第二十三話の三
とは言ったものの。
「ま、待つのじゃ人間! わかった、わかったのじゃ! 確かにあれは我もやり過ぎた! おぬしを心底バカにしていたことは認める……認めたうえで謝るから、もう――っ」
むぎゅ。
「んっ……こやぁ」
話を遮り握られる尻尾。
シャロンはそのせいで甘い声が漏れてしまう。
「ふっ……」
と、尻尾を握ってきたティオはご満悦といった様子。
完全に勝ち誇っている――まるでティオと先に行った勝負の時とは、逆の有様である。
「っ……んぁ」
と、シャロンの意思とは反対に、またも漏れてしまう甘い声。
彼女は照れ隠しと、牽制の意味も込めてティオを睨み付ける。
すると。
「良い目つきです……興奮します。アッシュさんは薄々気が付いているみたいですけど……私、実は相手を屈服させて虐めるのが、ものすごく好きなんです」
ティオはジト目の奥に、ドSの炎をチラチラ見せるように言ってくる。
「おまえと勝負している時、おまえが私に向けた視線……あれは屈辱的でした」
「だ、だから……あぅ……それはわ、悪かったっ……と」
「謝らなくてもいいですよ……先ほど言った通り、私はやり返す女。屈辱分はこれからもっとお前を屈服させることで取り立てます」
「こやぁあああああああああっ!?」
シャロンは思わず狐耳と狐尻尾をピンっと伸ばし、体を痙攣させてしまう。
理由は簡単。
「尻尾の先端をコリコリされるのが弱いみたいですね……淫乱狐」
そんなティオの攻めはまだまだ終わらない。
彼女が次にしてきたのは、尻尾を力強く握ってきた事。
普段のシャロンならば、強く握られて快楽を感じたりはしない。
けれど、度重なる毛抜きなどで敏感になった尻尾は。
「ん、きゅ……っ」
シャロンの意思とは無関係に、嬉しそうにぴくぴく震えてしまう。
しかし。
(くくっ……もうすぐ、もうすぐなのじゃ)
シャロンの魔力はあと少しで回復する――無論、完全回復ではない。けれど、隷従の魔法に介入する程度の魔力ならば、それで十分なのだ。
シャロンを屈服させたといい気になっているのも今の内。
当初は隷従の魔法を弾き飛ばすと考えていたが、今となっては生ぬるい。
(ティオに弾き返してやるのじゃ)
つまり、隷従の魔法の効果を反転させる。
そうすればティオは永久にシャロンの奴隷である。
(くふふ……我に立てついたことを後悔させてやるのじゃ! オークやゴブリンどもに貸し与えて、その体と尊厳を汚しつくしてやるのじゃ!)
と、そんな事を考えている間にも必要最低限の魔力が溜まっていく感覚。
それがシャロンへと訪れる。
あとは行動あるのみ。
シャロンは渾身の力で尻尾を動かし、ティオの手を振りほどく。
そしてそのままシャロンは態勢を立て直し、ティオへと不敵な笑みを浮かべて言う。
「残念だったな、人間……これでおぬしの天下は終わりなのじゃ」
「どういう事ですか? それよりその態度……奴隷の癖に生意気です」
と、事態がわかっていないに違いないティオ。
シャロンはそんな哀れな彼女へと言う。
「我は魔王シャロン! まだ成されたばかりの魔法を弾くなど、魔力さえあれば造作もない事なのじゃ!」
「なっ!?」
「くふふっ! 今更慌てても遅いのじゃ! おぬしはこれから我の奴隷として、魔物達にその体で奉仕するだけの哀れな生を送るのじゃ!」
シャロンは右手をティオへと掲げ魔法を――。
放とうとしたまさにその時。
「っ!」
なんと、ティオがシーツを引っ張ったのである。
結果。
「な、なんじゃと!?」
シャロンの足はシーツにすくわれ、態勢が崩れる。
そうなると当然、ティオに向けていた手も彼女からそれるわけで。
(くっ、まずいのじゃ! このままではティオに隷従の魔法を弾き返せないのじゃ!)
いくら考えてももう遅い。
隷従の魔法は見当違いの方向――扉の方へと向かって飛んで行ってしまうのだった。




