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ラムネ*サバイバル  作者: きゃらめるぷりん伯爵
現世
3/5

同盟結成


(PM0:15_もんじゃ焼き屋前)


雷もんじゃのお店の前に着いた。ここは地元では結構有名なお店だから入れるかどうか少し心配をしている。


「へー見た目は結構いい感じのお店ね」

 リンリンが外観を見て呟いた。


 瓦屋根で入口に暖簾(のれん)がかけられているその店は以前と何も変わっていなかった。


「空いているといいですね。私が確認してきます」


 ガラガラガラガラ


 1人でお店の中に入った祭子ちゃんが出てくると両手で頭の上に丸を作った。

 どうやら無事に入れるみたいだった。


「あっ御座敷(おざしき)だー」なぎさちゃんが嬉しそうにはしゃいでいる。

 外だけではなく中も完全に和の造りで、全席が座敷になっている。鉄板のテーブルの周りには座布団が敷いてあって、6人程度までは1つの鉄板を囲んで食べられそうだ。


「懐かしいね祭子ちゃん」


「はい!またご一緒できてほんとうに嬉しいです」

 靴を脱ぎ、入口に近い席に私たちは座った。


 私たちの他に客は3組いた。あまり大人数が入れるお店ではなかったから私たちで満席になってしまった。


「ベビースターもんじゃって何かしら」

 リンリンがメニューと睨めっこしている。


「君たちのおすすめはなんだい?」

 なぎさちゃんが私たちに聞いてくる。


「私たちの間ではあれですよねラムネちゃん」

「ねー♪」


「じゃあそれと、リンリンは何か決まった?」


「あたしはやっぱりコレが食べてみたいわ」

 店員さんを呼んで明太子餅チーズもんじゃとベビースターもんじゃを注文した。


 (どんぶり)に入れられたそれらのもんじゃは山のように盛られていた。


「すごいねー溢れそうだよ。祭子、これってどうやって食べればいいのー?」首をかしげてなぎさちゃんが祭子ちゃんに尋ねた。


「はい、もんじゃ焼きはお好み焼きと違って、熱してもドロドロにはなりますが、固まることはありません。鉄板の端には油や()げを落とす穴があるため、その穴に落としてしまわないように具材であらかじめドーナツ型の通称土手(どて)と呼ばれる形を作って、そのドーナツ状の土手の穴に残りの液体を注いで作っていきます」


 思い出した。祭子ちゃんとはもんじゃ焼きとお好み焼きを作るのが昔から上手だったな。


「難しそうね。見本を見せてよ」リンリンが言った。


 昔はここへ来ると祭子ちゃんかお母さんに焼いてもらってばかりだったな。今の私なら作れそうだし、祭子ちゃんに美味しいもんじゃ焼きを食べさせてあげたい。


「あ、あの……明太子餅チーズもんじゃは私が作ってもいいかな?」


「かまわないわよ。ベビースターもんじゃはあたしが作るわね」と、リンリンはニコッとした。


「ラムネちゃんが作って下さるのでしたら私も大賛成です」


「わたしもいいよー」


 良かった。作るところは何度も見たことがあるし、失敗はしないよね。



 ――――失敗した。角切りの餅とチーズで土手を作ったけれど、土手が決壊して液体が半分以上流れ出て、端の穴に吸い込まれてしまった。


「ツーアウトってとこね」リンリンが私を見て何かを呟いた。


「あちゃー失敗するとこーなるのかー。やっぱ難しいのなー」


「ラムネちゃん惜しかったですね 残りは食べられますので気にしないで下さい」


 責められないのが逆に辛かった。


「あぅ……ごめんなさい……」


 かなり少なくなったけど味は身に染みるほど美味しかった。


「この小っちゃいヘラで食べるのは不思議な感じがするわね」


「確かに面白い食べ方だなー。おこげもまた良い」


 もんじゃ焼き初心者の2人も喜んでいるみたいで良かった。


 リンリンが作ったベビースターもんじゃも平らげると、突然部屋の中が暗くなった。


 ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ


 部屋中に鳴り響いている。

 あっ、そろそろだね。


「きましたねラムネちゃん」


「うんやっときたね」


「ちょっ、ちょっと何よ。何がおきるの?」リンリンの声が震えている。


「わー楽しそー」


「なんでなぎさは平気なのよ」リンリンがなぎさちゃんの袖を掴んだ。


「玄関のところからは雨が降ってきたね」

 なぎさちゃんは到って冷静だった。


 周りのお客さんも驚いたり笑ったりと反応がまちまちなのはリピーターかどうかの差なんだろうな。

 リンリンが怯えようが関係ないと言わんばかりに、部屋中に雷鳴が(とどろ)いた。


 ズドーン バリバリバリバリ ズドーン バリバリ


 落雷の音と同時に部屋の中が一瞬だけ明るくなる。


 相変わらず演出に凝っているなー。


 周りのお客さんからは歓声が起きていた。


「リンリン、これが雷もんじゃと言われる所以(ゆえん)なんだよ!楽しかった?」


「た、楽しい訳ないわよ 初めからそう説明しときなさいよ」

 リンリンは薄っすらと泣いてた。ちょっと悪いことしちゃったな。


「ごめんねリンリン」


「ごめんなさい美鈴さん」


「リンリンはいこれ」なぎさちゃんが自分のハンカチを差し出した。


「もう、いいわよ。もんじゃ焼きはとても美味しかったし」チーン。リンリンは受け取ったハンカチで鼻水をかんだ。


 リンリンは泣き虫だという事をあとでメモっておこうと決めた。


 そのあとも豚平焼き、ホタテ焼き、焼きそばを皆んなで食べながら談笑をした。


 食事も終わって、なぎさちゃんとリンリンが体勢を崩して2人で話している。


「ラムネちゃん、このあとは……」

 祭子ちゃんの言葉で今朝の約束を思い出した。


「荒川遊園地にいく約束をしていたよね、祭子ちゃん」


「はい!」祭子ちゃんが弾んだ声で返事をした。


「入園したら最初は何をしよっか?観覧車はやっぱり最後がいいよね」

 小規模な遊園地ながら観覧車やメリーゴーランド、コーヒーカップといった遊園地として抑えておくべき乗り物は一通りあった。


「そうですね……乗り物も良いですが、どうぶつ広場でミーアキャットさんやカピバラさんを見てみたいです!」


 水の生き物が好きだとは知っていたけど、祭子ちゃんは生き物全般が好きのかもしれない。


「お魚の展示はなくて残念だね」


「いいえ、ラムネちゃんとご一緒できるならどこでだって楽しいです!それに、園内にある《スワンの池》には鴨や白鳥のほかに、コイやフナや金魚といったお魚も見られますので、お時間に余裕がありましたらお付き合いして下さると嬉しいです」


「もちろんだよ!」


 《スワンの池》と聞いて、幼い頃にあの池で祭子ちゃんとネッシーの赤ちゃんを育てたことを思い出した。

 6年前、私が千葉県へ引っ越す10日前に、スワンの池で首が長く、体毛がない、体長1メートル程の生き物を見つけた。


 その生き物は白鳥に混じってプカプカと池に浮かんでいた。


 当時私たちはその生き物を《ネッシーの赤ちゃん》と呼んで可愛がった。


家で出された食事を少しだけ残しては隠れてネッシーの赤ちゃんにあげていたことを覚えている。そんな日々が1週間も続いた頃、突然スワンの池から姿を消してしまった。


 今考えると、池に住んでいた白鳥の一種だったような気もするけれど、小さい私たちにはそれが何の生物なのか分からなかった。


「祭子ちゃん、手紙にも書いたけど、スワンの池でネッシーの赤ちゃんを育てたことって覚えてる?あれって結局なんだったんだろうね」今の祭子ちゃんなら何か知っているかと思って、軽い気持ちで聞いてみた。


 祭子ちゃんの反応は、私の想像していた反応とは全く違っていた。


「……あのね、ラムネちゃん……」深刻な表情をして口を開くの躊躇(ためら)っている様だった。

 

 え!?何か地雷を踏んじゃった!?


「いや、ごめんね! 昔の事だし、私の記憶違いだよね。忘れて! 忘れて!」


 困惑させても悪いし話を変えよう。そう思ったが祭子ちゃんが話を続ける。


「あのネッシーさんは、プレシオサウルスという首長竜の子供だと思います」


「えっ……?」

 思ってもみない答えに当惑してしまった。

 でも祭子ちゃんが冗談で私をからかうとは考えられなかったから、続きを聞くことにした。


「プ、プレシオ……?」


「はい、プレシオサウルスです」


「あのネッシーは恐竜の赤ちゃんってこと?」


「はい。ですが正確には恐竜とは鳥盤類(ちょうばんるい)竜脚類(りゅうきゃくるい)……簡単に言いますと、関節を曲げずに直立歩行をする陸棲(りくせい)の爬虫類のことですから、首長竜のあのネッシーさんとは種類が異なります。しかし、いずれも現代では絶滅していると考えられている生物には変わりありません。そして……」

祭子ちゃんが続け様(つづけざま)に言い放った。


「プレシオサウルスは、ネス湖のネッシーのモデルになったとも言われています」

 私は驚き過ぎて言葉を失ってしまった。

 祭子ちゃんの言うことが真実なら、あのとき、私たちは本物のネッシーを発見していたってことになるよね。


「本物のネッシーなんだ……」


「にわかには信じられませんよね。逆の立場なら私も疑っていたと思います。実は……ネッシーさんがいなくなって、ラムネちゃんもお引っ越ししてしまわれたあと、1人で少し調べていたんです。頭が小さく、体毛も(うろこ)もなく、手足はパドル状になっていてオールを漕ぐように進む生物、そして何より非常に長い首。首長竜でもクロノサウルスやリオプレウロドンのように短い訳でもありませんでしたし、首の長さや体の大きさからエラスモサウルスでもないと思います。つまり、骨格や身体的特徴を勘案(かんあん)して総合的に考えるとプレシオサウルスの可能性が高いのです。もちろんですが、化石が発見されていないだけであの子が新種という可能性はあります」


「そうなんだ……大発見だね!」私の脳では処理できなくなってきた。


「はい。仰るとおりプレシオサウルスだとしたら大発見なんです。プレシオサウルスの化石は日本列島では発見されていませんし、そもそも、とうの昔に絶滅したとされていた首長竜が現代にも生き残っているなんて……しかも東京の遊園地の池に……でも普通に考えればありえませんよね?そこで、私は何か秘密があると考えて1人で調査をしてきました」


祭子ちゃんはとても真剣な表情をしていた。本気で言っているんだ。


「ひ、秘密?あの池に住んでた訳じゃないってこと?」


「ええ、その通りです。プレシオサウルスは中生代ジュラ紀に生きていたとされる生物です。当然ですが、1億年以上前に遊園地はありませんから、遊園地が作られてからあの池に入り込んだと推測ができます。また、長い時間を絶滅せずに種を残すには繁殖する必要があります。繁殖するには複数の個体が必要になりますから、私たち以外にも発見されてもおかしくはありません。しかし、そういった話は聞こえてきません。プレシオサウルスは体長が2メートルから大きくても5メートル程度で、首長竜としてはとても小型ですが、現代の生物と比べればとても大きいですからね」


 なるほど。私たちもあの一匹しか見なかったし、その子もどこかへ消えてっちゃったからね。……消えた?でもどこに?!


「祭子ちゃん、結局あの子はどこに行っちゃったんだろう?誰かに発見されて連れ去られちゃったのかな??」


「それは……分かりません。祭子ちゃんがお引っ越しされたあとに(しげ)みに隠れていないか、白鳥や鴨に紛れていないか何度も(くま)なく捜しましたが、発見には至りませんでした」


「そっか残念だね……のびのびと生きていれば良いけど」


「ラムネちゃん……ここからは私が偶然知ったことで、直接あのネッシーさんと関係があるのかは不明ですが、気になっていることがあります。お話を聞いては頂けませんか?」

 祭子ちゃから発せられる真剣な空気に気圧(けお)されて私はゴクリと唾を飲んだ。


「うん、聞かせて。祭子ちゃんが考えていること全てを知りたいの」


「はい!」祭子ちゃんはいつもの優しい笑顔で返事をした。


「なんか面白そうな話をしてるねー私たちも会話に入れてよー」喋っていたはずの2人がこっちをみている。

あまりにも集中して祭子ちゃんと話をしていたから、2人のことが意識から外れてしまっていた。


「そうよ!ラムネも風祭さんも2人の世界に入っちゃってさ。あたしたちも途中から聞いてたっての」ぷんすかしながらリンリンも話に混ざってきた。


「ごめん! ごめん!」


「ごめんなさい。では、なぎささんと美鈴さんも私の話を聞いてくださると嬉しいです。ですが、これからお話することは、そのネッシーさんとは全く関係のないことかもしれませんので、そこはご理解ください」


 祭子ちゃんの言葉に2人は黙って(うなず)いた。


 そして聞こえやすいゆっくりな速度で話し始めた。


「ラムネちゃんがお引っ越しをして2週間がたったある日、私は再びスワンの池に行きました。既にこの池にはあの子がいないことは何度も捜索して分かっていましたので、気晴らしに白鳥の絵を描くことが目的でした。そこで気付いたのです……魚がほとんどいなくなってしまっていることに」


「記憶が確かならスワンの池にはコイや金魚がいたよね?」

 25メートルプールを2つ横に連結させたぐらいの広さのスワンの池には、白鳥や鴨の他にもかなりの数の魚が住んでいたのを私は知っている。


「はい、ほかにもキンブナやギンブナがいたはずです。気になった私は遊園地のスタッフに尋ねました。返ってきた言葉は【1ヶ月程前に謎の大量死があった】とのことでした。私は詳しい日付を伺いました。私は当時絵日記を書いていましたから、私とラムネちゃんがあのネッシーさんを発見した日と魚の大量死の日の前後関係を調べるのは簡単でした」


「ど、どうだったのよ……」リンリンが恐る恐る尋ねた。


「あの子……ネッシーさんを発見した前前日に池の魚の大量死があったみたいです」


「なんか関係がありそーだねぇ」なぎさちゃんが口を開いた。


「なんでよ……原因はなんだったのよ……」リンリンが怯えている。


「もしかしてリンリン怖いのかー?」


「なぎさ!こ、怖いものはしょうがないでしょっ!」


「じゃあわたしの手を握ってもいいぞ」

 なぎさちゃんなりにリンリンを気遣っているらしい。


「別にいいわよっ……ここで……」そう言いながらなぎさちゃんの袖の部分を掴んだ。


「ごめんなさい、怖がらせるつもりはありませんでした」

 祭子ちゃんが心配そうにリンリンを見つめている。


「問題ないわ、続けて、どうぞ」リンリンが強がりながら答えた。


「ありがとうございます。では……魚の大量死の原因は教えていただけませんでした。そのスタッフが原因を知らなかったのか、将又(はたまた)知っていても教えて下さらなかったのは分かりませんが、他のスタッフに聞いても同じ答えでした。そこで私は家に戻り、父のパソコンで池の魚の大量死について調べました」


「検索にヒットしたの?」私が祭子ちゃんに聞いた。


「はい。ですが、【原因は調査中】との遊園地の公式発表と、遊びにいらっしゃったお客さんがツイッターやフェイスブックなどに投稿した魚の大量死に触れるだけの内容のもので、原因の特定には繋がりませんでした」


「そっかー」なぎさちゃんは残念そうだった。


「ですが、ネッシーさんに関係しそうなニュースを発見したのです。私達がネッシーさんを発見する前前日、池の魚の大量死があった日と同じ日を境に隅田川(すみだがわ)の魚も多数死んでいたことが分かったのです」


 私が引っ越したあとにそんなことがあったなんて……ん?

「境ってことは何日も続いたってこと?」私が祭子ちゃんに質問した。


「ええ、10日程、魚が仰向けで浮かんでいるのを近隣の人が見たと仰っていました」

 祭子ちゃん、1人で聞き込み調査までしていたんだ。


「隅田川って学校や遊園地の側に流れている川のことでしょ?」


「そうだよー。隅田川は東京の東部に流れる川で、荒川の下流から分かれた支流なんだよね」なぎさちゃんがリンリンに言った。


「はい。付け加えますと、北区の岩渕水門(いわぶちすいもん)で荒川から分派(ぶんぱ)させたあと、埼玉県を流域とする新河岸川(しんがしがわ)を合流させ、足立区、荒川区、墨田区、台東区、中央区、江東区と南下して、そして東京湾へと繋がる一級河川です」祭子ちゃんがそう話すと、リンリンがもう一度質問した。


「そんな長い川で大量死ってどんだけなのよ」


「ええ、どうやら隅田川全域ではなくて、遊園地の裏に流れる水域で、長くても300メートル程度先にある小台橋までの範囲で起きたことだと分かりました。頭に入りやすいと思うので、簡単にですが今描きますね」


 そう言って祭子ちゃんはスケッチブックとペンを取り出して、さらさらと簡単な地図を描き始めた。

挿絵(By みてみん)


「正確な地図とは言えませんが、このオレンジ色のペンでお塗りした場所で魚の大量死が発見されました」


「へぇ、とても局所的なんだなー」なぎさちゃんが地図を見て呟いた。


 祭子ちゃんの話を聞いた限り、荒川遊園地に正門から入って近くにあるスワンの池と、荒川遊園地を裏側から出て、ヒーローショーステージを挟んだ隅田川の、それも狭い範囲で魚の大量死が起きていたってことになる。


でもそれって……人為的な原因なのかな?


「誰かがやったのよ!薬でも流したに決まってるわ」

 リンリンは少し興奮しているみたいだった。


「私も最初はそう思いましたが、自治体による調査では発見されなかったそうです。また、ここ一帯には工場が多数ありますから、化学物質や汚水の排出や流出も疑いましたが、そういった事実もありませんでした」


「そ、そうなのね……」リンリンは祭子ちゃんの言葉に少し肩を落として、テーブルの上のコーラを一飲みした。


「それじゃーまつりこ、その死んだ魚はエロモナスに感染はしていなかったのかー?」


 なんか聞きなれない言葉がなぎさちゃんの口が出た。ガールスカウトやサバイバルが趣味のなぎさちゃんも魚について詳しいのかな。


「エロお茄子?って何よ」

 リンリンは何か聞き間違えたようだった。


 アハハハハハハ

 なぎさちゃんは笑っている。


「美鈴さん、エロモナスとは《エロモナス菌》のことで、古くから魚類の病原菌として知られています」


「そうよ!エロエロスよ……エロエロス……」

 リンリンまた間違えている……


 ギャハハハハハハハ

 なぎさちゃんはお腹を抱えて笑っていた。


「祭子ちゃん、お願い」


「はい、ラムネちゃん。エロモナス菌は感染すると(ひれ)など体の各部が赤くなったり、眼球や(うろこ)が突出するといった症状が見られますから、隅田川の魚の大量死の原因はまた別にあるようです」


「そっかー。エロモナスでもないとすると、何が原因なんだろうねー」なぎさちゃんが首を傾げながら言った。


「はい。私もここで完全に行き詰まってしまいました。そしてそのあとも何も分からずに諦めてしまい、今に至ります」


「まぁ、仕方ないわよね。見つからないんだし。そもそも大量死の原因が分かっても、ネッシーとは何の関係もないかもしれないし、6年も前のことなら諦めなさいよ」リンリンの言うことはもっともだった。


 しかし、祭子ちゃんは力強く否定した。

「ですが、私は今度こそ、あのネッシーさんの謎を解き明かしたいんです!」


「えっ?どうして……」リンリンが小声で言った。


「確かに一度は諦めました。ですが……またラムネちゃんが帰ってきてくれたんです!6年が経ち、あれだけ熱心に調べたネッシーさんについて忘れていたあの日、ラムネちゃんから手紙が届きました。その手紙には忘れていた昔の思い出が詰まっていたんです。そして思いました。あの時の思い出の続きを見てみたいって。ネッシーさんがどこからきて、どこへ消え、何をしているのか……私は知りたいんです。ラムネちゃんと一緒に探したいんです!」


祭子ちゃん言葉に心が動いた。

祭子ちゃんの本心が聞けた気がして嬉しくなった。


「祭子ちゃん、一緒に探そう!私もあのネッシーがどうして現代の東京の遊園地に現れたのか、どうして消えたのか知りたいよ」


「ラムネちゃん……」


「楽しそうだし、私も手伝おうかなー」


「なぎさが手伝うって言うならあたしもやるわよ……何でも」


「今、何でもって言った?大変かもしれないよーリンリンには隅田川に潜ってもらったり……」なぎさちゃんが冗談めかして言った。


「ちょっと、冗談よ……出来る限り何でも……よ…」

 少しトーンダウンしているようだった。


「皆さん、ありがとうございます。是非ともよろしくおねがいします!」


「今日はこれからどうするんだー?」


 祭子ちゃんを見てみるとコクッと頷いた。


「えっとね、これから私と祭子ちゃんは荒川遊園地に行くつもりだったんだ。でもネッシーの赤ちゃんを捜すとかそういうんじゃなくて、ただ遊ぶつもりだったんだけどね。でも、これから4人で何か手掛かりがないか行ってみようよ!いいよね、祭子ちゃん」


「はい!もちろんです」


「よーし行くかー」


「あたし初めてなのよね。あそこ」


 そうして私たちは荒川遊園地へ歩いて向かった。もんじゃ焼き屋さんからは歩いて5分の距離だから食後の運動にはちょっと物足りなかった。


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