第十一話 一日の終わりに
アッシュの一時宿泊先――ティオ達の家へ向かうその帰り道。
「アッシュさん……おかえりですか?」
と、聞こえてくるティオの声。
ティオ達の家の前までやってきたところで、ちょうど家から出てくる彼女に遭遇したのだ。
アッシュはそんな彼女へと言う。
「結果はともかく、ギルドで一クエスト済ませてきたところなんだ。悪いけど、しばらくお世話に――」
「気にしなくていいといいましたよね? まぁそれはともかく……私は今から少し出かけてきますので、先に家に上がっていてください」
と、ティオはアッシュへ家の鍵を渡してくると、更に言葉を続けてくる。
「それでは……私は行ってきますので……あぁ、よければ先にお風呂もどうぞ」
「いやいやいや、お風呂もどうぞっていうかさ、俺も付き合おうか? もうすぐ夜になるし、さすがに女の子の一人歩きは――」
「大丈夫ですよ。そんなにかかりませんから……市場にある出店で、食材を買ってきて終わりです……それでは」
などと、ティオはすたすたと歩いて行ってしまう。
アッシュとしては、やはり彼女を一人で出かけさせるのは少し心配なのだが。
(あんまりしつこいと、嫌わるかもしれないし)
ここはティオの言葉に甘えさせて貰おう。
と、アッシュは一人家の中へと入るのだった。
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「んぬぁあああああああああっ!」
と、全力で伸びをするアッシュ。
現在、彼はティオの言葉に甘えて風呂に入っているわけだが。
「やっぱ風呂はいいな。疲れが全部吹っ飛ぶというか、ものすごくリラックスできる」
風呂は日本人の命だ。
疲れ切ったときに入ると、そのことが改めてわかる。
(でも、この世界にも風呂という文化があってよかったな。ゲームの時はそういう設定深堀されてなかったし)
もしも、これでシャワーしかない文化だったりしたら、発狂していた可能性すらある。
それほど、アッシュにとって風呂は大切なものなのだ。
「…………」
と、ここでアッシュは体を湯に沈めながら考える。
(それにしても今日は色々あったな。得られた情報として大きいのは、やっぱりスライム将軍との一戦だよな)
あれによりアッシュはほぼ確信していた――スキル《変換》さえ使えば、この世界で誰かに負けることはまずないという事を。
(ゲームにおいてレイドボスだったスライム将軍。本来複数人のプレイヤーが協力しないと倒せない相手を、俺は一人で圧倒することが出来た……それも、まだまだ余力を残して)
つまり、アッシュはこの世界の戦闘において、心配する事は何一つないという事だ。
となると、心配するべきことは。
(生活面だよなぁ、やっぱり)
いくら強くても、生活できなければ意味がない。
いつまでもティオに甘えてこの家に住んでいれば、完全なるヒモである。
可愛い女の子のヒモになる。
言葉にしてみれば魅力的だが、実際にそれをやってしまえば終わりだ。
というか、これだけの強さを有してヒモは恥ずかしすぎるに違いない。
(どうするかな……やっぱ、強さを生かせる仕事となると冒険者になるのがいいんだろうけど……)
冒険者としての初仕事は大失敗したばかり。
幸先が悪いとはこのことだ。
(まぁ、スキル《変換》さえあれば鍛冶屋とか、色々な仕事も出来なくはないけど……一回失敗したから冒険者諦めるのも、なんか違うよな)
「っし!」
色々考えるのは明日にしよう。
アッシュがそう結論付け、湯船から出たまさにその時だった。
風呂場の扉が開き、たわわに実ったおっぱいが入ってきたのは。




