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全員が揃う日

お客さん、また来てくださったんですね?

今日はまた一段と大変なんですよ……。


何がって?

そりゃもう見てからのお楽しみですよ……。

それじゃ……。


「ようこそ、いらっしゃいませ……」

 カランカラン。


 お店の扉を静かに開け、中を確認する。


「……お客さんはなし、か」

「お、あっくん来たねぇ。よかった~」

「何かあったんですか?」


 お店に入るなり店長にそんなことを言われる。


 困ったことでもあったのだろうか?

 力仕事とかかな。


「……あれ」

「あれ?」


 店長が指を指したところは休憩室や更衣室に繋ぐ扉だった。


「扉が何か……?」

「問題はその扉の先」

「?」


 ゴキブリとかなんらかの虫でも出たのだろうか。

 でも、店長の呆れたような顔からしてその類いではないだろう。


 店長はこれ以上何も言う気がないみたいなので、とりあえず行ってみることにした。


「……ごくり」


 慎重に扉を開けるが、特に何もない。

 奥まで見てみるし、足元も見たが何もない。


 ますますわからない。


「ん……? 何か聞こえる……?」


 廊下を進むと、その声ははっきり聞こえるようになった。


「あなた自身がたるんでるからそんなにたるんでるんじゃないかしら?」

「はぁ? そういうあんたはどうなのよ。そんな性格だから貧相になったじゃない?」

「私はいいのよ。それも魅力だわ」

「いちいちうざいわね……」


 この部屋か……。

 それにこの声……。


 俺は扉を開いた。

 しかし、すぐに後悔することになる。


「二人とも! 喧嘩ぁ……あっ……」

「敦也……」

「あ、敦也……?」


 部屋にいたのはバイト仲間のすみれと陽菜ひなただ。


 問題はそこではない。

 きゅとした腰回り、スラッと伸びた四肢、控えめな胸元。黒と紫が入った大人っぽい色のものを着けているのがすみれ。

 程よい肉付きの腰回り、健康的な四肢、溢れんばかりの胸元。明るい花柄のかわいらしいものを着けているのが陽菜。


 なぜ気づかなかったのだろうか。

 何を隠そうここは……。


 女子更衣室である。


「えっと……その……これは違くて……」

「いいから出ていきなさい!」「いいから出てけー!」

「ごめんなさーい!!」


 俺はすぐさま扉を閉め、一目散に逃げ出した。



※※※



「あっくんそれはまずかったねぇ」

「いいえ……。よく確認しなかった俺が悪いんです……」


 店長に何があったかを話したが、本当に悲しくなってきた。

 二人はまだ更衣室から出てきていない。

 下着だったから、もうちょっと時間が掛かるだろう。


 うっ……また思い出してしまった……。


 ガチャっ。


「今日、敦也も一緒だったんだね~」

「え? あ、うん」


 扉が開いたと思ったら、出てきたのは陽菜だった。


 陽菜はいつも通り話しかけてくれる。

 逆に怖い……。


「どうしたの? そんなびくびくして」

「だって、怒ってないの……?」

「怒る……? あ~しょうがないよ。あたしたちのこと心配してくれたんでしょ?」


 いつもの、普段の陽菜の明るい表情でそんなことを言ってくれる。


「ありがとね。……でも、今度からは気をつけて欲しいなぁ……って」

「心に刻んでおきます」


 天使か。

 天使なのか陽菜は。


 これ以上面と向かって謝っても、逆に気を使わせると思うから心の中でありがとう。

 そしてごめんなさい。


 ガチャっ。


「すみれ……。その、さっきは──」

「忘れなさい」

「えっ?」


 こちらを向いてはくれず、ぶっきらぼうにすみれは答える。

 俺が聞き返すと同時に、勢いよく振り返り、さらに続けて言った。


「敦也は何も見なかった。いい?」

「あ、うん。わかりました」


 頬だけでなく、耳まで真っ赤に染めたまま言われたんだ。

 素直に頷くしかない。


 ならよしと言って陽菜と同様に、すみれも仕事に取り掛かる。

 すると、俺の隣にちょこちょこと店長がやってきた。

 そして、小さな声で──


「よかったね」


 と言ってくれた。


 もう本当に……。


「よかったです……」


 俺も、仕事に取り掛かることにした。

 しかし、俺の耳に届くすみれと陽菜の会話は、またまたひどいものだった。


「意外と器が大きいんだねあんた。体と同様貧相なもんだと思ってた~」

「ええそうね。あなたこそ器が大きいじゃない。大きいのはそのいやらしい胸元だけだと思っていたわ」

「は?」

「なにかしら?」


 バチバチと火花が散りそうなほどの睨み合いを脇目に、俺は結局こうなのかと、思わずため息をついて仕事を進めるのだった。



※※※



 カランカラン。


「「「「いらっしゃいませー!」」」」


 しばらくすると、お客さんが来た。

 俺は見たことのない人たちだ。


「ここの料理はどれもおいしいと評判なんだ。杏里あんり、どれにする?」

「メニュー多いんですねっ。悩みます……。」

「ゆっくり考えるといいよ。ララさんは?」

「そうですね。私は普通にラーメンにします」


 ララさんと呼ばれた人は、メイド服を着ていて、いろいろと大人っぽい。

 杏里と呼ばれた子は、小柄でまだ子供だと思う。

 残りの一人は、なんだか不思議なオーラのようなものを感じる。


「すみません」


 注文が決まったのか、呼ばれた。


「あなたが行きなさいな」

「はぁ? そういうあんたが行きなさいよ」

「俺が行くよ……」


 すみれと陽菜の二人が揃うとどっちも役に立たない……。


「はい。ご注文は?」

「僕はこのスペシャルラーメンを」

「わたしは醤油ラーメンをお願いしますっ」

「私も醤油ラーメンをお願いします」

「かしこまりました」


 取った注文を店長に伝える。

 その間も、すみれと陽菜は言い争っていた。


「スペシャルラーメンを頼むなんてなかなかやるね……」

「あなたみたいに脂肪まみれにならないといいけど……」

「はぁ? 絶壁は黙ってなさいよ!」

「それは心外ね。少しはあるわよ失礼な」

「ふんっ。ないようなもんじゃない」

「なんですって……!」


 思わずため息がもれる。

 これは止めても無限に続くな……。


「あんたなんて胸に男の視線なんて受けたことないでしょ? それはもうすごいのよ?」

「それくらいあるわよ! 少しだけ膨らんでるのが好きな人だっているんだから」

「えー。何もないから見てるんじゃないの? ぷぷっ」

「あなたね……! 目が腐ってるんじゃないかしら? この慎ましい胸元があなたには見えないのかしら? あぁ……あなた自分の脂肪で見えないのね。可哀想に……」

「慎ましい胸なんて見えませんー! 見えるのは壁だけですー!」

「うぐぐっ……」

「ぐぬぬっ……」

「じゃ敦也に聞いてみましょうよ」

「あんたにしてはいい考えじゃない。いいわよ? どうせ大きいのが好きに決まってるけど」

「そんなことはないわ。敦也は慎ましい方が好きよ」


 あれ?

 なんだか雲行きが怪しく……。


「ねぇ敦也」「敦也~」


 すみれと陽菜、同時に俺に声を掛けてくる。

 ダラダラとへんな汗が流れ出るのを感じる。


「はいはいみんなそこまでね。ほら、持っていって」

「残念だわ」「ちぇ……」


 た、助かった……。


 それからもバイトが終わるまで、俺は気を抜けない時間を過ごすことになった。

陽菜「次回予告をしない次回予告のコーナーが来た」

すみれ「あら? あなた次回予告したこのないの? 情けない話ね」

陽菜「そういうあんただってしてなかったじゃない」

すみれ「何のことだかわからないわ」

陽菜「胸と同じで、脳も小さいみたいね」

すみれ「頭に脂肪でも詰まってるのかしら? また次回予告しないつもりみたいね?」

陽菜「なんですって!」

すみれ「何よ」

敦也「はぁ……。次回は俺と店長の回です……」

幼女店長「お、一応予告はしたね」



※※※



 今回お店に来た子たちは、私、小倉桜が書いた『奴隷の少女と〇〇な主人』に登場する子たちです。気になった方はそちらもチェックしてみてください。

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