第十六話の二
「はぁはぁ……っ」
「…………」
「はぁはぁ……っ」
「…………」
と、続くエリスの興奮した息遣いにアッシュの沈黙。
現在、アッシュは変わらず痴女ことエリスに襲われている――手首を掴まれ、たわわに実ったそれを体に押し付けられ、超至近距離からみつめられている。
正直、どうしていいのかわからない。
(ティオさんや、お前のお姉さん変態だよ。正直、ここまで変態だとは思わなかったよ)
エリスはアッシュの事を恩人だと言ってくれた。
エリスはアッシュの事を好きになれるかもと言ってくれた。
だが。
(嬉しいけどさ、一足飛びにこれはないだろ!)
アッシュは冷静にそう考える。
そして、この現状から脱出する一手を放つ。
すなわち。
「チョ~~~~~プッ!」
「痛っ!?」
と、聞こえてくるエリスの声。
彼女は両手で自らの頭を抑えたのち、不満そうな様子で言ってくる。
「なにすんのよ!」
「こっちの台詞だからな!? いったい何する気だったんだよ!」
「な、なにって……そんなのあんたに襲われて、犯されて……滅茶苦茶に……んっ」
などと、エリスは頬を染めている。
彼女はそのままちらちらアッシュを見たのち、更に言ってくる。
「っていうかなによ! あんた空気読みなさいよね!」
「空気ってなんだよ!」
「空気よ、空気! どうみてもあたしを犯す流れだったでしょ!」
「そんな空気ないから! 犯される奴は犯す流れとか言って来ないから! というか、女の子が犯す犯す言うのやめろよ!」
「正直言うわ! 比較的チョロイあたしはあんたに助けられて、あんたへの好感度限界突破。あんたになら犯されてもいいって、そう思ってたわ! なのに……このヘタレ! 一つハッキリしたわ……あんた童貞でしょ!」
「比較的? 比較的チョロイ? チョロすぎるだろ! 今後が心配になるくらいチョロイなお前!」
アッシュはここぞとばかりに、エリスへと口撃する。
「あとな、お前の態度からは俺への好感度を全く感じないんだよ!」
「なによ童貞! あたしはツンデレなの、今はツン期なだけ! あんたがあのままあたしを犯してれば、デレ期に入ってあげたんだからね!」
「ツンデレは自分でそういうこと言いませ~ん!」
「なにその態度、上等よ! このヘタレ童貞ヒモ男!」
「うるせぇ! この変態なんちゃってツンデレチョロイン!」
不毛だ。
なんて不毛な会話をしているのだろうか。
アッシュが内心そう思っている間にも、エリスは言ってくる。
「ふんっ! 何を言ってきても、あんたがあたしのヒモな事には変わりないんだからね! 悔しかったら、独立してあたしを性奴隷として飼うくらいしてみなさいよね!」
「言ったな? あぁ、いいよ。やってやるよ! でっかい豪邸を建てて、お前を地下室に監禁してひぃひぃ言わせながら調教してやるよ!」
あれ、何言ってんだ俺。
と、アッシュは一瞬正気に戻る。
けれど、続くエリスの言葉で、すぐにその思考は消え去ってしまう。
「監禁してひぃひぃ……そ、それってどういうプレイをしてくれるのよ! ま、まさかティオと二人で家畜と……じゅるっ」
「プレイとかデカい声で言うなって! というか……あぁ、涎! 涎垂れてるんだよ!」
何かとんでもない事を言ってしまった気がする。
アッシュはそんな事を考えながら、エリスの口元をハンカチで拭いてやるのだった。




