直くん一人。テイクアウトで!
〝うちにご飯食べにおいで。〟
金曜日、今日は木曜日。明日?
「入社後初めての金曜日。恋人達はデートをするのが定番よ。」
そうなのか。
「だけど、私は帰らないといけない。さぁ困った。」
…なんか一人劇場が始まった。
「ピコーン!直くんをお持ち帰りしたらいいんだ!!」
このまま芝居を見てたらいいんだろうか…
それとも何か相槌を打つべきなんだろうか。
「そう百子探偵は思いついたのでした。」
…探偵。推理劇場だったのか。
「ちょっと直くん聞いてる?」
「あ、ああ。」
相槌を打つべきだったみたいだ。
「直くん一人。テイクアウトで!おーけー?」
俺はさながらファーストフード…。
「お父様とお母様はなんて言ってる?」
ここは一番重要な問題だ。
「ママは一緒に帰っておいでって。」
うん、それは前に聞いた。一番聞きたいのは…
「パパはその日は歓迎会。邪魔者はいない。」
「邪魔者って…」
俺も歳を重ねたら百子に邪魔者扱いを受けるんじゃないだろうか…
「決まりね!」
…俺はまだ返事をしていないが。
「うん。」
だけど、別に用事があるわけでもない。この表情豊かに楽しそうに話す百子を前に断るという選択肢は無い。
お母様に気に入られるように、頑張ろう。
✽✽✽
「新入社員一同、よく聞けぃ!」
午後一番。塚本部長から声をかけられる。
「今から新入社員全員を営業に連れて行く!」
は?全員?
「本当は研修中の新入社員を先方に紹介する事は無い!」
営業に行ったことがあるのは高田さんに連れられた百子が一度だけ。
だけど今の塚本部長の話だと研修期間に外回りなど本来は行かないみたいだ。
要は高田さんは百子を勝手に連れ出した。まぁ。百子が営業向きで高田さんは仕事以外の他意はなかったかもしれないけど。
…いや、ここは正直に思っていい。高田さんは百子と二人になれるように仕組んだんだ。俺に見せつけるように。
「だがな!昨日の新入社員のヤル気を見て、CEOがご提案して下さった!馴染みの会社だ。緊張する事はない!社会科見学程度の気持ちでおれ!」
…兄貴が?なんだ、おせっかいか。
「〝わざわざ声をかけてくれたから。せっかくだから皆連れて行って〟とのお言葉だ!」
兄貴と話してみたいと言っていた同期の新入社員が確かに声をかけた。それで兄貴が気を使ったのか…
それとも、昨日の百子と高田さんの現場を見て二人にさせないように仕組んだのか…
流石。誰一人として不快にさせることなく問題を終結させる。
意図的だろうけど、聞いても上手くごまかされるだろうな。
「よって、今からゆくぞ!!」
…さっきからの塚本部長のこの変な話し方は時代劇風だったのか。
もしかして今流行ってるのかな。百子もさっきしてたし。
俺は無知だな。
〝金曜日、恋人達はデートするのが定番よ!〟
…覚えておこう。
直くん、劇は多分流行ってないと思います(^_^;)