第二十七話の二
「スキル《召喚》!」
アッシュがそう叫んだ直後、起きたのは魔力の暴風である。
けれどそれはすぐ収まり、その渦の中心から現れたのは――。
「…………」
「…………」
二体の騎士。
頭から爪先まで覆う巨大な甲冑を付けた白と黒の騎士である――二体の騎士は一点を除いて、色以外全てが同じだった。甲冑、体格、放つ気配、全てが同じ。
その唯一違う一点とは、武器である。
黒騎士がオーソドックスな剣を武器にしている一方、白騎士は小ぶりの剣を二刀――いわゆる二刀流なのだ。
「…………」
「…………」
アッシュが観察している間も沈黙を続け、微動だにしない白と黒の騎士。
彼はそんな騎士たちに言うのだった。
「行け。目的はダンジョンの踏破――及び各フロアの敵性魔物の殲滅だ」
すると、白と黒の騎士たちはわずかにうなずく。
直後。
吹き荒れる風。
高速の刃が空気を切る独特の音。
「自分が召喚したとはいえ、ゲームでもリアルでも変わらず強いな……あの二体」
そんなアッシュの視界の先にあるのは、先ほどまで魔物だったものの残骸。そして、興味深そうな表情を浮かべるシャロンだけだった。
消えた二体の騎士たちは、今頃違う場所で魔物の殲滅に当たっているに違いない。
なんにせよ、ここからのダンジョン攻略はイージーモードだ。
アッシュはそんな事を考えながら、シャロンを伴い歩き出すのだった。
●●●
時は数分後。
現在、アッシュとシャロンはダンジョンを地下十階ほどまで踏破していた。
なお、ここに来るまで魔物とは一度も遭遇していない。
白騎士と黒騎士が頑張ってくれているに違いない――問題は討伐対象の暗黒騎士ゾンビにも遭遇していない事なのだが。
(まさか白騎士と黒騎士が倒したりしてないよな? さすがにレイドボスだから、それはないと思うけど)
もしも倒していたら、どうやって確認すればいいのだろうか。
と、アッシュが今更になってこの作戦の問題点を心配していると。
「のう、アッシュよ……このダンジョンは誰もいないのじゃ」
話しかけてくるシャロン。
彼女は「くふふっ」と、なにやら小狡そうな笑みを浮かべて言ってくる。
「そこで、おぬしに聞きたい事を聞いてみようと思うのじゃ。周りの耳を気にしなければ、おぬしも存分に話せるじゃろ?」
「聞きたい、こと?」
非常に嫌な予感がする。
アッシュがそんな事を考えていると、シャロンは言ってくる。
「うむ……スキル《変換》とはなんなのじゃ? それにおぬし、しきりゲームだのリアルだの言っているのじゃ」
「っ!」
「その反応。やはり、我が心を読んだ通りか……おぬし、この世界の住人ではないな」
「いや、それはだな……」
「くくくっ、安心するのじゃ。我はまだ誰にもこの事を話していないのじゃ。それに、おぬしがどこの世界から来たかなど、どうでもいい事なのじゃ」
「そう、なのか?」
「うむ! 今大事なのは、おぬしが我の部下だと言う事だけなのじゃ!」
「…………」
正確にはシャロンがアッシュの奴隷なんですけどね。
とは言わずに、アッシュが彼女の言葉を待っていると。
「しかしなのじゃ! スキル《変換》とやらの正体は教えてもらうのじゃ! それがおぬしの強さの正体――我に偶然とはいえ勝利した力の正体なのじゃろ?」
やはりと言うべきか。
シャロンからはそんな言葉が紡がれるのだった。




