第二十一話 狐のお宿へ
時は再び数分後。
場所は元ティオ、エリス家のあった空き地。
「それで、お前の家ってどこにあるんだよ? この街の冒険者ギルドに顔を出しているってことは、遠くはないんだろ?」
「いや。ここからはかなり遠いのじゃ」
と、アッシュの言葉に対し言ってくるのはシャロンである。
そんな彼女へすかさずつっこむのは――。
「ではどうやって、ここまで来ているんですか?」
「まさかそんな遠くから歩いて来てるってわけじゃないわよね?」
ティオとエリスである。
そんな二人に対し、シャロンは更に続ける。
「ふんっ! 我をバカにするななのじゃ! 我は至高の存在故、長距離移動に足など使わないのじゃ!」
と、シャロンは刀を抜き放ち、それを地面へ一度コンっと軽く打ち付ける。
すると。
周囲に迸る強烈な魔力。
バチバチと雷を放出しながら現れたのは――。
「これは……魔法陣ですか?」
「でも、こんなに魔力が込められた魔法陣なんて……っ!」
「くくくっ!」
と、ティオとエリスの声に対し、シャロンは満足そうに言ってくる。
「聞くがいい、人間どもよ! これは転移の魔法陣なのじゃ!」
「……っ!?」
「う、嘘でしょ!? 転移の魔法陣を一人で作り上げたの!?」
そんな二人の様子から考えるに、シャロンの魔法陣は凄まじいに違いない。
しかし、魔法に疎いアッシュとしては、いまいち凄さがわからない。
「なぁティオ、この魔法陣ってそんなに凄いのか?」
「あたりまえですよ……転移の魔法陣は大都市と大都市を結ぶ時にしか作られません。そして、それには理由があるんです」
続くティオの話とまとめるとこうなる。
転移の魔法陣は作るのにそもそもが、膨大な魔力を必要とする。
その必要量は一人で足りるようなものではない――シャロンが作った小型の転移魔法陣でも、最低百人程度の優れた魔法使いが必要とのことだ。
(魔力とか魔法使いで言われても、やっぱりいまいちピンとこないな。だけどつまり、日本で言うと地下鉄を一人で作ってみました……的な事を、シャロンは一瞬でしたってことか?)
だとするならば、確かにすごい。
ポンコツ狐かと思っていたが、さすがは魔王というわけである。
と、アッシュがそんな事を考えたその時。
「っ……」
シャロンが額を抑えながら、急によろけたのだ。
アッシュはすぐさま彼女を支えるが、その顔色はかなり悪い。
「シャロン、大丈夫か!? さっきまで普通に話してたのに、急にどうしたんだ?」
「う、うむ……少し魔力を使い過ぎてしまったのじゃ」
と、狐耳と狐尻尾を力なくへたらせるシャロン。
彼女は気怠そうに言ってくる。
「普段ならこの程度の魔法陣、どうってことないのじゃが……ティオとの一戦が堪えたのじゃ。まさか人間如きにほぼ全ての魔力を使う事になるとは……」
「あ、あぁ……」
シャロンの言葉に対し、アッシュは思わず冷たい汗を流す。
なぜならば。
(シャロンがティオに想定外の魔力を使う事になったのは、俺がティオにスキル《変換》使ったからなんだよな。つまりこれ、俺のせいで魔力欠乏とかそんなの起こしているんじゃないか?)
同時、アッシュは気が付いてしまったのである。
シャロンとティオの話を聞く限り――手加減していたシャロンがティオに本気を出したのは、ティオが突然神話級を超える魔力を放ったからだと言う。
「…………」
つまり、もしもアッシュがスキル《変換》を早とちりで使わなければ。そうすれば、ティオは神話級の魔力を放つこともなく、シャロンが対抗して全力を出すこともなかった。
(あれ……これ、ティオ達の家が壊れたのって、よく考えたら俺のせいなんじゃ……)
「どうしたのじゃ、アッシュよ。おぬしも顔色がよくないのじゃ……おぬしは我の大切な部下、何かあったらすぐに言うのじゃぞ」
と、アッシュに抱かれながらも彼の頬を撫でてきてくれるシャロン。
しかし、真実に気が付いたアッシュとしては、それがどうしようなく申し訳なく。
「と、とりあえず早くシャロンの家に行こう。今日は色々あったから、シャロン以外も全員疲れてるだろうし」
アッシュは話を変えつつ、早々に全員を魔法陣の中へと誘導する。
すると、魔法陣はすぐに反応しアッシュ達を光が包む……その間際。
「ほう。スキル《変換》か……くふふっ」




