第三十四話 そして伝説に
暗黒騎士ゾンビを倒してから数か月後。
場所は冒険者ギルドにある酒場。
「じゃあ、そういう事で」
「次のクエストにはティオ達も同行するのじゃろ? 足を引っ張らないか心配なのじゃ」
と、言ってくるのはシャロンである。
彼女は尻尾を振り振りさらに続けてくる。
「ともあれ、これで次のクエストの打ち合わせは終わったのじゃ! 今日も疲れたし、一杯やるのじゃ!」
「あぁ、そうだな。さて、じゃあ注文は――」
と、アッシュが言おうとしたその時。
「あ、あの……大変申し上げにくいんですけど」
聞こえてくる冒険者ギルドの受付のお姉さんの声。
見れば、いつの間にやらアッシュ達のテーブルの傍に居るお姉さん。
彼女は一枚のクエスト用紙を見せながら言ってくる。
「実は緊急クエストが舞い込んでしまいまして……」
「くくくっ……なるほど」
と、偉そうに返事するのはシャロン。
彼女はお姉さんへと言う。
「暗黒騎士ゾンビからこの街を救った英雄……すなわち、この我でなければこなせないクエストが舞い込んだ……故に! この我にそのクエストをやって欲しいということじゃな?」
「あ、いえ。シャロンちゃんじゃなくて、アッシュさんに頼みたいクエストです」
「な、なんでなのじゃ!」
「え、だってシャロンちゃんより、アッシュさんの方がまと――強いですし」
「今、アッシュの方がまともって言おうとした! 酷いのじゃ! それにアッシュは我の配下、我の方が強いに決まってるのじゃ!」
バンバン。
と、テーブルを叩いて猛抗議するシャロン。
しかし、お姉さんはそれを完全無視――アッシュへと続けてくる。
「それで、受けてもらえますか? 明日中にはクリアして欲しいんですけど……」
「…………」
暗黒騎士ゾンビを倒した報酬で、家の問題はクリアした。
けれど、アッシュには新たなる問題が出来てしまったのだ。
それはお姉さんの一連の会話そのものともいえる。
つまり、アッシュの強さが皆にバレてしまったのである。
暗黒騎士ゾンビを倒したあの時――近くに居た人達には、「暗黒騎士ゾンビはシャロンが倒した事にしてくれ」と口封じ的なものをした。
けれど、所詮は口約束。
人は真実をひそひそと語りたがるもの。
最初の数日はよかったが、数週間も経つと。
「アッシュさん? ここはアッシュさんの腕を見込んで、是非とも!」
言ってくるお姉さん。
要するにみんなこの調子である――アッシュの目立ちたくない方針は、もはや木端微塵に砕け散った。
(はぁ……でもこうなったからには仕方ないよな。なんとかできる力がある以上、困ってる人は助けたいし)
そんな事を考えたのち、アッシュはお姉さんへ言うのだった。
「じゃあ明日、そのクエストを受けさせてもらいます。今日はちょっとさすがにきついんで、クエスト用紙だけください」
そして、これは余談だが。
「うぅ……なんでなのじゃ! 英雄扱いされて評価が上がったのはアッシュだけ……我の評価は全く上がってないのはなんでなのじゃ!」
あの日以来。
シャロンは定期的にいじけるようになったのだった。




