第三十三話の三
「待たせたな」
「うっ……ぐす……全然かっこついてない……のじゃあ」
と、不敵な笑みを浮かべるアッシュに対し、隅っこで泣いているシャロン。
「…………」
アッシュはそんなシャロンに対し、猛烈な申し訳なさを感じる。
けれど、今は暗黒騎士ゾンビが最優先である。
決して、盛大に吐いた恥ずかしさを隠しているわけではない。
「さ、さぁ……待たせたな」
「オマエ ナニモノダ ソノ チカラ ドウヤッテ テニレイレタ」
と、いい感じにアッシュの言葉に乗ってくれる暗黒騎士ゾンビ。
奴はアッシュへ剣を向けながら言ってくる。
「オマエ タオス ソシテ クウ ソノ チカラ イタダク」
「そういう能力が備わってるのか知らないけど、倒せるのか?」
「…………」
「だんまりか?」
「ダマレ」
直後、響き渡ったのは鉄と鉄がぶつかりあう澄んだ音である。
「あ~~~~っ! アッシュが我の刀を盗ったのじゃ!」
「後で返すよ!」
アッシュはシャロンへそう言った後、目の前の暗黒騎士ゾンビへ意識を集中する。
今アッシュについているスキル。それから考えるに、武器など使わなくても暗黒騎士ゾンビと渡り合う事は可能だ。
けれど。
「さっきはよくもやってくれたな。お前は全力で倒してやる――俺のジョブは腐っても剣聖なんでな……スキル《幻影剣》!」
「ッ」
と、驚いた様子の暗黒騎士ゾンビ。
それも当然だ――なんせ今、奴の周りには無数の刀が飛んでいるのだから。
そしてその刀は。
「行け!」
アッシュの指示と共に、その全てが暗黒騎士ゾンビへ向かい突き進む。
これがスキル《幻影剣》。作り出した幻影の剣で、四方八方から相手を突き刺す技。
だが、暗黒騎士ゾンビもやはりただの魔物ではない。
暗黒騎士ゾンビはすぐさま後退し、飛んでくる刀を躱すと。
「コレデ オワリ カ」
そんな事を言ってくる。
だが、当然。
「終わりなわけないだろ」
スキル《幻影剣》は超上級スキル。
アッシュは刀を暗黒騎士ゾンビへゆっくり向ける。
すると、再び暗黒騎士ゾンビの真上に無数の刀が現れたのだ。
けれど、今回はそれで終わりはしない。
「スキル《魔剣生成》! お前に降り注ぐ刀を、全て魔剣に変える!」
まだだ。
このまま撃っても暗黒騎士ゾンビはまた避ける。
ならば。
「スキル《重力操作》! お前の周囲の重力を十倍にした……さぁ、避けてみろ」
そうして、アッシュは今度こそ必殺のスキルを放つのだった。




