第二十八話の二
時はあれから数十分後――アッシュがシャロンへの説明を終えて数秒。
「ふむ、我からいくつか質問があるのじゃ」
と、言ってくるのはシャロンである。
彼女は狐耳をピコピコ、狐尻尾をふりふり言ってくる。
「もっとも重要な事なのじゃが、スキル《変換》が我にも使える様になる可能性はあるのかの?」
「それはつまり、俺がお前にスキル《変換》を伝授……もしくは譲渡できるのかってことでいいのか?」
「うむ、とにかく使えるようになるのなら、手段は問わないのじゃ。それで、その力は我のものにできるのかの?」
と、ふんすふんす心なしか鼻息荒いシャロン。
しかし、残念ながら彼女の期待は沿えそうにない。
「結論から言うと、それは無理だ」
アッシュはシャロンへと説明を続ける。
「まず第一に譲渡は完全に不可能だ」
「ふむ、そこまで言い切ると言う事は、先ほど言っていたゲーム――この世界によく似たそれで、そんな手段はなかったと……そういうことなのじゃな?」
「あぁ。あのゲームにスキル譲渡なんて機能がなかった以上、お前にスキル《変換》を譲渡することは不可能だ。少なくとも、今の俺の知識ではな」
「今の俺の知識……というのは、あれかの? この世界とゲームとやらは、違うところもあるから可能性はある。そういう事かの?」
「まぁ、そうだな。ひょっとしたら、この世界で過ごすうちに譲渡する手段は分かるかもしれない」
もっとも、例えわかったとしてもスキル《変換》を譲渡する気はないが。
と、アッシュのそんな内心を読み取ったに違いないシャロン。
彼女は「むぅ」と一言言ってくる。
「この件について話し合うのは後回しなのじゃ! 早く次を言うのじゃ! 次なのじゃ次!」
「わかったよ――さっそく本題のスキル《変換》を伝授できるかどうかって件だが……」
「ドキドキ、なのじゃ」
「…………」
「わくわく、なのじゃ」
「……無理」
「なんでじゃ!?」
と、盛大に尻尾でズビシっとツッコミを入れてくるシャロン。
アッシュはシャロンの尻尾を宥めながら、彼女へと言う。
「スキル《変換》を使ってシャロンにスキル《変換》を伝授……というか、付与することは出来る」
「なら――」
「でも、これには大きな問題があるんだよ。例え俺がお前にスキル《変換》を付与しても、時間が経てばそれはなくなってしまう。そしてもう一つなんだけど……お前なら気が付くんじゃないか? 致命的な問題点に」
「致命的な問題点、じゃと?」
そこでシャロンは尻尾を困ったように数回振り。
「っ!」
何かに気が付いたに違いないシャロン。
彼女はピンっと尻尾を伸ばして言ってくる。
「我にはメニューウィンドウが開けないのじゃ!」
「そういう事。つまり、譲渡にしろ伝授にしろが出来たとしても、スキル《変換》を俺の様に使うの無理だよ」
そう、このスキル《変換》を十全に使えるのはアッシュだけなのだ。
そして、それはシャロンにも伝わったに違いない。
「むぅ~~~~~~! もういいのじゃ! 早く先に進むのじゃ!」
と、シャロンは尻尾をびちびち不機嫌そうに振って、ダンジョンを進んで行ってしまうのだった。




