落胆と推理と希望
(PM2:00_荒川遊園地前)
「入場券200円?安いわね」リンリンが驚いている。
「あはは、凄いでしょ?平日だったら中学生以下は無料なんだよ。だからここら辺に住んでいる子供は学校終わりに気軽に遊びに来られるんだ。私達も毎日のように来たよね。ねー祭子ちゃん」
「ねー♪」祭子ちゃんが笑顔で返事をした。
入口でスタッフのお姉さんに購入したチケットを渡した。半分に千切って返してもらってゲートをくぐると昔と変わらない景色が広がっていた。
なぎさちゃんは目を輝かせて周りをキョロキョロしている。喜んでいるみたいで嬉しかった。
「これからどうするのよ」リンリンが私を見ている。
「さっそくだけどスワンの池に行こうか。手掛かりを探しに来たことだし。いいかな?祭子ちゃん」
「はい、参りましょう」
小さい池だけどスワンの池の周りには木々が植えられていて、この時期には桜の花が咲いている。
散った桜の花がうっすらと花筏となって水面を演出していた。
池には白鳥や鴨がいて、真ん中には小さい橋が架けられていた。今見ても風情があってとっても綺麗だな。
「何か見つかった?」スワンの池を隈なく探したあとに、私は皆んなに聞いた。
「何もないわね」
「何もなかったよー」
「私も同じです」
皆一様に落胆している。
「6年も前のことだし、何も見つからなくても想定内だよ!まだまだやれることはあるだろうし、頑張ろうよ皆んな」
「ええ、ラムネちゃんの言う通りです」祭子ちゃんの目にはまだ光があった。
「でも次はどうするのよ」
リンリンが少し疲れた顔で言った。
「皆さん、明日私の家に来ていただけませんか?見せたいものがあります。
「明日って創立記念日休みだったよねー?まつりこの家なら、わたしは行きたい」なぎさちゃんはウキウキしていた。
「あ、あたしも?」
「リンリンは行かないのー?」と笑いながらなぎさちゃんが言うと、リンリンはムッとした表情をして叫んだ。
「い、行くに決まってるでしょー!」
見せたいものって何だろう。会話の流れ的にネッシーの赤ちゃんに関係するなんだろうけど。
それに祭子ちゃんのお父さんなら何か分かりそうだな。
そんなことを考えながら私も祭子ちゃんに返事をした。
「明日のことは決まったけど、このあとはどうしよっか」と、なぎさちゃんが喋ると祭子ちゃんが目を細めて笑いながらこう言った。
「遊びましょう♪遊園地ですから」
そのあと私たちは触れ合い広場で動物を見て、ミニSLで園内を回り、パラソルが刺さった丸いテーブルでアイスクリームを食べた。最後には観覧車に乗って荒川区の街並みや東京タワーやスカイツリーを見ながらお喋りをして家路についた。
2019年4月9日、荒川区。
(AM10:00_風祭家前)
私が祭子ちゃんの家の前に到着すると、既にリンリンとなぎさちゃんが待っていた。なぎさちゃんはラフな格好でパンパンに膨らんだリュックサックを背負っている。一体何が入っているんだろう。一方リンリンはとてもガーリーな服を着ていて、とても対照的な2人に見えた。
私は2人に挨拶を交わしてインターホンを押した。
「それにしても立派な家ね。こんな門がある家なんてなかなか見ないわよ」私となぎさちゃんは初めてきたわけじゃないから驚きはしなかったけどあれが普通の反応だと改めて思った。
「祭子ちゃんのお父さんは有名人だからね。大学の名誉教授だったりするし」私の言葉にリンリンは眉を上げて驚いた表情をしていた。
「ようこそいらっしゃいました。ご足労おかけして申し訳ありません」門が開いた先にはフグの帽子を被った祭子ちゃんが出迎えてくれた。私服姿も可愛いなぁ……
門の中に入ると庭には立派な池があって淡水魚らしい魚何匹も気持ち良さそうに泳いでいた。
家の中に案内されると数々の水槽が目に付いた。
「水槽もそうだけど、魚の写真や魚の絵も凄いわね」リンリンがキョロキョロと額に入った魚の写真や絵を見渡している。
「ええ、その写真や絵はお父さんの作品です。私以上に水生生物がお好きな方ですから」
「ここまでくると感心しちゃうわ」とリンリンが素直に褒めた。
「ここが私の部屋です。どうぞお入り下さい」
祭子ちゃんの部屋は昔と変わらずに物が少なかった。ただ、生物の本や魚のフィギュアはお店が作れるほどに溢れていた。
絨毯の上やソファにそれぞれ座った私たちに、祭子ちゃんがジュエリーを入れるような手のひらサイズの箱を見せてくれた。
「なんだそれ、まつりこ」なぎさちゃんは腰を上げて覗き込むように箱を凝視した。
皆さんにお見せしたかったのはこれのことなのです。
パカっと箱を開けると中には三又に分かれたカブト虫のような長いツノを持ち、脚が何十本もある、体長10センチ程の虫が入っていた。
ギャァーーー
「ちょっとあんたなんてもの見せんのよ」リンリンが悲鳴をあげた。
「おおーこれって三葉虫?」なぎさちゃんは目キラキラさせて食い入るように見た。
「はい。これはトゲが三又に分かれた三葉虫でワリセロプスという名前らしいです。愛好家たちにはロングフォークと呼ばれ、高値で取引されているそうです」
見た目は気持ち悪いけど凄いものなんだね。
「って、これ化石じゃないじゃーん」なぎさちゃんが声を上げた。
「はい、このワリセロプスは6年前、私が1人でネッシーさんの手掛かりを探していたときに荒川遊園地のスワンの池で見つけたものです。
今は動かなくなってしまいましたが、発見当時は確かに生きていました」
「これってあの池になにかがあるって証拠だよね」
「私もラムネちゃんと同じ考えです」そう言ったあとに祭子ちゃんが続けて話した。
「ワリセロプスは古生代のデボン紀に生きていたとされる生物です。私とラムネちゃんが発見したプレシオサウルスは中生代のジュラ紀ですから2億年以上の開きがあります。また、生息していたとされる場所も異なっています」
衝撃的な話を聞かされて3人とも考え込んでいるようだった。
「これが私のお見せしたかったものです。なぎささんと美鈴さんにはネッシーさんの話も半信半疑だったと思いますので、これで取り敢えず、あの遊園地一帯で何か不思議なことがあったということは証明できたのではないかと思います」
「わたしは最初から疑ってなんかいないぞー」なぎさちゃんが祭子ちゃんのほっぺたを人差し指でツンツンしている。
「何言ってんの、あたしも信じてたに決まっているじゃない」
リンリンは斜め下を見て視線を外した。
これで活動を継続していく決心は皆んなついたけど、このあとはどうやって探せばいいんだろう。
「皆さん、もうひとつ、お見せしたいものがあります。よろしいですよ、お父さん!」と部屋外へ向かって声を掛けた。
ガチャ……
「うわー変な人!!」リンリンが声を上げた。
「ギョッ! ギョッ! ギョッ!」
祭子ちゃんと同じのフグの帽子を被り白衣を着た祭子ちゃんのお父さんの姿があった。
「ちょっと、祭子ちゃん。お父さんをモノ扱いは酷過ぎるよ!」と少し甲高い声で祭子ちゃんを叱った。
「ごめんなさい、尊敬している大切なお父さんですよ」
「お父さん」と続けて一言祭子ちゃんが言うと、被っていた特徴的な帽子を外した。
すると渋くてとても良い声に様変わりした。
「改めて、皆さんいらっしゃい。なぎさちゃんとラムネちゃんはお久しぶりだね。そちらの可愛いお嬢さんは初めてかい?」
心なしか顔つきまで変わってイケメンになったような気がする。
「カッコいい……」何かボソッと小声でリンリンが喋った。
「は、はい。初めてましてお父さん、わたくしは美鈴すずと申します。学校では祭子さんの面倒をみている一番の親友です」
え?リンリン何言ってんの?
そういえば、祭子ちゃんのお父さんはいつもそうやって初めて会った人を毒牙にかけるんだよね。良い人には違いないんだけど……
「そうか、これからも娘を頼むよ。でもごめんね、すずちゃん。僕には祭子ちゃんという、心に決めた大事な人がいるから、君の気持ちには答えられそうにはないんだ」
調子に乗り出した。
「お父さん、違うでしょ」珍しく怒った口調で祭子ちゃんのお父さんの耳を捻り上げた。
「イタタタタタタタ、ごめん、ごめんなさい。祭子さん許して下さい」
「実はですね、昨日今までのネッシーさんのお話をお父さんにも相談したんです。何か力になってもらえると思いまして。こう見えてもお父さんはスペシャリストですから」
「祭子ちゃん、こう見えては余計だよ」痛がる耳をさすりながら言った。
「それで何か分かりましたか?」
「うん、話を少し整理しようか。ネッシーが見つかる前々日に荒川遊園地の池で魚の大量死があった。それと同じ日に隅田川の一部の範囲で魚の大量死があった。そしてその現象はその後10日程度続いた。ネッシーが姿を消した日はその現象が止まった日と大体同じ日だった……と。そうだったね?」
「はいその通りです」
「ちょっとラムネ、あんた時系列を書いてみなさい」
リンリンが私に命令した。自分で書けば良いのに、と一瞬思ったけど、詳しく時系列を把握しているのは当事者の祭子ちゃんと私なのだから当たり前か。
私は祭子ちゃんから紙とシャーペンを借りて時系列を思い出しながら書き起こした。
「こんな感じかな?」
私が皆んなに見せるとリンリンは顎に手を当てて唸った。
「う〜ん、やっぱりこれってネッシーと隅田川の大量死と遊園地の池にはなんか関係があるわね」
「うん。では次にいくよ。祭子ちゃん、池には何の魚がいて、何の魚が大量死したのか分かるかい?」淡々と祭子ちゃんに質問する。流石大学の教授なだけはある。
「そうですね、池には金魚、コイ、キンブナ、そしてキンブナがいて、おそらく金魚は滅してしまい、コイとフナも大多数が死んでしまったと池のスタッフから聞いてます」
「そうかい、ではもうひとつ。隅田川で大量死があった水域一帯には何の魚が生息して、何の魚が大量死したのか分かるかい?」
私にはおじさんの意図が全く理解できなかった。
しかし、フグの帽子を被ってテレビに出ているときとは印象が180度変わることにビックリした。
「えーっと、隅田川でもあの一帯にはコイ、キンブナ、キンブナ、ボラ、マハゼ、スズキといった魚が生息していたと思います。そして、私が知る限り大量死があった魚はコイ、キンブナ、キンブナ……えっ、もしかして……」
祭子ちゃんは何かに気付いたらしく、目をまん丸くして祭子ちゃんのお父さんの顔を見た。
「気付いたかい?ならこれを見せよう」
おじさんはファイルから1枚の紙を取り出して祭子ちゃんに手渡した。
真剣な眼差しで紙を見つめている。
「そうだったのですね。ですがそれでは池と隅田川が……それになぜ急に高くなって……」と、驚愕した顔しながら祭子ちゃんはお父さんに視線を向けた。
「僕が教えるのここまでだ。その先は君が、いや、君達が考えて答えを見つけるんだ」
何が何だかわからない。なぎさちゃんとリンリンも同じ気持だと思う。
「お父さん、この紙、いただいてもよろしいですか?」
「いや、すまないけど、それは僕の部下が研究のために時間をかけて調査した大事なデータだからね。見せるだけさ」申し訳なさそうに言った。
「では、一部だけ書き写すことはできないでしょうか?お願いしますお父さん」祭子ちゃんは両の手のひら合わせて、とっても可愛い笑顔で懇願している
「10秒だけ目を閉じておくよ」と祭子ちゃんの頭にポンっと手を乗せた。
「ありがとうございます、お父さん!」というと、ペンでスケッチブックに10秒でさらさらと一部だけ書き写した。
「じゃあ、頑張ってね」と祭子ちゃんのお父さんが言うと紙を受け取って部屋から出て行ってしまった。
「すごいお父さんね。風祭さんの親なだけあるわ」リンリンが祭子ちゃんに話しかけた。
「はい、自慢のお父さんです」と言いながら、書き写したスケッチブックに再び何かを書き込んでいる。
でもおじさん、帽子忘れていってるよ……
無残にも置き忘れていったフグの顔は寂しそうな顔をしていた。
「まつりこー、そろそろ今の話を教えてよー」なぎさちゃんが我慢できずに催促をした。
「はいそうですね。皆さん、隅田川がどのような川なのか覚えていらっしゃいますか?隅田川は北区の岩渕水門で荒川から分かれて、そこに埼玉県を流域とする新河岸川を合流させ、足立区、荒川区、墨田区、台東区、中央区、江東区と下り、東京湾へと至る川だということを前日お伝えしました。そして、こちらのスケッチブックをご覧下さい」
スケッチブックには様々な区をまたがる隅田川の図と、数字が横に書かれた中が赤く塗られている黒丸が所々に書かれていた。これを見て分かるのは下に行くほど赤く塗られた丸の数字が大きくなっていることかな。
「なるほど、汽水域か」なぎさちゃんがボソッと喋った。
「なんなのよそれ」リンリンが小首をかしげた。
「なきささん、正解です。汽水域とは海水と淡水が混ざり合った区域のことで、海に注がれる河川の河口部に見られることから、東京湾へと繋がる隅田川の河口部も汽水域となっています。汽水域では淡水の魚とも海水の魚とも異なる生態系を築いています。汽水域の魚は塩分濃度の変化に応じて浸透圧を調節する器官が備わっていると考えられているためです。皆さんは海水の塩分濃度をご存知ですか?」
海水の塩分濃度?分からないけどあれだけ塩っぱいんだもんかなり塩分高そうだよね。
「はい!3%ぐらいだっけ?」右手を挙げて勢いよく返事をしてからなぎさちゃんが答えた。
「はい、計測する海や場所によって塩分濃度は変わると言われていますが、海水の塩分濃度は3.5%前後と考えて間違いなさそうです。ではスケッチブックをご覧いただけますか?中央区、江東区、墨田区、台東区に流れる隅田川の水域はとても数値が高いことが分かると思います。30というのは実用塩分濃度の単位であるSPUが30、簡単に言うと塩分濃度が大体3%と思って下さい。一番低いところでは岩淵水門で分派してすぐの箇所で、塩分濃度は大体0.2%といったところでしょうか。1つの川でこんなにも塩分濃度が違ってきます。汽水域の塩分濃度について色々な主張はあるものの、塩分濃度0.05〜3%の区域を汽水域と呼んで問題ないと思います。そして、魚の大量死があった場所の塩分濃度を見てください」
「8ってことは塩分濃度が0.8%ってことね」リンリンが答えた。
「はい。0.8%の塩分濃度というのは淡水魚の中でも一部の環境変化に強い淡水魚ならば汽水魚と共存するには問題ないかもしれません。先ほど私のお父さんが大量死があった水域に生息している魚を聞いたのはそのためだと思われます」
「確かコイ、キンブナ、キンブナは死んでしまっていて、ボラ、スズキ、マハゼは死んでいなかったんだっけ?たしかにボラ、スズキ、マハゼは汽水域で見つかる魚だなー」
「合っています、なぎさちゃん。コイ、キンブナ、キンブナ、は淡水魚です。淡水魚の中でもこれらの魚は比較的環境変化に強い魚ですから、河口部付近の塩分濃度が非常に高い汽水域では住むことは難しくても0.8%程度の塩分濃度の汽水域でしたら生きるのは不可能ではないと思います。
ですが、その塩分濃度のがもしも1%でも上昇したとしたら……」
分かってきた。あの一帯の水域は絶妙な塩分濃度のバランスによって淡水魚と汽水魚が共存していたんだ。
だけど何らかの原因によって塩分濃度が上昇してしまって、それによる急激な浸透圧の変化に対応しきれなくなったコイやフナが大量死してしまった。
「隅田川の大量死の理由は分かったけど、なんで一部の水域だけ塩分濃度があったの?それに遊園地の池でネッシーが見つかったこととの関係はなんだろう」
「はい、ここからは推測なのですが、ネッシーが発見された遊園地のスワンの池と隅田川が地中で繋がっているのではないかと私は考えてえています。そして……スワンの池か隅田川、もしくは通じている穴の途中のどこかがプレシオサウルスの生きていたジュラ紀や、ワリセロプスの生きていたデボン紀の時代の海と繋がって海水が大量に流れ込んだ結果、塩分濃度の急激な上昇によって汽水でも生きていられるボラやスズキやマハゼ以外の淡水魚が大量に死んでしまったのではないでしょうか」
祭子ちゃんは真剣な眼差しで私たちに語った。
皆んなが硬い表情で考えている様子をみた祭子ちゃんは「どうでしょうか……」と、上目遣いで恐る恐る私に聞いた。
「大胆な仮説ね。ぶっ飛びすぎてリアル感が全くないけど、今までの状況から考えるとあたしはあながち間違っているとは思わないわ、なぎさはどうなのよ」
「わたしもリンリンと一緒だよー。でも気になるのはネッシーは何で消えちゃったのかな?」
確かに。時系列で考えると……
「ネッシーが消えた翌日に隅田川の大量死も収まっているよね?これってネッシーが昔の時代の海からワームホールみたいなものを通って現代にきて、また元いた時代に戻ったんじゃないかな?そのワームホールは次の日には塞がっちゃって……」
私はさっき自分が書いた紙に指を指して言った。
「そのあと誰にも見つかっていないってことはその可能性はありますね」祭子ちゃんが再びスケッチブックを手に取るとペラペラとめくった。
「皆さんこれを見て下さい」
昨日もんじゃ焼き屋さんで書いた図を見せてきた。
「これって昨日描いた隅田川と遊園地の図だね?」リンリンが目を凝らして見た。
「はい、ちょうどいいでこの図でどこにそのワームホールがあったのか考えましょうか」そう言うとピンク色のペンをペンケースから取り出した。
「まず、川の流れを考えましょうか。川の方向は通常上流から中流、下流と向かって流れて、やがて河口へ流れ着きます。高低差によるものです。隅田川の場合は荒川や新河岸川から流れてきた水が最終的に東京湾に注ぎ込まれます。ですからこの図では遊園地から隅田川を見て左方向から右方向へ流れて行くことになります。次にスワンの池と隅田川が地中で繋がっていると仮定すると、隅田川の魚の大量死のあった場所とスワンの池の位置、そして川の流れの方向からこのように地中で繋がっているのではないでしょうか。もしかしたら中で湾曲している可能性はありますけどね」と祭子ちゃんは昨日の図に書き足していった。
「ほう、それならこのピンク色の線の通りに歩いてみたら何か分かるかなー?」
「そうね」と、なぎさちゃんとリンリンが顔を見合わせた。
頭の中で実際の風景を眉間に皺を寄せて思い出していると
「ラムネちゃん、何かお考えですか?」と話かけられた。
「祭子ちゃん、ヒーローショーステージって荒川遊園地より低い位置にあるよね?」
「はい、荒川遊園地の裏側から出ると円形のステージになっていて、その周りには、座れるように何段にも石の階段が円形に作られています。後ろのお客さまにもショーが見られるように工夫されているのですね」
「じゃあさ、ヒーローショーのステージって左右にも抜けられる道があったよね。左は急な坂になってたような」
「そうですね、ヒーローショーのステージへ入るには必ずしも荒川遊園地へ入園する必要はありません。ステージの左右にも道があって、遊園地から見て右側へはヒーローショーのステージと同じ高さの道が続いていて、小台橋の付近から階段で上に登れます。遊園地から見て左側へはすぐに急勾配な坂になっていて、そのまま左方向へ土手が長く続いていますね」
私の頭の中の風景と重なった。でも何か思い出せない。
喉に引っかかった魚の骨が取れないようなもどかしい気分だった。
「古い鉄の柵があります……」祭子ちゃんの言葉に頭の中で電流が流れた気がした。そうだ、あの道があった。
私は赤いボールペンを借りて、さっき祭子ちゃんが書き込んだ隅田川のイラストに加筆した。
「皆んなこれを見て!ヒーローショーのステージはね、遊園地よりも低くなっていて左りに行くには急な坂があるの。でもねその坂の側面、隅田川と坂の側面の間にはヒーローショーのステージからしか行けない細い道があるんだ。その道へは古い鉄の柵があって入ることは出来ないけど、そこに行けば何か分かるかもしれない!」
「この赤い斜線したところが道になってるの?なんでこんな所にあるのよ」リンリンがしかめっ面をした。
「分からないけど、柵の隙間から見るととても長く続いてるし、ヒーローショーのステージみたいに地面が|綺麗に舗装はされていなかったと思うから入ったとしても危険だと思う。」
私の言葉を聞いて皆んなは決心したかのように生唾を飲み込んだ。