第十七話 ティオの大いなる敵
時はアッシュとエリスがナスとキュウリ――どちらを買うか迷っている少し前に遡る。
場所はティオエリス宅。
「ジトー……」
現在、ティオはシャロンを見つめていた。
「ジトー……」
「ん? どうしたのじゃ? 我の顔に何かついているのかの?」
シャロンは何か言っているが、それでもティオは見つめ続ける。
すべては彼女を見極めるために。
(この狐……アッシュさんと仲がよさそうでしたが、いったいどういう関係なのか……すごく気になります)
情報によると、シャロンはアッシュの先輩的立ち位置。
すなわち、冒険者仲間という事になるのだが。
(アッシュさんが冒険者になったのは先日……それなのに、ここまで親しくなるものですかね?)
なんせ、シャロンはアッシュと一晩を明かしたのだ――それもティオの家でだ。
大胆不敵なうえに、怪しい事このうえない。
「…………」
ティオの勘が告げている。
シャロンは彼女にとって、大きな敵になると。
(やはり遠回しな好きアピールではなく、もっと直接的に言った方がよかったですかね……アッシュさんにその……好き、と……ライクではなく、いわゆるラブであると)
ティオはアッシュに助けられたあの瞬間、自分でも驚くほどに彼に惚れていた。
(エリスといい、やはり姉妹ですね……すぐに惚れてしまう)
とはいえ、あの盗賊まがいに襲われている状況下――本当に助けに入って来る男性など、そうそういないに違いないのだが。
まぁそれはともかく、今は目の前の少女シャロンである。
(エリスもアッシュさんを好きみたいですが、あの性格……放置していても大丈夫と思いきや、まさか新たな敵が出てくるとは)
と、ティオがそんな事を考えていたその時。
「ほーう、なるほど」
シャロンがやたら偉そうで悪そうな笑みを浮かべ、ティオへと言ってくる。
「おぬし、アッシュに惚れているのか? それで我の出現に危機感を覚えていると……くくくっ」
「なっ!?」
「姉は敵でないと、油断していたら我に男を取られたと? くははははははははははっ!」
「おまえ……私の考えを?」
「その通りなのじゃ! 我にとって、人間の考えを読み取るくらい造作もないのじゃ!」
もしも、そんなシャロンの言葉が真実ならば……地獄だ。
ティオは普段外には出さない、恥ずかしい思考が全て読まれたという事になる。
(ら、ライクとかラブとか……だ、だめです……考えないようにしないとっ)
と、そんなティオの考えを読んでいるに違いないシャロン。
彼女は楽し気な笑みを浮かべ、続けて言ってくる。
「まぁ安心するのじゃ……アッシュは我の部下、恋愛がどうのといった俗な関係ではないのじゃ」
「……つまり、アッシュさんに男性としての興味はない、と?」
「くくっ……まぁそうじゃな」
その言葉にティオが安心するのもつかの間。
シャロンは言ってくる。
「しかし、それはあくまで男性としてという意味なのじゃ。我はアッシュを人間として、とても気に入っているのじゃ」
「それはどういう――」
「アッシュは我のものなのじゃ――つま先から頭部に至るまで、全て我のもの……誰にも渡さないのじゃ。くくくっ……あれほど優秀な人間なのじゃからな。将来は奴との間に子を設けるのもいいかもしれないのじゃ。さぞ優秀な子が――」
「だ、ダメです! アッシュさんは渡しません! あ、アッシュさんの子供を孕むのは私です!」
いったい何を言っているのか。
自分はこんなに大きな声が出せるのか。
ティオがそんな事を考え、しばし沈黙していると。
「くははははははははははっ! 面白い……アッシュの同居人だけあって、なかなか威勢のいい人間なのじゃ!」
と、シャロンは邪悪な笑みを浮かべ言ってくる。
「よかろうなのじゃ。ならば、アッシュを賭けて勝負をするのじゃ」
シャロンが勝てばアッシュは彼女のもの。
ティオが勝てばアッシュは――。
「その勝負……受けます」




