第二十話 家を建てます
「家を建てます」
「はぁ? あんたいきなり何言ってんのよ!」
と、アッシュに言ってくるのはエリスである。
現在、時は家崩壊から数十分後。
場所は冒険者ギルドにある酒場――アッシュ、ティオ、エリス、そしてシャロンはテーブルを囲んでいた。
そうして理由はもちろん、件の家崩壊について緊急会議を開くためである。
のだが。
「だいたい、なんであんたが仕切ってるのよ! ヒモなんかに仕切られたくないんだからね!」
御覧の様に、エリスはアッシュが進ん発言するのが気に入らない感全開だ。
故に、アッシュはそんな彼女へため息交じりに言う。
「ティオとシャロンは未だにわーわーやって話に参加してこないし、お前は放っておくと変な妄想し始めるからだよ! 俺が家について話をしないと、誰も話をし始めないだろ!」
「変な妄想って何よ!」
「話を最後まで聞け! いいか? それに俺はもうヒモじゃない……なんせ、お前達の家は崩壊した。俺がもうあの家に厄介になる事はない」
「つ、つまりどういうことよ!」
簡単に言うならこういう事だ。
アッシュはにやりと笑みを浮かべ、エリスへと言う。
「俺とお前の立場は同じになったんだよ!」
「っ!? あ、あたしがこんな変態と……変態と同じ身分に堕とされ……だ、だめ! なんか興奮するんだからね!」
「…………」
(やっぱりエリスは駄目だ。話が通じない……というか、エリスと話していると、俺もどんどん話がおかしな方向に行く感ある)
と、アッシュがそんな事を考えていると。
「アッシュさん……エリスと随分仲がいいですね」
なにやらジトっとした視線をなげかけてくるティオ。
彼女は未だわーわー言っているシャロンを無視し、アッシュへと言ってくる。
「いつの間にそんなに仲がよくなったんですか……」
「え、いや……」
いつの間にと言われても困る。
しかし、もしも仲良くなったように見えるのならば、その理由は一つだ。
(あの路地裏の一件だよな……あれ以来、エリスとバカな会話するの増えたし。でも、あそこで起きた事をティオに言えるわけがないし)
「怪しいですね……浮気の気配がします」
と、かつてないジトーとした視線のティオ。
(いや、浮気ではない。っていうか、ティオとはそういう関係ではない)
しかし、ティオの視線の圧力が半端ない。
アッシュはそれから逃れるようと。
「そ、それで家の件だけど。今住んでいる土地の隣の土地も買って、大きな家を建てようと――」
「ちょっと待ちなさいよね! なんで、さも一緒に住むみたいな感じになってるのよ!」
と、またもつっかかってくるエリス。
けれど、これに関してはティオが彼女へ一言。
「私がここへ来る道中提案したんですよ……一緒に住みませんかと」
「はぁ!? あんた正気!?」
「正気ですよ……アッシュさんと居ると楽しいので」
「あんたそれ、言ってて恥ずかしくないの?」
「?」
などなど聞こえてくる姉妹の会話。
アッシュは話がやはり進まない事にため息をつきつつ、一人考える。
(家はまぁ建てるとして、問題はそれまでどこに住むかだ。最悪俺は野宿でいいとしても、ティオとエリスをそれに付き合わせるわけにはいかない)
と、ここでアッシュはとある考えが思い浮かぶ。
それは。
「なぁ、シャロン。お前って当然家あるよな?」
「くふふっ、誰に言っているのじゃ!」
と、言ってくるシャロン。
彼女は胸を張り、高らかに言葉を続けてくる。
「当り前なのじゃ! 我の家――否! 我の城は巨大なのじゃ! おぬしら人間が持つ家とは比べ物にならない――」
「ティオ達の家を壊したのにお前も絡んでるんだから、しばらく家に住まわしてくれよ」
「え……う、うーんなのじゃ」
「頼む! シャロン、頼む!」
「あ、アッシュが来るのは別にいいのじゃが……いいのじゃがぁ」
と、ティナとエリスの方を見るシャロン。
どうやらあの二人を招くのに、何かしら抵抗があるに違いない。
けれど、おすなら今しかない。
「シャロン! シャロンのいいとこ見てみたいな! 器が大きなところ、見てみたいな!」
「う、うーむ……えぇい! わかった、仕方ないのじゃ! 我がまとめて面倒みてやるのじゃ! どんとこいなのじゃ!」
勝った。
アッシュはシャロンの言葉に対し、そう思うのだった。




