第二十三話 魔王と邪悪なる魔法使い
時はアッシュ達と別れてから数十分後。
場所はシャロンの自室。
カチャッ。
シャロンはそんな音と、自らの首に何かが当たる感覚に眼を覚ます。
けれど、襲い来る睡魔には抗えず。
「うぅ……我はまだ眠るのじゃ」
シャロンは今日、とても頑張った。
ティオ相手に魔力のほぼすべてを一気に放出。さらには大魔力を使う魔法陣の作成だ。
ここまで何もかも使い尽くし、疲れ切るのはシャロンとしては初の事だ。
これまで彼女は常に余力を残していた。
と言うのも――。
(魔力を枯渇させたり、心身ともに疲れ切った状態になってしまうと、魔法に対する抵抗力が極端になくなってしまうのじゃ)
それは魔王としては死活問題だ。
なんせそれが他の魔物――魔王の座を狙っている者にばれれば、確実に今がチャンスと襲ってくるに違いない。
故にシャロンは自室のベッドに入るまで、気を張り疲れを見せなかったのだ。
しかし。
(やっぱりもう限界なのじゃ……ものすごい眠いし、これ以上は思考、が……)
シャロンの意識はゆっくりと闇の中へ落ちていく。
と、まさにその時だった。
シャロンの体に異常な魔力が流れたのは。
「っ!?」
そのような異常を感じては、いくら眠いとはいえ眠り続けるわけにはいかない。
シャロンはバッと飛び起きようとするが。
「なっ……!?」
足に力が入らず、ペタリとベッドに崩れ落ちてしまう。
それでもシャロンは冷静に、周囲の確認をする。
先ほどシャロンの体に流れた魔力は、明らかにシャロンのものではなかった。
と言う事はつまり、この部屋にはシャロン以外の何者かが居ることに――。
「おきましたか……少し遅かったですね」
聞こえてくる少女の声。
シャロンがその声の方へと視線を向けると、そこに居たのは。
「おぬしは、ティオ……一人で我の下にやって来るとは、いったいどういうつもりなのじゃ? それに先ほど奔った魔力、我にいったいなにをしたのじゃ!」
「いえ……隷従の儀式を試してみただけです」
と、何事もないように言ってくるティオ。
彼女は自らの首をトントン叩きながら続ける。
「首のところです……触ってみてください」
「く、首じゃと?」
人間如きの指示に従うのは不本意だが、今は状況確認が第一。
シャロンはそう判断し自らの首に触れる。
するとそこには。
「な、なんじゃこれは!?」
なんと、シャロンの首には鉄製の首輪が付いていたのだ。
いったいどうしてこんなものが……と、シャロンは考えるがすぐに止める。
なぜならば、その答えは先ほどティオが言っていたからだ。
「隷従の儀式……といったな、人間」
「はい。知っての通り、魔物を従わせる魔法です……本来強い魔物には効かないのですが、今の弱体化しているおまえになら効くと思いまして」
などと言ってくるティオ。
シャロンはそんな彼女へと言う。
「れ、隷従の首輪などどこから持ってきたのじゃ! こんな忌々しいもの我が城には――」
「酒場から魔法陣を作った地に移動する間に買ったんですよ……隙を見ておまえに使おうと思って」
「どういうことじゃ!? 我が魔王だと、魔物だと明かしたのはつい先ほどのはず……にもかかわらずどうして、事前にそんなものを!?」
「おまえ、バカですね……私と戦っている最中、普通に魔王がどうのと叫んでしましたよ」
「う、嘘なのじゃ! そんな事言ってないのじゃ!」
全く記憶にない。
だが、もしティオの言う通りならば間抜けもいいところだ。
シャロンがそんな事を考え、歯噛みしていると。
「なにはともあれ、おまえには隷従の魔法をかけました。これからおまえは、永久に私の使い魔です」
そんな事を言ってくるティオ。
シャロンはその言葉に怒り心頭。彼女へと言う。
「我を使い魔じゃと!? この無礼者め!」
「無礼者はどっちですかね? 今の私はおまえのご主人様です……さぁ、服従してみてください」
「な、誰がそんな事を――」
と、そこまで言った瞬間。
シャロンの体は意に反して、屈服の態勢――寝転がりティオにお腹を見せる何とも情けないポーズを取ってしまう。
「な、なんじゃこれはぁああああああああ!?」
「私がご主人様だということですよ」
と、ティオはシャロンに近づきながら言ってくるのだった。
「シャロン……私はやられたらやり返す女です。おまえが私に屈辱を与えたように、今度は私がお前に屈辱を与えます……永久的に」




