第十四話 魔王を屈服させてみる
「狐!」
と、アッシュは叫びながら上半身を起こす。
そして、しばらく無言で思考を整理。
「なるほど……金色の狐に日本が滅ぼされるのは、全部夢だったのか」
よかった、本当によかった。
しかし、あの夢で残念だったことも一つある。
それは。
「はぁ……あの狐の尻尾、モフモフしててすごい気持ちよかった――」
もふ。
「!?」
アッシュの気のせい……ではない。
もふ。
もふもふ。
アッシュが手をにぎにぎする度に、何かが彼の手をもふもふと刺激するのだ。
握力に反発し、もふ力を発揮してくるこれの正体……それは。
「んっ……きもち、い……もっと、もっと握って……しごいて欲しい、のじゃぁ」
狐だ。
狐尻尾だ。
もふもふ。
もふもふもふ。
もふもふもふもふ。
「ん、きゅっ……ふ、あっ……」
握る度に喘ぎ、気持ちよさそうにぷるぷる震えるシャロン付きの狐尻尾だ。
握るよ。
「あっ……わ、わりぇの尻尾……め、滅茶苦茶に……も、もっと……っ!」
しごくよ。
「んにぃいいいいい~~~~~~~~~~~~~~~~っ!」
こりこりするよ。
「っ……っ……!」
アッシュが狐尻尾を弄る度、様々な反応を見せるシャロン。
と、彼はここまでボーっとどこか夢見心地で、その様を見ていたのだが。
コンコン。
「アッシュさん……そろそろ朝食ができます……起きてください」
ノックと共に聞こえてくるティナの声。
それにより、アッシュの意識はようやく覚醒する――同時、彼は自らが今、とても危険な状況に居る事を認識する。
「っ!」
(何を呑気にシャロンの尻尾を揉んでるんだ俺は! しかも、シャロンは一応女の子だぞ!? それをこんな……こんな……)
「…………」
と、シャロンは完全に沈黙している。
体を汗で濡らせ、花の様な香りを漂わせながら、くたっと完全にダウンしてしまっている。
(ヴぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!)
終わった。
このまま部屋に引きこもっても、シャロンが眼を覚ませば確実に殺される。
ティナかエリスに部屋の中に入って来られても、確実に殺される。
やばいやばいやばい。
アッシュ、ここに来て大パニックである。
しかし、世界は無情である。
神は常に、人々に試練を与えてくるものなのだ。
「んっ……わ、わりぇは……意識を失っていた、のじゃ?」
「アッシュさん? もう起きているんですか……入りますよ?」
と、聞こえてくる絶望の声。
前者は覚醒しつつあるシャロン。
後者は侵入してくるティナ。
ガチャ。
「っ……ここはどこなのじゃ!?」
「おじゃまします……」
扉が開く音と共に、前者と後者はおはようございますするのだった。




