名前だけでこんなにも愛しい
「お待たせー!!」
百子が戻って来て、ここでお父様との話は終わった。
「もう、本当に山ほどあってねぇ。」
お母様も本当に山ほどあるアルバムを抱えて戻って来た。
凄い量だ。
✽
(かわいい…。)
百子が産まれてからの写真を眺めて、思う。
別に子供を見てかわいいと思った事はない。百子だから、かわいい。
「どうだ。うちの娘は。かわいくて仕方がないだろう。」
お父様が自信満々に言う。
「はい。」
お父様の気持ちがとてもよく分かる。激しく同意という言葉はこういう時に使うべきだろう。
「もう、あなたったら。直くん、百子が産まれて来たとき、それはそれはもう嬉しくて…この人も大喜びでね。」
こんなにかわいい子供が産まれたら、それは大喜びだろう。
「100本のお花を買って帰って来てくれたのよ。」
花か。花屋に気軽に行けるように訓練しよう。
「同じ種類の花が100本ってそうないから、色とりどりの沢山の種類の花を買って来てね。」
この写真の事だ。産まれたての百子の横に大量の色とりどりの花が写っている。
「こんな風に色とりどりでカラフルな楽しい人生を送ってほしいと思って〝百子〟と名付けたの。」
…そうだったんだ。
「知らなかった!」
百子も今知ったのか。驚いてる。
〝古風な名前が恥ずかしい。自分の名前に自信がなかった〟以前百子が言っていた事を思い出す。
どんな名前にも、必ず意味があって、思いがある。
百子が〝百子〟で良かった。名前だけで、こんなにも愛しい。
「私もっとかわいい名前が良かった。」
これ以上のかわいい名前なんかないだろ。
「これ以上最高の名前はない!」
お父様が言う。激しく同意。
…名前か。俺の由来は分からない。兄貴かキヨさんに聞いたら分かるのかもしれないけど。
けど、どうだっていい。誇りを持とう。自分の名前だ。
「うん、直くんが百子って呼んでくれるから、今は気に入ってる。」
「…〝百子〟?」
「すみません。」
百子はもう少し俺に気を使ってほしい。お父様に睨まれる。先に謝っておこう。
「直くんはうちの百子にピッタリよ〜。だって次男だし。ねぇ?」
お母様が急に話しだした。
(え?)
「直くんはお兄さんがいるし、うちに婿に入ることも可能よね。ほら、ここに直くんがいるのしっくり、ピッタリ。ね、あなた。」
「…そう言われれば」
お母様が続けて話し、お父様が納得する。
「あ、えっと…それは私の一存では決められませんので…」
そんな事を全く考えて無かった。婿…
「直くん〝本田〟になるの!?本田直之!合う!!」
えーっと…。
「部屋も余っているし。直くんがここにいるのしっくりくるわ〜。ねぇ?あなた。直くんとならあなたと百子もずっと一緒よ?」
「…そう言われれば。」
いやいや、なんで勝手に話が進むんだ。
亭主関白かと思ったが違う!百子の家庭はお母様がナンバーワンだ。
「じゃあ私と直くんの事認めてくれたのね!?ヤッター!!」
「決まりね。」
「認めたわけでは無い!」
駄目だ。ここだと3対1だ。物凄く肩身が狭い。
「あ、あの!」
このままだと丸め込まれる。
「す、すぐに決められる事ではありませんし…」
「やぁだ、直くん。冗談よぉ。」
冗談か。びっくりした。お母様は恐い人だ。
「お兄さんに聞いてみなさい。話はそれからだ。」
お父様、認めていないって言ってたのに。
(俺まだ百子にプロポーズもしていないんだけど。)
「は…い…」
アウェイだ。
名前の件は単発番外編の〝直くん、呼び名分かってる?〟にて!
宜しくお願いします(*^^*)