第三十一話 暗黒騎士ゾンビの災難
力が欲しい。
誰にも負けない力。
無限の魔力。
「モウスコシ デ チカラガ……」
一歩、また一歩と力へ近づいている感覚。
それが暗黒騎士ゾンビの足を速めていた。
「…………」
長年にわたり住んでいたダンジョン。
暗黒騎士ゾンビにとっては、そこは魔力が自分の質にあっておりとてもよかった。
正直、今でも手放すのは惜しいのだが。
ダンジョンの近くにある街から、凄まじい魔力を感じたのだ。
あのダンジョンに居たのでは、永遠に手に入れられないような魔力。
絶対に欲しかった。
だからこそ、暗黒騎士ゾンビはこうして歩を進めているのだ。
苦手な日光だろうと我慢し、確実に街に近づいている。
「お、おい……待て!」
「くっ……こいつ、強すぎる」
などと、周囲に這いつくばっているのは人間共だ。
暗黒騎士ゾンビが街へ近づくたびに、必死に斬りかかって来る人間。
「ニンゲン キライダ」
暗黒騎士ゾンビは普段、人間を見れば確実に止めを刺している。
だが、今は別である。
「ニンゲン ハ キライダ ダガ トドメ サシテイル ヒマ ナイ」
暗黒騎士ゾンビは一刻も早く力を手に入れたいのだ。
故にこんな雑魚共に構っている暇はない。
「ドケ」
暗黒騎士ゾンビが軽く剣を振うだけで、薙ぎ払われる人間たち。
弱すぎる――かつては自分もこの一員だったかと思うと、吐き気がする。
と、暗黒騎士ゾンビがそんな事を考えていたその時。
「い、行かせないぞ」
そんな声と共に、足に何かが当たる感覚。
暗黒騎士ゾンビがそちらを見てみると、先ほど倒した人間が足に抱き着いていた。
「ジャマ ダ」
現在、暗黒騎士ゾンビに人間を殺す意思はない。
しかし、それは人間が必要以上にこちらの邪魔をしなければの話だ。
「シ ネ」
暗黒騎士ゾンビは剣を逆手に持ち、人間の背中へ突き立てようとする。
だがその間際。
「グ――ッ」
暗黒騎士ゾンビを襲う凄まじい衝撃。
なんとか剣で防御はしたもの、体が数メートル近く後退してしまう。
力だ。
圧倒的な力で攻撃されたのだ。
「ダレ ダ ソノ チカラ ナン ダ」
「驚いたな……一撃で倒す気で蹴ったんだけど、全然効いてないのか?」
「アッシュよ、油断は禁物なのじゃ。こやつから感じる魔力……とてつもないのじゃ。ただの暗黒騎士ゾンビじゃないのじゃ!」




