第二十二話 ようこそ、狐のお宿へ!
魔法陣を抜けた先、最初に見えたのは――。
見渡す限り一面の魔物達、そしてその背後に聳え立つ巨大な城だった。
「な、なによこれ!?」
と、エリスのそんな反応も当然である。
なんせその魔物達は、何故か全員が跪いていたのだ――手足がない魔物もその全てが首を垂れるなど、何らかの服従の証をしているのだ。
誰がどう見ても異常事態である。
しかし、アッシュはその光景と背後の城を見てすぐに理解してしまった。
(おい、おいおいおいおい! シャロンの家って魔界とやらの魔王城か!? 人界に拠点を構えないで、シャロンは毎回魔王城から冒険者ギルドに来てるのか!?)
まずい。
アッシュは意図せずして、エリス姉妹を文字通り魔の巣窟に送り込んでしまったようである。先ほどから引き続き二人には本当に申し訳――。
「我の帰還なのじゃ! 道を開き、扉を開けるのじゃ!」
と、アッシュの思考を切り裂き言ってくるシャロン。
彼女は魔物達が指示に従ったのを見届けたのち、言ってくるのだった。
「さぁ、ようこそアッシュ。そして人間どもよ……魔王城へ訪れた人間は、おぬし達が初めてなのじゃ!」
●●●
魔物魔物魔物。
右を見ても魔物。
左を見ても魔物。
すれ違うのもみんな魔物。
現在、アッシュ達はそんな廊下を通過した後、それぞれにあてがわれた部屋へと通されていた――なお、部屋割りはアッシュで一部屋。ティオとエリスで一部屋といった感じである。
当のシャロンはというと。
『我は疲れたのじゃ……本来なら、おぬし達をもてなしたいところなのじゃが、それは魔物共に任せるのじゃ。我は寝る……魔力がすっからかんなのじゃ』
案内が終わるとともに、自室に引きこもってしまった。
ただでさえ疲れた中、アッシュ達の案内をして限界が来たに違いない。
コンコン。
と、ふいに聞こえる扉が叩かれる音。
アッシュがそれに対し「どうぞ」と言うと。
「お、お邪魔します」
入ってきたのはエリスである。
彼女はそわそわして様子で近づいて来ると。
「あ、アッシュ! 魔物よ、魔物がいるわ!」
「お、おう」
「っ! なんであんたもティオもそんなに落ち着いてるのよ! 魔物よ、魔物! しかもあのシャロンって奴、自分の事を魔王って言ってたのよ!」
「いや、俺はあいつが魔王なの知ってたし。ここにいる魔物は野生じゃなくて、シャロンの配下だから危険じゃないだろ……少なくとも、あいつと仲間の間は」
と、ここでアッシュはとある事が気になる。
(あれ? 今エリスの奴、ティオも落ち着いてるって言ってたよな? あいつはシャロンの強さを知ってこそいても、あいつが魔王なのは知らないはずなのに)
というかそもそも、ティオは今どうしているのか。
エリスはその性格してから、ティオといる時に一人でアッシュの下に来るような奴ではない。
と言う事はつまり、今ティオは部屋にいないのではないか。
アッシュはそれをエリスに聞こうとするが。
「魔王……魔王に捕まって、牢屋に閉じ込められて……それで、それで……んっ。く、臭くて、醜くて、ふ、ふとった魔物達にあたしは……あたしはっ!」
「…………」
エリスは駄目だ。
これは放置だ。
「まぁ、どうせ大した問題もないだろうし、調べなくてもいいか。明日からはここを拠点にクエストこなしたり、色々やって家を建てる金を稼がなきゃいけない」
明日から大忙しだ。
今日は一日ゆっくりするのである。




