出会い
教室に到着すると出席番号順に席が決まっていたのでその通りに座った。黒板を正面にして右から2列目の最後列だった。
「わぁーラムネちゃんの隣でしたー」
祭子ちゃんは私の右隣にいた。
はぁ……良かったー。周りを見回してみても他に知り合いはいないし、ボッチにはならなくて済みそうだ。
「おっすー。まつりこー」
振り向くと、眠そうな眼をした少女が立っていた。
「お久しぶりです。なぎささん」
祭子ちゃんの友達みたいだ。
「一緒のクラスになったね、よろしくー」
「はい、こちらこそよろしくお願いしますね」
「隣の子はまつりこの友達かー?」
「はい!小学校が同じで幼馴染で親友の小峰ラムネちゃんです!」
祭子ちゃんが私を紹介してくれた。わ、私も挨拶しなくちゃっ
「あ、あの、小峰ラムネです。祭子ちゃんとは小学校が同じで幼馴染で近所で……」
あぅ…自己紹介は苦手だよ…
「あははは、今聞いたよー 。うん、よろしくね。あっ、敬語とか気にしないでいいからー私もその方が気が楽だしね。あー、わたしは《高柳なぎさ》。まつりことは中学校から同じでめっちゃ仲良くしてもらってるよー」
話すスピードは遅く、とてもマイペースで変わった子みたいだ。でも、嫌な感じはしないし、祭子ちゃんの友達だから私も親しくなりたい。
「うん!よろしくね」
「なぎささんはとてもアグレッシブな趣味をお持ちなんですよ」
へ〜。小さい頃の祭子ちゃんは絵を描くことや、読書が好きだったから、正反対の趣味をもっていても仲良くなれるんだ、と思った。
「ほら、そろそろ出てきなよー」
なぎさちゃんが自分の背後に隠れている人を引っ張っている。
えっ?いつからいたんだろう。
「あらまぁ」
祭子ちゃんも驚いている様子だ。
「この子はね《リンリン》って名前なんだー。私の友達だから仲良くしてあげてねー」
なぎささんが紹介した女の子は綺麗なブロンドヘアーで整った顔をしていた。胸も大きい。
綺麗な髪の色もそうだしリンリンって名前からして外国人なのかな?
「ほら、リンリンからも挨拶しなよー」
なぎさちゃんがそう言うと、その女の子は口を開いた。
「だ・れ・が・リ・ン・リ・ンよ!!!!あたしの名前は《美鈴すず》よ!何度言ったら分かるのあんた」
日本人だった〜!?!?しかもとても日本的な名前〜。
私は笑いそうになるのを必死に堪えた。
「あ、あの、聞いていたかもしれないけれど、私は小峰ラムネ。これからよろしくね」
「うっ、うん、よろしく……ラムネ」
私が手を差し出すと恥ずかしそうに握手してくれた。
悪い人ではなさそう。
「え〜、良いじゃーん。美鈴の《鈴》と名前の《すず》で合わせて《リンリン》。シャンシャンシャン♪ シャンシャンシャン♪」
「あ・ん・た・ね〜〜」
「まぁまぁ、なぎさちゃんも、リンリンも落ち着いて!落ち着いて!」
「ラムネ、あんたも言ってるわよ」
「考えてもみなよー。みすずすずって言いづらくない?言ってみれば分かるよー。3回言ってみてー。せーの」
なぎさちゃんが私のほうを見ながら手のひらをパンっΣって叩いた。
「みすずすず・みすすすす・みず@#/〜 あっ!ほんとだぁー。 確かに言いにくいね」
「マヌケ面さらして『ほんとだぁー』じゃないわよ! 練習して言えるようにしなさい」
怒られてしまった。
「はい、せーの」
なぎさちゃんが今度は祭子ちゃんのほうを見て手のひらをパンっΣってした。
「みすずすず・みすずすず・みすずすず 。あらま、できました!」
とても滑舌よく、上品に3回みすずすずを繰り返した。祭子ちゃんかわいー。
「やっぱり、まつりこは良い子だねー、よーしよーし」
なぎさちゃんが祭子ちゃんの首の下を撫でている。猫をあやしているみたいだ。
「ちょっとあんたら、いい加減、あたしの名前で遊ばないでくれる??」
「でもリンリンが嫌だって言うからー。……せーの」
なぎさちゃんがリンリンの方をみて手を叩くポーズをしている。
「……いや、あたしはやらないわよ? もう……いいわよ。好きに呼べばいいさ」
結局リンリンがなぎさちゃんに終始手玉を取られているみたいだったけど、仲の良さは伝わってきた。羨ましいな。
「仲の良いお二人はどこで知り合ったんですか?」
祭子ちゃんが2人に問いかける。
え?あっそうか、なぎさちゃんが祭子ちゃんの友達だから、その友達のリンリンも祭子ちゃんと友達だと思っていたけど違うんだね。
「リンリンとはねー、初めて会ってからまだ1週間なんだー」
「あら、そうなんですか」
祭子ちゃんが驚くのも無理はない。まるで旧知の間柄がするような会話を目の当たりにすれば誰でもそう思う。
「リンリンとはネットのオフ会で会ったんだよー」
「ちょっと、なぎさ。言わなくていいじゃない」
「オフ会ってことは何か同じ趣味があるんだね?」
気になって聞いてみた。噂には知っているけれど、実際にオフ会をしている人と話すのは初めてだ。
「まぁまぁ、隠すことじゃないし教えてあげようよー」
なぎさちゃんが話し始めた。
「さっきまつりこが話した通り、わたしにはちょっとアグレッシブな趣味があってー。ガールスカウトって知ってるー?」
「ガールスカウト?ボーイスカウトみたいなものかな?」と口に出してしまった。
「目標だったり、他にも細かい違いはあるけど奉仕活動したりー、キャンプとかの野外活動したりするのは同じだよー。ボーイスカウトは女性も入れるけどガールスカウトは女性だけっていう違いとかもあるけどねー」
へぇ、そうなんだ、ボーイスカウトは聞いたことがあったけどガールスカウト初めて知った。
「そのガールスカウトがきっかけで美鈴さんとお知り合いに?」
「違うよ、まつりこー。オフ会って言ったでしょー。ガールスカウトでキャンプをやってたらさー、もっと激しいやつがしたくなって5chでサバイバルのスレを立てて、情報収集と同じ趣味の仲間を集めてたんだー」
なぎさちゃんってポワポワした雰囲気とゆっくりとした喋りをしているけど、行動力がすごいなー。見習わなくっちゃ。
「ごめんなさい、そうでしたね。そこにいらっしゃったのが美鈴さんなのですね」
「まつりこ、せいかーい」
「では、美鈴さんもサバイバルにご興味がおありだったんですね。オフ会はそのあとに開催されたのでしょうか?」
「同じ趣味の仲間がやっと何人か集まってきたときに、荒らしがきたんだよ」
荒らしってイタズラとかをする人のことだったっけ。ネットってそういうところがちょっと怖かったりするんだよね。
「あらまぁ、それは大変ですね」
祭子ちゃんの反応が薄いけど、祭子ちゃんスマホ持ってないからだろうなー。
「荒らしってネットで悪い事をする人のことだよね?」
祭子ちゃんに分かるようにちょこっとだけフォローしてみた。
「うん、そうだよー」
「あらまぁ、そうだったんですね」
やっぱり分かっていなかった。セーフセーフ。
「その荒らしがさー結構有名な荒らしらしくて、色んな板やスレに出現してレスを連投して邪魔をしてくるんだよー。なんか、勢いがあるスレになら辺り構わず連投して食い荒らすから《腹ペコあおむし》って皆んな呼んでてさー。その腹ペコをわたしたち皆んなでやっつけようってなったのさー」
な、なんか大事になってきたような……それでリンリン達と協力して腹ペコをやっつけて……オフ会?
「なぎさ、腹ペコのことはもういいでしょ?反省してたんだし」
「でも途中まで話したし、最後まで話すよー。その腹ペコを改心させようと仲間の皆んなで相談したら、ほっとくのが一番良いってことになったんだ。荒らしは構うから嬉しくてまた荒らすんだって」
「寂しがり屋さんなのですね。お友達はいらっしゃらないのでしょうか?」
祭子ちゃんはピュアで可愛いなー。でもピュアな言葉ほど傷付く人もいるんだよー。
「そう!まつりこの言う通りだ」
え?あ?え?何かおかしい。
「寂しがり屋だから、優しく相手をしてあげれば、荒らしとも友達になれるんじゃないかって、そう思ったのさー。そこで、腹ペコが書き込むスレッド全てにわたしたちも追いかけて会話しようとしたのだよ」
「まぁ、素敵ですね♪」
さっき祭子ちゃんとなぎさちゃんは趣味が正反対だから仲が良いのか疑問だったけど、私の勘違いだった。
2人は雰囲気から波長から全く同じだー!
「それでさー、最初はシカトされるし、IP抜くぞって暴言まで吐かれたけど、わたしたち皆んなで根気よくストーカーしてさ、腹ペコの連投にすかさず続けて書き込んでいたら、ついに腹ペコが会話してきたんだよ」
「ストーカーって言っちゃってるからね、あんた」
ボケがなぎさちゃんでリンリンがツッコミなのかな?
「結局腹ペコは改心したの?悪意で荒らすような人が、優しくしても急に変わるって少し信じられないような……」
「まぁね、ラムネが言うように優しくしたから腹ペコが荒らしをやめた訳じゃないんだ。ストーカーをされる恐怖に耐えきれなくなってわたしたちに謝ってきたんだよー。『それとこれからは仲良くしてもらえませんか?』って」
え?えぇぇぇええええ?!!?
そんなことってある?でもあったんだよね?! 分からなくなってきた。
「そんな馬鹿な……」
「それでオフ会という運びとなったのですか?」
祭子ちゃんは平然としている。まさかいまの話を受け容れたのかな。
「そうそう!腹ペコをやっつけたことで、仲間同士の絆が深まった気がしたからオフ会を開こうかって提案したらさー、皆んな良いよ〜って。だから1週間前に池袋でオフ会開いたんだ。だよねーリンリン」
「ええ、そうよ」
「まぁ!素敵な話でした。ありがとうございました。そのような試練を乗り越えてお会いしたのですから、とても楽しい会になりましたでしょう?」
祭子ちゃんが感極まりながらリンリンに聞いた。
「いや、ボコボコだったよ。リンリンが腹ペコだし」
ぇぇえええええええっーーーーー!???
思わずズッコケた。でも薄々気付いていたから受け身は取れた。
「お前が腹ペコかーってボコボコにされてたけど、リンリンが真摯に謝ったのと、友達なりたいって気持ちはわたしたちに伝わったから皆んなすぐに許したんだよ。なーリンリン」
「はい、もうしないわよ。反省しています」
「あれから毎日会ってサバイバルの練習とかしてあそんでいるんだー わたしたちの馴れ初めはそういうことだよ」
「馴れ初めってあんたね……」
リンリンが照れてる。
「あ、荒らしの話は置いといて、素敵な友達ができて良かったね」
「そうですね。なぎささんと美鈴さんが羨ましいです」
色々と驚くことはあったけど、この3人となら良い高校生活が送れそうで安心した。
「はーい席に着いて下さい。これから入学式が始まるので出席番号順に並んで体育館に行きます」
ガラガラと扉を開けて先生が入ってきた。
教室のあちこちに散らばっていた生徒がのそのそと歩きながら自分の席にもどった。
「ねぇ、なぎさ、ずっと聞きたかったんだけど、なんで風祭さんって頭に変な帽子被ってんのよ」
(AM10:00_教室)
入学式が終了し、ゾロゾロと生徒が教室に戻ってきた。
各々が自分の席に座り、体育館の入り口で着けてもらった薔薇の花のコサージュを胸から外したり、談笑したりしている。
今日のメインイベントである入学式が終わったおかげで、入学当初特有の緊張感も今は多少解けているみたいだった。
式では校長先生の挨拶に眠気を誘さそわれ、吹奏楽部による歓迎演奏で完璧に寝てしまった。後ろにいたリンリンに小突かれて目を覚ましたけど、ヨダレが袖についてしまった。お母さんに怒られるから早く洗わなくちゃ。
「このあとのスケジュールって祭子ちゃん覚えてる?」
「えーっと、確か、生徒が自己紹介したあとに、先生に明日の連絡事項を教えていただいてから解散だったと思います」
うぅ……。自己紹介があるのか……あれって何回やっても慣れないんだよね。
「祭子ちゃーん。どうやったら緊張しないで自己紹介できるのか教えてよーー」
泣き付いてみた。
「そうですね……自己紹介は話す内容は自分の事です。なのでありまのままの自分を包み隠さずに話してみるのはどうでしょうか?」
「ありのまま、かー」
「はい。自分の好きな本、自分の好きな映画、自分の好きな花、自分の好きな星、自分の好きな人、自分の好きな事。得意なものはなんですかって言われても、自分に自信が持てないと、特技とか得意なものって答え難いと思います。しかし、《好き》という自分から沸き上がる気持ちがあるのでしたら、あとはありのままを話すだけで相手にはしっかりと伝わると私は思います」
「そうだね、ありがとう祭子ちゃん。とっても参考になったよ」
「いいえ、ラムネちゃんの役に立てたのなら良かったです」
「皆んな席に着いてー、これから自己紹介をしてもらいます」
先生が手をパチパチと叩きながら注目を集めている。
「では出席番号順に始めて下さい。はい、どうぞ」
右端の最前列の生徒が立ち上がって自己紹介を始めている。
「相田愛子です。中学のときにはサッ……」
「卯月ゆずきです。趣味はお菓子作りで特にチーズケ……」
1人また1人と自己紹介が終わっていく。早く何を言うか決めなきゃ。えーっと料理は得意でもないし、好きでもないかな。愛犬のちくわはどうかな?好きなのは間違……
「風祭祭子と申します。好きな人はラムネちゃんで好きな生き物は水生生物です水生生物は好きですがラムネちゃんは大好きですちなみにこの帽子のクラゲはミズクラゲと言って直径20〜30㎝で傘にクローバーの模様が出ているんですがこれは実はこれは胃になっていてプランクトンを食べたあとには綺麗な色で光るところを観察することができます光るといえば発光魚を知っていますかヒイラギのように浅瀬に生息する種類もいますがほとんどは深海に生息するのが発光魚の特徴ですさながら深海を照らす希望の光のようですよねその不思議な光の仕組みが気になりますよね化化学反応によって発光する自力発光型と共生している発光バクテリアによる共生発光型の2種類に分けることがで……」
やっぱり思い浮かばないな~。可愛いものは好きだけど、じゃあ何が好きって聞かれてもパッとすぐ答えられない。
さっき祭子ちゃんはどうしたら良いって教えてくれたっけ?
好きなことや好きな人のことを包み隠さずありのまま話せば皆に伝わるってことだったよね。
よしっ! 祭子ちゃんを信じてやってみよう。
「はい、次の人お願いします」
先生が私を見ている。何を言おうかあれこれ考えていたら、いつのまにか私の順番まで回ってきたみたいだ。
「あっはい。えーっと……ワタシハコミネラムネデス。スキナマツリコチャンハカザマツリノマツリコチャンンデ、チクワハイヌデス……」
「分かりました。ありがとうございました。では次の人、お願いします」
あーーー緊張して失敗しちゃったーー。この緊張癖の直し方もあとで祭子ちゃんに教えてもらおう・・・
(AM11:30_教室)
「はい、以上で今日の予定は終わりです。もう一度言いますが、明日は創立記念日で休みになります。そして明後日は身体測定があるので、体操服を絶対に忘れないでください。何か質問はありますか?……無いようなので、解散します。それではさようなら」
卒業式、自己紹介、そして連絡事項の説明が終わって帰宅の時間になった。
はぁ〜。やっと終わった。半日しか経っていないのにこんなにも疲れるものなのか。明日が休みで本当に良かったよ。
そうだ、祭子ちゃんには謝っておかないとね。
「せっかく祭子ちゃんにご教示してもらったのに、自己紹介失敗しちゃったよ。ごめんね」
「そうよ!何よあれ、面白い自己紹介してくれちゃって」
リンリンとなぎさちゃんが鞄を持ってこっちへやってきた。
「うぅ〜それを言わないでよー」
「いいえ、ラムネちゃんの気持ちが真っ直ぐに伝わってきた素敵な自己紹介でしたよ」
祭子ちゃんが気遣ってフォローをしてくれた。でも自分でもあれはどうかと思うよ。
「いや、あんたの自己紹介も大概だったわよ?」
「あら、ごめんなさい、私も好きな話になると止まらなくなってしまいますから」と言いながらも祭子ちゃんはニコニコしている。
ぐぅ〜
私のお腹の音が鳴ってしまった。
「えへへ、お腹空いちゃったよ」
「そういえばもうお昼の時間だねー。皆んなで帰りにどこか寄っていかない?」なぎさちゃんが誘ってくれた。
「そうですね、私は構いませんよ」
「私もいくいく!」
「リンリンも行くよね?」
なぎさちゃんがリンリンを誘うとリンリンはとっても嬉しそうな顔をしていた。
「も、もちろん行くわよ!」
「リンリン嬉しそうだね」私がそう言うとリンリンが私のほっぺたを両手で引っ張った。
「うるさいわよ、ラムネ〜」
「しょ、しょんな〜〜」
「では、どこでお食事にしましょうか? ラムネちゃんは何が食べたいですか?」
「ふぅーん、ここらふぇんならかひぃなりぃもんしゃなんてどう?」
まだ引っ張られている。
「はい、良いですね!小さい頃はラムネちゃんやラムネちゃんのご家族とご一緒にお食事したこともありますし、お久し振りに私も食べてみたいです。なぎささんと美鈴さんは雷もんじゃはどうでしょうか」
やっと私のほっぺたから手を離したリンリンとなぎさちゃんが口を揃えて言った。
「雷もんじゃって何?」
「なぎさちゃんはバスでここまで通っているんです。なので学校周辺の地理やお店は地元の私たちよりは疎いかもしれませんね」
「あたしもよ。あたしもなぎさと一緒でバスで通ってるの。この学校は中高一貫校でしょ?なぎさは中学から、あたしは高校から入学ってだけで、ここは地元でもなんでもないのよ」
そっか、私も祭子ちゃんも家が近いから忘れていたけど、遠くから来ている子もいるよね。
「ここらへんだと有名なもんじゃ焼屋さんで、とても面白いお店なんだ。もちろんお好み焼きや鉄板焼きのメニューもあるから好きなものを注文して食べても良いよ」
2人を驚かせたいから何が面白いかは隠しておこっと。祭子ちゃんに目配せすると、理解してくれたのか微笑んでくれた。
「おっいいねー。わたしはもんじゃ焼きって食べたことないんだよね」
「あたしもないわ。どこにあるお店なの?」
意外だったけれど2人とも食べたことがないようだ。まぁ、家庭で作ることってなかなかないし、お店に行かない限り食べる機会ってあまりないのかも。
「えーっとチンチン電車の荒川遊園地前の駅だったよね祭子ちゃん」
「ええ、その通りですね」
「え!?ち……なんですって」が驚いた顔をしている。
都営荒川線は東京の早稲田から三ノ輪までを繋ぐ、地元ではとても重宝している路面電車で、チンチン電車という愛称で呼ばれているけど、実は別に公式な愛称もある。周りで言っている人は聞いたことないけど。
「チンチン電車だよリンリン」
「そうです。チンチン電車です、美鈴さん」2人でリンリンの顔を見た。
「チンチン電車って何さー」なぎさちゃんが不思議そうに聞いてくる。
「あー、都営荒川線はね、発車するときにベルでチンチン♪って合図をするんだ。だからチンチン電車って呼ぶ人もいるんだよ」
「そうですね、私もお父さんから教わりました」
「なんだそういうことかーわたしはてっきり……」
なぎさちゃんは腑に落ちたのか、納得したような表情をして左手の手のひらを、もう片方の手をグーにしてポンッと叩いた。
「リンリン分かった?」
「わ、分かってたわよ!!そうじゃないかって……」
「じゃあリンリン、はい、せーの…」
なぎさちゃんがリンリンの顔を見ながら言った。
「ち……ちん……って、言うわけないでしょーー!!」
リンリンは顔を真っ赤にした。白い肌に赤が映えて綺麗だなーと思ったけど伝えないでおこう。
……怒られるから。
「では皆さん行きましょうか。ご案内致します」と言って、祭子ちゃんが席を立った。
私も貰ったプリントや筆記用具を鞄にしまって席を立った。
学校の校門を出る間、祭子ちゃんとなぎさちゃんは、中学からの友達に話しかけられる度に、短い挨拶を交わしていた。
私の知らない祭子ちゃんの交友関係が分かって、嬉しい気持ちと嫉妬の気持ちが混ざりあっていた。