第二十四話の二
嫌な予感がする。
どうしようなく嫌な予感がする。
(せっかく一時しのぎで住む場所見つかったのに、その当日に振り出しに戻るとか勘弁だからな!)
とはいっても、ティオとシャロンによって再び住まいが破壊されるのは、最悪のパターンだ。
そう何度も起きるわけがない。
アッシュはそう何度も自分に言い聞かせるが、嫌な予感は増すばかり。
彼は全力で階段を駆け上がりそして――。
「廊下……あの奥の部屋か!」
廊下を再び全力ダッシュ。
扉に近づくや否やそれを開き、中へと飛び込む。
「ティオ、シャロン! お前らまた何か――」
言いかけた瞬間、アッシュの思考は止まる。
なぜならば、禍々しい色をした何かが、彼の顔面目がけて飛んできたからだ。
間違いなく、何かしらの魔法である。
やはりティオとシャロンはろくでもない事をしていたに違いない。
けれど。
(っ……呑気にそんな事を考えている場合じゃない!)
この訳のわからない魔法に当たり、どうにかなるのは勘弁だ。
と、アッシュはそんな一念のみで咄嗟にスキル《変換》を使用する。
迫りくる魔法という状況に一刻も早く対処するために、無我夢中でステータスを弄る。
魔法の対処には様々な方法がある――魔法防御をあげたりなどなどだ。
だが、この魔法が攻撃魔法なのか状態異常系なのかは現状不明。
ならば――。
アッシュがろくに考える時間もないまま導きだした結論。それはスキル《魔法反射》を自らに付与することである。
(これならどんな魔法でも対応できる! ティオとシャロンも危険な魔法は使っていないだろうし、部屋のどこに当たっても大きな問題はないはずだ!)
と、アッシュの考え通り、放たれた魔法は反射されるのだった。
…………。
………………。
……………………。
時は数分後。
場所は同じくシャロンの部屋。
結論から言うのならば、アッシュは三つ致命的な間違いを犯していた。
一つ目。
跳ね返した魔法はなかなかに悪質な魔法だったこと。
二つ目。
魔王城は魔法防御が完璧で、たいていの魔法は跳ね返す。故に魔法で破壊される心配はないと言う事。
三つ目。
アッシュが考えた最悪のパターンは、魔王城の破壊だったが……そんなものは最悪として想定するのに、かなり温かった事。
「どうしてこうなった……」
「それは我の台詞なのじゃ! おぬしのせいじゃぞ、ティオ!」
「知りませんよ……最初に私にちょっかい出したのはおまえです」
と、アッシュの声に応じるシャロンとティオ。
何が起きたのか簡潔いうとこうだ。
ティオがシャロンにかけた魔法。それをシャロンが扉に向けて弾いた。
その魔法はアッシュに向かって飛んできたため、彼はそれを咄嗟に反射した。
さらに弾かれたその魔法はシャロンの部屋の壁に当たったのだが。
ここで悲劇が起きた。
魔王城の防御は完璧だったに違いない――そう、その魔法は部屋中を反射しまくったのだ。
それはもうすごい速度で飛び回った。
結果。
「これどうするのじゃ! 我は魔王なのじゃ! アッシュは我の部下なのじゃぞ! なのに、どうして我がアッシュの奴隷にならないと駄目なのじゃ!」
と、尻尾を立てて猛抗議するシャロン。
今日この日、アッシュは最強の奴隷を手に入れてしまったのである。




