元気なバイト仲間
お客様、毎度ありがとうござ……。
え? くどい?
そんなことおっしゃらずに……。
どうせ覗きに来ただけなんでしょう?
いいですけど……。
では、もう一人バイト仲間を紹介しましょう。
「ようこそ、いらっしゃいませ!」
「今日も暇だねぇ」
「店長がそんなこと言っててどうするんですか」
現在バイト中。
相変わらず暇で店長と話していた。
今は店長と二人きりなのだ。
本当は今日、もう一人バイトがいる予定だったのだが……。
「それにしても、来ませんね」
「また部活が長引いてるんじゃない?」
「お待たせしましたぁ……!」
その時、店の扉が勢いよく開いた。
「遅いぞ」
「ごめんなさい! 部活が長引いちゃって!」
そう言いながら、大きな胸を揺らし、元気な少女は現れた。
「だいたいもっと静かに入ってきなよ。お客さんがいたらどうすんのさ」
「お客さんがいるときなんてほとんどないじゃん」
俺が嗜めると元気な少女はこんなことを言ってきた。
店長の顔がひきつっている。
「ともかく、早く着替えてきなさい!」
「はいぃ……!」
ビシッと敬礼すると、少女は店内の奥に消えた。
「まったく」
「店長も大変ですね」
「おかげさまでね」
え? もしかしてめんどうごとに俺も含まれてる?
「ただいま参上しました!」
いつの間にか戻ってきた少女、愛沢陽菜は元気一杯に敬礼をした。
金の短い髪がふわりとする。
「よし、とりあえず、テーブルでも拭いてなさい」
「了解です!」
店長の指示に、またもやびしっと敬礼して動き出す陽菜。
陽菜とも、俺はこのバイトで知り合った。
陽菜ともお互い呼び捨てだが、これは呼び捨てに欲しいと言われたからだ。
まぁ俺の方は、呼び捨てにしてくれと言ってないが。
自己紹介した瞬間に「敦也ね! よろしく!」と言われたのたが。
その時のことを思い出しながら陽菜を見ていると……。
「あれ? 店長、あそこ俺がやりましたよね?」
「いいじゃん。不毛で」
「…………」
ありゃ。軽くキレてるな……店長。
後でこっそり陽菜に教えなきゃ。
その時、お店の扉がゆっくりと開いた。
「「「いらっしゃいませー!」」」
入ってきたのは小学生くらいの女の子と、高校生くらいの男の子だった。
見たことのないお客さんだ。
「お好きなところへどうぞ」
「はい、ありがとうございます」
俺がそういうと、二人は窓際の席に座った。
水を持っていって、注文を待つ間、二人の会話が聞こえてきた。
「晴流、ここ、サユちゃんが教えてくれたんだけど、すっごく美味しいんだって」
「サユちゃんって最近よくお前の話に出てくる小さいっていう子か?」
「そうそう」
サユちゃんって聞いたことあると思ったら、あの時の大食いの小さな子か?
「でも、なんかほかの客がいないんだけど……」
「まさに隠れた名店って感じよね!」
厨房から鼻歌が聞こえ始めた。
隠れた名店って言われるのが好きでこんな店にしてるらしいからな……。
「お前何食いたい?」
「うーん……フレンチとか?」
「ラーメン屋にフレンチは無いだろ」
「でもメニューにあるわよ?」
「あれ? ここラーメン屋だよな……どうなってんだ?」
「さぁ? フレンチがダメなら、じゃあクリーム系のパスタで」
「だからラーメン屋……メニューにあるな……」
「さっきから文句ばっかりねぇ。ならサンマーメンでいいわよ」
「ご当地系はあるのか……? まあとりあえず良いとして、俺は醤油ラーメンにしようかな」
「あら、ド定番を頼むのね」
「初見の店で定番を選ぶのは基本だぞ。その店の善し悪しが分かるからな」
「ふーん……晴流のくせに通ぶっちゃって……」
どうやら注文が決まったらしい。
「はい」
「俺は醤油ラーメンください」
「あたしはサンマーメンで」
「かしこまりま……サンマーメンですか?」
「ないですか?」
「まぁ……メニューには」
でも店長のことだから作れそうだなぁ。
「ちょっと確認させていただきますね」
「お手数かけてごめんなさい」
「いえいえ」
俺はサンマーメンが作れるのか店長に確認しに向かう。
「店長、サンマーメンって作れます?」
「……なにそれ?」
「さすがにそうですよね」
たしか、どこかのご当地料理だった気がする。
どこだっけ……。
「作り方聞けばできるけど」
「なるほど」
その手があったか!
「じゃあ俺が……っていない!?」
どこ行った店長!?
「お客様すみません」
「は……い……? 何この子!? ちょーかわいい! お名前なんて言うの~?」
「おいこら落ち着け!」
てんちょーーーーーーー!!!!!
「むぎゅ……わたしはてんちょーです! サンマーメンの作り方教えてくれたらできますよ?」
「……本当に店長なの?」
「そうですよー」
「世の中には瑠璃ちゃんだけじゃなくてまだまだたくさんいるのね……。あ、作り方は――」
そうして店長は、サンマーメンの作り方を教えてもらった。
ちなみに、サンマーメンは神奈川県のご当地ラーメンらしい。
もやしをはじめとした野菜を炒めて片栗粉でとろみをつけ、醤油ラーメンに乗せるそうだ。
「これで作れます。そちらのお客様は醤油ラーメンでしたっけ?」
「そうです」
「では、しばらくお待ちください」
店長はちょっとむすっとしながら厨房に戻って行った。
子ども扱いされたのが癪だったのだろうか……。
料理ができるまで待機していると、テーブルを拭き終えたのか陽菜が戻ってきた。
「兄妹かな? かわいいね♪」
「うーん……兄妹とはなんか違う気が……」
すっごい笑顔で楽しそうに話している。
カップルに見えるんだけど……。
「今の聞いた? あの小さい女の子、高校生だって」
「はぁ!? あれで!? っていうか、聞こえてんの!?」
「えっ? 聞こえないの?」
いや、どんだけ耳いいんだよ。
なにも聞こえねぇよ。
「ちっちゃくてかわいいね~♪」
「この間、あの子より年齢が一つ下で、大食いの小さな子が来てたぞ」
「えぇ~なんで呼んでくんなかったの~」
「どうせ部活だったろ……」
「そうだけど~。……大食いってどんくらいだった?」
俺は当時のことを事実そのまま話す。
メニューを片っ端から……と。
「…………」
「聞いてんの?」
「またまた~ご冗談を~」
陽菜のやつまったく信じてねぇ……。
「ホントだって。すみれにも聞いてみろよ」
「えぇ……あいつと話すのぉ……?」
そう言って陽菜は心底嫌そうな顔をする。
「なら、信じるんだな」
「へ~い」
「ほら、二人ともできたよ。運んだ運んだ」
「「はーい」」
料理を運んでいくと、お客さん二人は、目を輝かせた。
「すごっ……! おいしそう……」
「だな……めちゃくちゃおいしそうだ……!」
「ごゆっくりどうぞ」
俺が離れてしばらくすると、食べ始めた気配がした。
厨房付近に戻ると、陽菜がその様子をじっと見ていた。
「あんまりじろじろ見てんじゃねぇよ……」
「だって気になるじゃん? カップルみたいだし」
「やっぱカップルだったか」
「あんな身長差カップルそうそうないって」
「向こうの身にもなれよ……」
まぁ幸い向こうは気づいてないみたいだけど。
「おーいあっくん」
「どうしたんですか店長」
「これ、あの子たちが食べ終わったら持ってって」
そう言って出てきたものは大きめのパフェだった。
「店長特製カップルパフェだ」
「そのまんまですね」
「……何か言った?」
「いえ、何も」
こえぇ……。
こんなもの作るってことはまだご機嫌ってことなのに、危うく損ねるとこだったぜ……。
「あ、それ持ってくの?」
「食べ終わったらな」
「カップルでパフェを食べさせっこといえば、定番だもんね~」
そんなもんだろうか。
相手がいない俺にはさっぱり。
「ねぇねぇ敦也、そのパフェあたしが持ってく」
「陽菜が? まぁいいけど……変なことするなよ?」
「わかってるって! しししっ」
うわぁ……めちゃくちゃ怪しい!
とても任せたくないなぁ……。
「店長店長」
そんなことを考えてる間に、陽菜はなぜか店長の元へ向かった。
二人で何を話しているんだろう?
何か悪い笑み浮かべてんなぁ……。
あ、こっち来た。
「何を企んでんだ?」
「まぁまぁ。見てればわかるよ♪」
「?」
まじでなにする気だこいつ……。
店長を見るとこっちもこっちでニヤニヤしてるし……。
「あ、食べ終わったっぽ! 行ってくる~♪」
あ~あ行っちまったよ……。
あのカップルお気の毒に……。
今のうちに手、合わせとこ。
「失礼します」
「店員さん? どうしたんですか?」
会話が聞こえる位置までこっそり移動した俺は、聞き耳を立てる。
陽菜の声と、男の子の困惑した声が聞こえた。
「こちら店長が、特別にと」
「わぁ! すっごいパフェ!」
「い、いいんですか!? こんなのいただいて……!」
「ええもちろん。ただで」
俺にはわかる。
陽菜が笑いを堪えていることが。
「しかし、こちらのパフェ、メニューになくてですね。ちょっといいスプーンが一つしかなかったので、スプーンがお一つになってしまいますが」
それが狙いかぁぁぁぁぁ!!!!!
あの二人、謀りやがったな!?
初々しいカップルが見たいからってそんな……!
「それでは、ごゆっくり」
陽菜がニヤニヤしながら戻ってくる。
悪い笑みだ……。
「よしっ」
「よしじゃねぇ! なにやってんだアホか!」
「店長がいいって言ったも~ん」
「そういう問題じゃねぇだろ!?」
店長を睨むと、親指を立ててきた。
グッドじゃねぇぇぇよ!!
「ほらほら敦也」
「なんだよ」
「始まるから静かに見て見て」
「はぁ……ホント、お気の毒に……」
この店のアホ二人により、イチャイチャを強制的にさせられ、それをガン見されるとは……。
「瑛美が食べていいぞ」
「さすがに食べられないけど……」
「うぐっ……だよな……」
ほら戸惑ってるじゃんか……。
「とりあえず、いただきます」
「どうだ?」
「ん~♪ おいしい!」
味は流石、絶品のようだ。
さて、ここからどうするのか……。
ここまで来たら俺も気になる……。
「晴流も食べてみてよ!」
「え!?」
「ほら、あ~ん」
「あ、あ~ん」
お、ついに!?
「ホントだ、うまい」
「ねっ?」
二人とも顔が赤くなってるが、食べさせっこが始まっている。
初々しいねぇ。羨ましいねぇ。
「なんだ。敦也も結局気になってたんじゃん」
「まぁ、あそこまできたらなぁ?」
「だよねだよねっ」
「ほらほら二人とも。これ以上は悪いから、休憩行っときなさい」
「「はーい」」
※※※
休憩室に来ても、陽菜はほくほくしていた。
「陽菜はああいうの、ホント好きだよな」
「え~。たぶん女の子はみんな好きだよ?」
「そんなもんかねぇ」
ガールズトークとかいうのがあるくらいだし、そんなもんなのか。
「ね、ねぇ敦也」
「ん? どうした改まって」
なぜか視線をあっちこっちに泳がせながら、右手と左手の人差し指同士をつんつんしている。
何を企んでいる……?
「クッキー……食べてくれない……?」
「えっ。たしかお前の料理って……」
「だめ……?」
うっ……。
いくら陽菜とはいえ、見た目はかわいい女の子だ。
さすがにその上目遣いはずるいだろ……。
「……いただきます」
覚悟を決めるか……。
ぱくっ。
「ど、どう……?」
「しょっぱい……」
「うそっ!? 砂糖と塩間違えた!?」
たしかにそのクッキーはしょっぱかった。
でも……。
「これ、砂糖と塩さえ間違えなければ普通においしいぞ……?」
「ほ、ほんとっ!?」
「ああ。でも、味見はしましょう……」
「はい……申し訳ありません……」
今までは絶望的な味だったのに、ここまでになるとは。
相当努力したんだろうなぁ……。
ただ、クッキーしか作ってないけどな。
陽菜は。
※※※
砂糖と塩は間違えちゃったけど、良くなってるみたいでちょー嬉しい!
しかもしかも、敦也に言われたんだもん!
あいつが料理上手だと知ったときは絶望したけど、この調子ならあたしも料理上手になれるかもっ。
でも、あたしって女の子として見られてるのかな……。
あいつとの態度の差があるような気がするんだけど……。
ポジティブに考えるなら、あたしとは気軽に話せるってことだけど……。
ネガティブに考えるとあたしは……。
ううん! まだあいつと敦也は付き合ってるわけじゃないもん!
頑張れ、あたし!
敦也「今日は俺たちだ」
陽菜「そういえば前回あいつとしてたね」
敦也「次回予告なのにしてなかったけどな! あはは」
陽菜「あははっ」
店長「また次回予告してないじゃん!」
※※※
今回お店に来た子たちは、きり抹茶さんが書かれている『ロリっ娘女子高生の性癖は直せるのか』に登場する子たちです。きり抹茶さん、ありがとうございました。