ファーストコンタクト
ふと目を覚ました。小鳥のさえずりが聞こえる。
朝だ、新しい朝。
今日から小学四年生となる。今日は始業式だ。
学校に着き、張り出されたクラス替えの名簿で自分の名前を探す。
「えっと、本田……本田……あっ! あった! 本田百子!」
自分のクラスを確認でき、安堵したのもつかの間、その一つ飛ばした名簿の名前に驚く。
「同じクラスだ!」
(三井くんと。やっと……やっと……やったー!!)
✽
本田百子、今日から小学校4年。
私にはずっと好きな人がいる。その人とは接点もないし、喋った事もない。
だけど、ずっと気になってる存在。
その彼は、三井直之くんという。
彼と初めて会ったのは幼稚園の入園式のとき。
両親に手を引かれて歩く。皆が同じ状況だ。
その中で、なぜかそこだけが気になって仕方無い。
私はその先へと視線を移す。
その両親の中心にいたのは、――男の子?
ひと目見て、心を奪われた。
制服は男の子の物を着ている、つまりあの美しい子は男の子で。だけど、キレイという言葉がしっくりくるくらいその子は美しかった。
まさに美少年。
ショーウィンドウの中のキレイな物を眺めるように、私はその男の子をずっと見ていた。……ずっと。
そして入園式で彼が名前を呼ばれ、彼の名前を知る。
――トクンと私の心が騒いだ。
その時は恋とか分からなかった。ただ気がつくと探してる、目で追ってる。
自覚したのはいつからだろう。今はもうはっきり分かる。
私は三井くんが好き。
✽✽✽
教室に入り、指定された席につく。名字が近い事もあり、二人の席は近かった。
私の席から二つ後ろの席。見えないけど、全神経が今、後ろにある。
(何か……何か接点を持ちたい。 話してみたい。 声が聞きたい)
私は緊張とそれ以上の気持ちが抑えられず、勇気を出してついに席を立ち、彼の側に寄り声をかける。
「あっ、あの、これから宜しくね」
緊張した面持ちは隠せなかったが、なんとか口角を上げ、笑ってみた。三井くんは配られた教科書を読んでいる。
「……」
三井くんからの返事はない。
少しして三井くんは無表情を崩さず、声が聞こえた私の方へ、そっと目線を移してくれたがすぐに反らし、やはり言葉はなかった。
(な、何か言ってよ……)
私は、沈黙の空間に耐えられず、何とかヘラっと笑いその場を後にする。
(怖かった! 緊張した! ……私、嫌われてるのかな? 無視されちゃった……)
暗く、悲しい気持ちが占領しながらトボトボと自分の席に座り直す。
(三井くん、どんな人なのかな……?)
✽✽
「……」
クラスの女子から声をかけられたようだった。
頭の上から声が聞こえて来たけど、あれは俺に向けて話しかけられたのだろうか?
俺は元々、口数は少ない方だと思う。人と話すことも苦手だ。
そこに、更に追い打ちをかけるように、今回の小学校4年に上がる春休みに入ってすぐに、両親を交通事故で亡くした。
そのショックはとても大きく、失語症を患った。幸い1週間ほどで退院し、声もソコソコ出るようになってはきたが万全とは言えない。
いきなり話しかけられても、声が出ない。
両親を亡くしたショックからは抜け出せない。
人と交流を持とうとする気力すらない。
話しかけられたのかもしれないけど
……喋る気力もわかない。