真面目で信頼の置ける男
まさかのお父様、遭遇。
百子の情報は基本的にアテにならない。しかも約束の18時を過ぎて一緒にいる現場を見られてしまった。
…最悪だ。
「直くん、沢山食べてね。」
「ありがとうございます。」
百子のお母様が俺に料理を勧めてくれる。お父様は俺を無視して百子の世話を焼く。
この百子とお父様の図は…俺と百子が二人のときの食事風景と同じような気がする…。
食べる百子に、取り分けるお父様。
「直くん、ごめんなさいね。居心地悪いでしょう?」
百子とお父様の二人の世界をまざまざと見せつけられていた俺にお母様が声をかけてくれた。
「いえ。…百子さんはいつも明るくて素直で…その理由が今よく分かりました。思っていた通りの…温かい家庭を見ることが出来て、嬉しいです。」
俺にはない百子のいいところ。俺が真似しても出来ない百子の凄いところ。
「ふん、君のところはどうなんだ。」
「パパ!」「あなた!!」
お父様に話を振ってもらったと思ったら二人に止められた。
「直くん、ごめんね。気にしないでね。」
お母ように気を使われ、百子が物凄い眼力でお父様を睨んでいる。怖い。やめてあげてくれ。
「いえ。もう10年以上も前のことですし、特に何も思っておりませんので。」
俺から話を振ったのに、お父様の肩身を狭くさせてしまった。
「え。じゃあ私直くんが小さいときのアルバム見たい!」
「え?」
百子から急にそんな事を言われ驚く。アルバム?
「百子。もう〜、直くんごめんなさいね。図々しい子で。」
「ママひどい。」
あぁ。子供の時だと両親が写っているからか。
百子は気を使って言い出せなかったんだろうな。
確かに、もう会えない両親を見るのが嫌で、亡くなってから一度も見ていない。どこにあるか分からないけど、捨てられてはないだろう。
多分、今なら見れる。…百子がいるから。
「探しておくよ。」
「本当!?ヤッター!!」
子供の時か。恥ずかしいけど、百子が喜ぶなら。
「直くん、百子のアルバムも見る?」
「はい。是非。」
お母様が提案してくれた。それは見たい。
「山ほどあるわよ。ビデオも。持ってくるから、待っててね。百子、手伝って。」
「はぁい。」
そう言って二人は別室に行ってしまった。
…お父様と二人きり。食事も終わっている。
気まずい。無言の空間だ。
「あの…先日は申し訳ございませんでした。」
「何が。」
意を決して、話す。
「この一週間働いてみて、自分はまだまだとても子供で。それを痛感致しました。」
兄貴と勝手に比べて、挙句の果てに八つ当たりまでして、俺は子供だった。
「認めて頂けないのはごもっともだと、痛感しております。」
だから、目標を持って働く。
〝認めてもらいたい〟これが目標だ。
「…私はな。百子がもう少し…いや、かなり歳をとっていたら」
お父様が話し出す。歳?
「私は百子に君を奨める。」
「…?」
「君が真面目で信頼の置ける男だとは分かっている。」
「ありがとうございます…。」
褒められた?
「娘を任せるなら、君しかいないと思っている。」
え。
「だかな。今は認めんぞ。君が自分を子供だと言うように、百子はまだまだ私のかわいい子供なんだ。そう簡単には認めるか!」
「あ、ありがとうございます。」
えっと…今現在は認められ…てる?
「守っているそうじゃないか。18時どころか、17時50分。」
「はぁ。」
それは、約束だから。一度約束という契約を交した以上、守らないという選択肢はないと思う。
「君の事は認めている。だが、娘の彼氏としては認めていない。」
「はい…。」
ということは、百子の彼氏として認められるように頑張ればいいのか。
〝君の事は認めている〟良かった。嬉しい。
今日、お父様に会えて良かった。…百子のおかげだ。