキレイに並べられている。
ん?俺と貴将?
兄貴の写真がない。
産まれたときの、兄貴の写真。
〝直之0歳〜〟〝貴将0歳〜〟のアルバムがあって、年齢毎に新しいアルバムがある。
(兄貴のは?)
…そうか。俺と貴将と違って、兄貴は両親の死を理解していたし、両親を大切にしていた。
俺と貴将は4歳差だけど、俺と兄貴は10歳も違う。これまでも色々と扱いが違ったし。
だから、
(自分の部屋にでも置いているんだろうな。)
特に気にも止めずに、俺のアルバムだけを見て、百子に見せられそうか確認する。
恥ずかしい。見せないとだめかな。
俺は百子を知ったのは小学4年だけど、元は幼稚園から同じだ。
(それまでの写真で勘弁してもらおう。)
今思うと、惜しいことをしたな、と当時の事を思う。
せっかく幼稚園から一緒だったのに…。
まだ幼くて小さな…動く百子をこの目で見ることが出来たのに。
幼稚園からやり直したい。百子とずっと一緒にいることが出来たのを棒に振ってしまった。
悔やんでも悔みきれない。
せめて、百子が告白してくれる前に戻れたら…
もう、ずっとそんな思いが巡っている。
まだ社会人になって一週間。未来について考えることのほうが大きい。
百子とずっと一緒にいたい。
…それを俺は自分の口から言いたかったのに。
百子の両親から…外堀から埋められてしまった。
俺はいつも格好がつかない。