第三十二話 VS暗黒騎士ゾンビ
暗黒騎士ゾンビは街に向かっている。
アッシュはシャロンと話した末にその結論を出した。
故に彼はマップを開き、スキル《帰還》ですぐさま街に戻ろうとした。
しかし。
「なんだかマップのこの部分、明らかに人が密集してるな」
「早く街に向かわないのかの?」
と、急かしてくるのはシャロンである。
彼女のいう事はもっともなのだが。
「…………」
アッシュは先ほどの密集地域が気になるのだ。
(ここは人が集まるような場所じゃない。狩場でもなければ、何かしらの魔物が出やすいみたいな位置でもない)
にもかかわらず、ここに居る彼等……もしくは彼女達は動こうとしない。
明らかに様子がおかしい。
(それにこの位置も気になる。このダンジョンから街へ移動する線上……か)
正直、かなり嫌な予感がする。
アッシュは「非常事態かもだから、仕方ないか」と一人呟いた後、シャロンへと言う。
「緊急で行かないといけない場所ができた。早急にこのダンジョンから脱出するから、シャロンの力を貸してくれ」
「む? 力を貸すのはいいのじゃが、スキル《帰還》とやらで直接街に帰るのではなかったのかの?」
「いや、予定変更だ。今から行かないといけないところは、このダンジョンからの方が近い」
「だが、ダンジョンを登るのは手間がかかるのじゃ。どちらにしろ、街に戻った方が――」
「天井をぶち抜こう」
「…………」
フリーズしてしまったシャロン。
アッシュはそんな彼女にわかりやすいように、もう一度丁寧に説明する。
「ここは現実だから、ダンジョンの破壊もできるはずだ。まぁ、ゲーマー的にそれはなるべくやりたくないんだけど、人の命がかかわってるかもしれないからな」
「う、うむぅ?」
「今から俺とシャロンのステータスを最大値まで上げた後、様々なスキルを付与しまくる。だから、俺のタイミングに合わせて天井に向けて魔法を放ってくれ」
「なんだか置いてけぼり感あるが、とにかくわかったのじゃ!」
●●●
時刻は先のシャロンの返事から数分後――アッシュ達が居たダンジョンから巨大な光の柱が現れてから数秒。
「驚いたな……一撃で倒す気で蹴ったんだけど、全然効いてないのか?」
「アッシュよ、油断は禁物なのじゃ。こやつから感じる魔力……とてつもないのじゃ。ただの暗黒騎士ゾンビじゃないのじゃ!」
現在、アッシュとシャロンはマップの件の位置へとやってきていた。
そして、その位置にやはり居た暗黒騎士ゾンビ。
(シャロンの警告通り、こいつはただの魔物じゃないな。全力じゃなかったとはいえ、俺の蹴りを受け止めるか)
様々なダンジョンで魔力を蓄えた魔物。
ゲームでは存在しなかった特殊な事例だ。
「面白い……ゲーマーとしては、やっぱり強い敵とも戦ってみたかったんだ。その点ちょうどいい敵だよ、お前は。せいぜい退屈させないでくれよ」
「…………」
と、アッシュの言葉を受けた暗黒騎士ゾンビ。
暗黒騎士ゾンビはそのままゆっくりと、アッシュへ剣を向けてくるのだった。




