第十一話の三
「…………」
「…………」
再びの沈黙。
だがしかし、今回はエリスと裸で見つめ合っているわけではない。
時はエリス風呂場襲撃事件から数分後。
場所はティオ、エリス家リビング。
現在、アッシュはティオとエリスとテーブルを挟み、向かい合って座っている――当然、三人ともしっかり服を着ている。
「…………」
「…………」
「はぁ……騒いでいた理由はわかりましたけど、それで何か?」
と、アッシュとエリスの沈黙を割いて来るのはティオである。
アッシュはそんな彼女へと言う。
「騒いですみませんでした」
「それだけですか?」
「裸で飛び出してすみませんでした」
「もう少し具体的に……自分を卑下する感じで言ってみてください」
「は、裸で飛び出して、ティオ様に粗末なモノをお見せして――って、なんでそんな事を言わないといけないんだよ!」
アッシュはバンっと、テーブルを叩きながらツッコミを入れる。
しかし。
「んっ……少し満足しました」
と、ティオは頬を赤らめ、エリスへと視線を向け言う。
「それで……おまえは私に何かいう事はないんですか?」
「な、なによ! 別にあたしは悪い事してないんだからね!」
「エリス……」
「こ、この変態があたしを犯そうとしたから、こういう事態になってるんだからね!」
「エリス……!」
と、ティオが少し語気を強める。
彼女はそのままジトっとした目つきを強め、エリスへと続ける。
「アッシュさんがこの家にいる事は、おまえだって知っていますよね? だったら、少しは警戒して然るべきです……なのに、おまえはそれを怠った。それがこの結果です」
「つ、つまり何よ!」
「つまり……今回の事態は、おまえの不注意によるものという事です。私はおまえの妹なので、謝罪はこの際もういいです。しかし、アッシュさんに迷惑かけた事は、しっかり謝ってください」
「うぅ……っ」
と、エリスはキッとアッシュを睨んで来る。
その後、彼女は少しの間わなわなした後、非常に悔しそうに言ってくる。
「……でした」
「声が小さいです……エリス」
と、すかさずダメ出しを入れるのはティオである。
エリスはそれを受け、再びアッシュへと言ってくる。
「すみませんでしたぁ!」
「自分が悪い事をしたという意識を持って、もう一度いってください」
再びのエリスの謝罪。
再びのティオのダメ出し。
「え、エッチな事しか考えてないせいで、アッシュ様に迷惑かけてしまって申し訳ありませんでした!」
「それがおまえの全力ですか? だとしたら、とんでもない無能豚ですね」
謝罪。
ダメだし。
「あ、あたしはエッチで駄目な子なの! いつもエッチな事考えてるから、変な勘違いしちゃうのぉ! だ、だから! だからおしおき……っ、あたしにお仕置きしてぇ!」
「そうです……そうですよ。おまえはそうして、豚みたいに欲しがっているのがお似合いです」
謝罪。
ダメ出し。
……ではない。
アッシュは気が付く。
これは言葉攻めして喜んでいるティオと、言葉攻めされて喜んでいるエリス。
変態のやり取りであると。
ティオはかつて、エリスはドМの変態だと言った。
実際は違ったのだ――ティオも変態だ。ドSの変態だ。
(俺はとんでもない家にお世話になっているのかもしれない)
今日この時、アッシュはそう思ったのだった。




