表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラムネ*サバイバル  作者: きゃらめるぷりん伯爵
現世
5/5

答えと旅立ち

(AM11:45_小台橋周辺)


私達は祭子ちゃんの家を後にすると、小台橋の方向からヒーローショーステージへ向かうことにした。入園料がかかるからね……


「あ、お姉ちゃん!」ちくわの散歩をしている妹にあった。


「お久し振りです小梅ちゃん」


「祭子さん、お久し振りです!相変わらず可愛い」


「小梅ちゃんこそお綺麗になって」

 2人は昔も仲が良かったっけ。といっても小梅が祭子ちゃんに一方的にめちゃくちゃ懐いてたような気もするけど。


「おっ、誰だー?あっ犬もいる」


「ラムネの妹じゃない?……あの犬噛みつかないわよね」


 2人に妹の紹介をし終えると突然妹のスマホが鳴った。


「お姉ちゃんお願い!急用ができちゃって、ちくわの散歩をしてもらえないかな?」

 ええ……私も友達と遊んでいる最中なのに……


「ラムネちゃん良いじゃないですか。私もちくわちゃんの散歩をしてみたいです」


「祭子ちゃんがそういうなら……」


遊園地は家からそう遠くないし、ヒーローショーのステージ奥の柵も今日は確認するだけだし、まぁいっか。


「なぎさちゃん、リンリンごめんね。いいかな?」


「わたしは良いよー」仰向けになって服従のポーズをしているちくわのお腹を撫でていた。

 既にちくわを支配下においてる?!なぎさちゃん、なんて恐ろしい子……


「あ、あたしも……いいわよ……」最後のほうは声が小さくてよくきこえなかった。こりゃあ苦手なんだろうな。


 小梅からリードを受け取ると私達はヒーローショーステージに向かって再び歩き出した。


 ステージに着くと誰もいなかった。昔は休日になると頻繁にショーが行われていた気がするけれど、今は年に数回開催されるだけだった。


 ステージから急勾配の坂の側面に沿って歩くと古びた鉄の柵の見えてきた。


「高いけど越えられない高さじゃないわね」


 リンリンの言う通り高さは1.5メートル程度で高校生の私達なら登って向こう側へ行ける気がした。


しかし、柵の向こうは、綺麗に舗装され安全が確保されているこっちとは明らかに異質な空気が漂っていた。

 

電灯すらありそうになかった。


「どうしましょうか」祭子ちゃんの言葉で皆んなが顔を見交わした。


「どんな感じか分かったことだし、今日はやめた方がいいわよ……犬もいるし」リンリンは少し恐がっているみたいだった。


 私を全員がリンリンの意見に賛成した。


「また来ようかー。今日は別の場所を調べよう」なぎさちゃんがそう言うと来た道に戻ろうとした。


 ワン! ワン! ワン! ワン


 急にちくわが吠え出した。

 すると私が握っていたリードを振り払って柵をよじ登り、向こう側へ走って行ってしまった。


「ちくわ!」

「ちくわちゃん!」

 4人一斉に声を上げたが、ちくわは振り返ることもせず後ろ姿が小さくなっていった。


 全員が唖然としている。


「皆んな、私行ってくるよ」と私は言うと皆んなに引き止められた。


 3人は目で合図をした。


「いや、わたし達も一緒に行くよ。友達でしょ?」

 嬉しくて涙が出そうになったけど、今はちくわが心配だったから急いで古びた鉄の柵を登って向こう側へと降りた。


 地面はコンクリートのようだったけど、草が生い茂っていてよく確認出来なかった。


 左側は坂の側面が高く切り立っている。反対側は隅田川だけど、転落防止用の柵はなかった。


「柵ないけどこれ踏み外したら隅田川に落ちちゃうじゃない!」


「美鈴さん、地面の幅は2メートルはありますし、隅田川に近づかなければ大丈夫だと思います。ですが、ここら一帯の墨田川の水深は4メートルはありますし、梯子やロープといった救助道具もありませんから落ちたら死んでしまうかもしれません」


「ちょっと恐いこと言わないでよ!風祭さん」


「あれ〜?皆んなこれ見てよ」なぎさちゃんが隅田川を覗き込んで何かを見ている。

 落ちないように摺り足(すりあし)でジリジリと進んで隅田川を覗き込むと、そこには金魚がプカプカと仰向けで浮かんでいた。


「あら、これは……」祭子ちゃんが驚いた表情で私を見た。


「金魚がどうかしたの」と、リンリンが喋った。


「はい。汽水域の話はしたと思いますが、金魚は同じ淡水魚のコイやフナよりも塩分に対する耐性が低いのです。なので汽水域であるこの付近の隅田川では金魚の生息は確認されてはいません」


「へぇそうなのか……わたしの知り合いに金魚と海水魚を一緒の水槽で飼っていた人いたぞ?」


「そうですね、なぎささん。塩分の耐性が低いといっても多少であれば問題ありません。塩分濃度を調整すればそのような飼育の仕方も可能です。さらに、病気のときに《塩浴(えんよく)》といって、塩を入れた水で金魚の回復力を高めたり治療をしたりする方法もあります。しかしそれでも0.5%程度の濃度です。ここ一帯の水域は0.8%はありますから金魚が住処にするには忌避される環境だと思います」


 じゃあこの金魚はどこからか流れてきたか、誰かが逃したってことになるけど、今までの話から考えると荒川遊園地のスワンの池から逃げ出したって思う方が自然だよね。


「やっぱりスワンの池とこの隅田川は通じているね」

 なぎさちゃんがそう言うと祭子ちゃんはコクッと頷いた。


「先を急ごう」


「そうですねラムネちゃん」


「海底に穴でもあるのかな」リンリンは不思議そうだった。


「じゃあリンリン泳いで探してきてよ!」


「なんですって!なぎさー」


 金魚を発見したことで、私達の推測が正しかったと分かり、皆んなの声が少し弾んでいた。


 少し先に進んだところでリンリンが悲鳴を上げた。


 キャーーーーーー

 驚いた私達はリンリンの視線の先みると隅田川にゾッとする光景が広がっていた。


「これってコイとフナの死骸だよね?」なぎさちゃんも眉間に皺をよせていた。


 どうやら10匹はプカプカと浮かんでいるみたいだった。


 その先には川の流れの向きとは違う方向から水流が発生していた。


「もしかしたらあそこが遊園地の池と繋がっている場所ではないでしょうか」祭子ちゃんは水流の方を指差して言った。


「ちょっと待って、水流があるところの反対側をみなさい」


 リンリンの指示する方を見ると、高く切り立った坂の側面に高さ1メートル、横幅2メートル程の洞窟らしき穴の入り口があった。


 近寄ってみると腰を屈めば入れそうな穴で、かなり奥まで続いてそうだった。


「祭子ちゃん」


「ええ、この穴の位置、と水流の場所と方向、スワンの池の方角……どうやら私達の考えた通りかもしれませんね」


「魚が死んでいるってことは、この水流はまた海水が昔の時代から流れ込んできたってことになるのかしら」


リンリンが難しい顔をしながら祭子ちゃんに話かけた。

「その可能性はありますね。そして、その答えはこの穴の奥にありそうです」


「でも危険だよ、それにちくわも……」


「そうですねラムネちゃん。でも、耳を澄ませてよく聞いてください」


 ……ワン………ワン


 穴の奥からちくわの声が響いているのが分かった。ここに入って行ったんだねちくわ。


「よーし、いこう」

 なぎさちゃんがそう言うと、背負っていたリュックの中から懐中電灯を取り出した。


「薄暗いからね、あると便利だと思って」

 用意周到だった。


 なぎさちゃん、リンリン、祭子ちゃん、私の順に洞窟の中にはいった。中腰の姿勢で中を少し進むと徐々に天井が高くなり、幅も広くなってきた。


「なんか探検しているみたいでワクワクしてきた」

 なぎさちゃんは嬉しそうな声を出した。


 中はゴツゴツした石の壁になっている。地面は少し湿っていて苔が生えていた。肌寒く、薄暗いのも相まって今にも何か怪獣でも出てきそうな雰囲気だった。


「リンリン知ってるー?隅田川って河童伝説があるんだ」


「な、何よなぎさ、こんなときに」声が震えていた。


「昔ね、隅田川には河童の巣がたくさんあってね、人間と共存していたって話があるんよ。ときには人に協力することもあったらしくて、一緒に橋を作ったって言い伝えもあるらしい。今はもう見かけないけど、こういう場所ならひっそりと暮らしててもおかしくないかなーって」


「ば、馬鹿なこと言わないでよ、黙って前に進みなさい」リンリンはなぎさちゃんの服をギュッとつかんだ。


「ちくわーどこーちくわー返事してー」


 私が名前を呼んでいるとワン!っと声が聞こえた。


 私が走って行くと前からきたちくわに押し倒された。


 くぅーん くぅーん


 良かった……無事で。


「ちくわちゃん見つかって良かったです。危険ですから今日はもう引き返しましょう」


 全員が同じ気持ちだった。


 引き返そうとしたときになぎさちゃんが何かを見つけた。


「皆んなーあれ、でっかい湖があるよ」


 湖の一帯は天井が高く、とても開けた場所だった。


蒼く透明なその湖は不思議と吸い込まれるような魅力があった。


「まるでセノーテのようですね」


「セノーテ?」私は祭子ちゃんに尋ねた。


「ええ、ユカタン半島に自然にできた欠陥穴に地下水が溜まった泉のことで、セノーテとはマヤの言葉で《聖なる泉》という意味らしいです」


「ほんと綺麗ね。ずっと見ていたいわ」リンリンも洞窟の恐怖も忘れて見惚れている。


 ウぅ〜ワン! ワン! ワン! ワン!


 すごい勢いでちくわが吠え出した


「どうしたのちくわ?」


 ちくわをなだめているとセノーテに巨大なカメが出現した。


 2メートルはありそうな甲羅を持つカメはゆっくりと泳いでいる。


「何あれ何あれ」なぎさちゃんのテンションが上がった。


「あの大きさのカメというと中生代白亜紀の後期、今から1億4500万年前から6600万年前に生きていたとされる巨大なカメ、アーケロンだと思います」


 馬鹿デカいアーケロンが蒼く透明なセノーテに泳ぐ姿はとても幻想的で不思議と恐怖を感じなかった。


 ここにいる全員が同じ気持ちだった。


 しばらくここに居たい。そう思ったときにセノーテの海底から突如大きさを測りきれないほどのサメの頭がアーケロンを突き上げた。


「メ、メ、メガロドンです―――」


「キャーーーーーーなによーー」


 辺り一帯を水が襲い、祭子ちゃんの声やリンリンの悲鳴を聞きながら私達はセノーテへと消えていった。


こうして私たちは海獣、恐竜が跋扈(ばっこ)する未知の世界で命をかけた過酷なサバイバル生活を強いられることになった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ