第十六話 路地裏の痴女
結論から言うのならば、ティオからの追撃は特になかった。
彼女はジトーっとアッシュに冷たい視線を向けた後。
『アッシュさん……エリスと一緒に買い出しに行って来てください。朝食……シャロンさんの分が足りないので……いえ、私はシャロンさんと話したいこともありますし……はい、家でお留守番です』
と、こんな事を言ってきたのだ。
ティオとシャロンの間で行われる会話。それには興味が尽きない。
けれど、彼女から送られる『早く出て行け』オーラには勝てない。
結果、アッシュはこうして買い出しに来ているのだ。
当然。
「っ……」
と、自らの体を抱きしめ、アッシュに警戒心全開の様子なエリスも一緒だ。
彼女は家を出てから、ずっとこの様子である。
(どうして俺の事をずっと睨んでるんだ? なんだか頬も赤いし……気になる)
エリスの事だ。
どうせろくな事を考えていないのはわかっている。
けれど、このままの状態で買い出しを続けるのも、何か味気ない。
アッシュはそう判断し、エリスへと声をかける。
「あ、あの――」
「ひゃぅ……っ! な、なによ!」
「え、いや。なんでそんなに俺の事警戒してるの? せっかく二人で出かけたんだから、少しくらい話しても――」
「う、うるさい! そんな事言っても騙されないんだからね!」
と、エリスはキッとアッシュを睨み付けながら言ってくる。
「最初の最初はあたし達の事助けてくれたから、すごくいい人かもって思ってたわ! でも、実際は全くそんな事ないんだから!」
「それって……」
「心当たりがあるって顔ね! そうよ、あんたがあたし達の体目当てなのは、とっくの昔に気が付いてるんだからね!」
ほら、やっぱりろくでもない事を考えていた。
アッシュがそんな事を考えていると、エリスは更に続けてくる。
「あたしの裸を見たり、ティオを手籠めにしたり、部屋で獣人の子とせ、せせ、せっく……っ、合体したり! 下半身で物を考えてるのは明らかなんだからね!」
「いや待てよ! お前が言ってるの全部微妙に違うよな!? だいたい、最後のなんてブーメランすぎるだろ!」
「なっ!? どういう意味よ! あたしがエッチな事ばっかり考えてる、変態雌豚奴隷だって言いたいの!?」
「そうは言って――」
「言ってたわよ、この変態! あ、あたしがいくらエッチだからって、お手軽なんて思わないでよね! あそこみたいな裏路地に連れ込んで、犯せると思ったら、大きな間違いでもなくもないんだからね!」
「…………」
アッシュにはもはや、エリスの言っている事が何一つわからなかった。
完全に暴走しているとはこのことだ。
アッシュが暴走変態少女エリスを見て、呆然としていたその時。
ガシッ。
アッシュは突如、エリスによって手首を掴まれる。
そんな彼女は彼の手首を引っ張り、路地裏へと誘導しながら。
「来て、いいから来て!」
そして、エリスはアッシュを路地裏へと半ば強引に連れていくと、さらに言葉を続けてくる。
「っ……!? あたしをこんな所に連れ込んで、いったい何する気!?」
「え」
「た、確かにあんたには感謝してるわ。あんたがいなかったら、あたしもティオも……で、でもっ……でもだからって、こんなところに連れ込んで、あたしを犯すなんて……そんなの酷いんだからね!」
「だから、ちょっと――」
「んっ……いい人だって、思ってたのに! 命の恩人だって思ってたのに……この人なら好きになれるかもって――そう思ってたのに!」
「…………」
「ティオ、ごめんね……あたし、今から鬼畜に犯されるわ。大切な所をめちゃくちゃにされて……っ、はぁはぁ……めちゃくちゃ、めちゃくちゃに……はぁはぁ」
「…………」
いったい何が起きているのか。
超展開である。
(えーと、路地裏に連れ込まれたのは俺だよな? しかも、手首を掴まれて逃げられない……更に言うなら、エリスは露骨に体を押し付けてきてる……あぁ、わかった!)
自分は今、痴女に襲われているんだ。
アッシュは全て理解したのだった。




