第十六話の三
犯すだの監禁だの。
家畜だの雌豚だの。
アッシュはそれからも、エリスとそんな話を続けた。
エリスは腐っても女の子だ……それもかわいい。
アッシュとしてはそんな子と二人きりの時に、そんな会話をしたくはない。
するならばもっと、楽しく明るい話題がいいのだが。
(なんだかエリスと話してると、仲のいい男友達と話してるみたいな感覚になるんだよな。自然と下ネタが飛び出すと言うか……はぁ)
というか、自然と下ネタが飛び出すってなんだ。
やはり女の子との会話で、そんなものが自然になって欲しくない。
と、アッシュが改めて考えたその時。
「それで、ナスとキュウリどっちがいいのよ?」
エリスが両手に野菜を持ちながら言ってくる。
そう。
アッシュは現在、ようやく本来の目的を果たしに来ていたのだ。
ティナから頼まれたおつかいを済ますという目的を。
にしても。
(駄目だ……エリスはどっちの野菜を買うか聞いてるだけなのに、全部下ネタに聞こえてしまう。それともまさか、エリスは狙ってやってるのか? いや、駄目だ駄目だ駄目だ! 変な事考えるな、俺までエリスみたいな変態思考になってきてるぞ!)
「ねぇ、ちょっと! 返事しなさいよね!」
と、エリスはナスとキュウリをアッシュへ突き付け言ってくる。
「太いのと長いの、どっちをいれたいのよ!」
「くっ……正気を保て、痴女に負けるな!」
「はぁ? あんたついにおかしくなったみたいね。どっちをいれたいかだけでも、ちゃんといいなさいよね!」
「……太いので」
と、アッシュが答えたその時。
ピロロン。
アッシュの脳裏に妙な感覚が奔る。
まるで脳内でスマホの着信音がなったかのような音だ。
(なんだこれ? いきなりすぎて驚いたけど、今のってあのゲームでよくあったメールの受け取り音……だよな?)
このゲームはゲームではないが、ゲームに似ている面もある。
ということは、さっきの音は実際にメールが届いた音ではないのか。
アッシュはそう判断し、メニューウィンドウのメール画面を開いていく。
(この世界のメールがどういうシステムで送れるのかは、正直まだわからないけど……やっぱり、メールが届いてる)
差出人はティオである。
そこに書かれていたのは。
『アッシュさん……ピンチです。負けてしまいそうです……助けてください、どうかアッシュさんの力を貸してください。この家と……アッシュさんを守るために!』
「っ!」
一目見てかわる。
ティオは今、何かしらの危険に陥っているに違いない。
つまり、緊急事態だ。
アッシュはすぐさまティオのステータスを開く。そして、そこにある全てのステータスにスキル《変換》を使用。
(どんな事態にも対応できるように、全てのステータスを上昇させるしかない!)
アッシュは操作を終えたのち、ちょうどお会計をし終わったエリスの手を掴み。
「エリス、行くぞ!」
「え、ちょっ……急になによ!? え、え……そ、そういう事!? まさかそういう事をする覚悟できたの!? い、いいわよ! 仕方ないから、あんたの好きなように使われてあげるんだから! で、でもあたし初めてだから……その、なるべく痛くて気持ちよくしてくれると――」
「いいから、早く!」
アッシュはエリスの妄言を遮り、ティオの家へと向かい走るのだった。
(ステータスを上昇させたから、大概の事は乗り切れると思うけど……頼むから、無事でいてくれ!)




