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ダンジョンと魔法と、頼りない幼馴染み  作者: 東西 遥
第二幕 冒険者業は儲からない
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八、戦闘

「さてと、じゃあこの辺りで実戦練習だな。何かあったらすぐに戻れるように、ここから離れすぎないようにしよう」

 といってもこんなに人がいるんじゃ魔物も近寄ってこないよなあ。どうなんだろう。

「そういやさ、少し気になったんだけどリルはあのときなんで魔法を使おうと思ったんだ? これまで全く使えたことはなかったんだろう?」

「うーん、よくわかんないけど使える気がしたんだ。でも考えるよりも先に手が動いてた」

「そのときのことってはっきり覚えてる?」

「うん、魔法が発動したのまでは。そのあとはあっという間に目の前が真っ暗」

「今は使っても倒れたりはしないんだろ?」

「もちろん! 全然大丈夫だよ!」

「そっか。魔法を使うってどんな感じなんだ? 俺は一度も使えたことないからさ……」

「なんか、かーっとしてその勢いでっていうか、そうだなあ、やっぱり怒ったときが一番近いかも。いや、でも冷静っちゃあ冷静なんだよな。僕もまだ慣れてないしなあ」

 わかるようなわからないような説明だ。やはり魔法を使った人にしかわからないものなのだろうか。

 しばらく歩いていると、薄暗い場所に着いた。なんとなく寒気がして、俺は立ち止まった。リルも何かを感じ取ったのか珍しく真面目な顔をしている。

 前方、柱の暗がりからハウンドが飛び出す。続いてその後ろに二頭。

「あ~、分が悪いね」

 練習としては少々難易度が高めだ。お互いにらみあったまま動かない。

「リル、一頭だけでも足止めできないか?」

「えっと、二十秒あれば」

「よし、頼んだ。俺が前に出る。そっちの用意ができたら俺がちょっとよけるから、そこでやっちゃってくれ」

 剣を構え、ハウンドと向かい合う。後ろでリルが詠唱を始めた。横をすり抜けられてはならない。緊張が高まるが、今はうかつに刺激しないことが重要だ。三頭の一挙一動に集中する。

 先頭の一頭がほんの少し脚を動かした。俺は一歩前に進む。ハウンドたちが唸り声をあげる。

 リルの詠唱が途切れた。ほぼ同時に先頭のハウンドが飛びかかってくる。俺はその瞬間ぱっと横に跳んで、そこにリルの魔法が飛ぶ。

「〈ライトニング〉!」

 リルの手元から伸びた紫の光は飛び上がったハウンドに直撃して、そいつは痙攣して動かなくなった。

 間を置かず残りの二頭がリルに襲いかかろうとする。俺は急いでリルの前に出た。

 うわ何か変な臭いする。思わず気が散りそうになるが持ち直し、迫ってきたハウンドに剣を振るう。

 刃が当たった。手に予想以上の衝撃が来て、取り落とすかと思った。

「手、いってぇ……」

 小さくひとりごちて、もう一度斬りつける。そのたびにハウンドは吠え、血が飛び散る。普通ならもう動けなくなってもおかしくないほどなのに、それでもこちらをにらみ牙をむく。その目からは狂気に近い感情さえ感じられる。

 急に嫌悪感を覚えて背筋が寒くなった。ダンジョンの魔物は異様だ。俺はハウンドの片方に剣を叩きつけ絶命させる。次いでもう片方、噛みつこうとしたところを上から突き刺した。

 荒い息を吐きながら剣の血をぬぐう。そしてリルの魔法で気絶したままの一頭に目をやった。毛皮が少し焦げている。

 まだ生きてるんだよな、とか思いながら短剣で首の血管を切る。なま暖かい血が足元に血溜まりを作った。

 リルに警戒を頼みつつ、三頭の皮を剥ぐ作業に入った。慣れているとはいえ結構な重労働である。終わる頃にはかなり疲れてしまっていた。

「それじゃあ戻るか?」

 穴を掘って死骸を埋めたところでリルに提案した。もうすぐ昼時だし、いったん地上に戻ってもいいだろう。大した怪我もなく三頭のハウンドを倒した。初めての冒険にしては上出来だ。リルもそれに賛同して、俺たちは今来た道を引き返した。

 数分後、俺たちは〈門〉の前に立っていた。地上に出ると、緊張が解けたからかどっと疲れがきた。正直座り込みたい気分だったが、俺は気合いで歩き出した。冒険はまだ終わっていない。

 ダンジョンを出てすぐ近くに冒険者御用達の買い取り店はある。ダンジョンで得られた素材などのうち、自分に必要ないものはここで売り払うのだ。

「はいよ、ハウンドの皮が三枚。銅貨十二枚だね」

 少し焦げていたはずだが何も言われなかった。そもそもが二束三文なので気にもしないのか。これっぽっちじゃ昼食一人分にもならない。

 それでもリルは、初めての冒険の対価をうれしそうに眺めていた。

 少し休もう、とリルに言って近くの食堂に入る。無駄遣いかもしれないが、俺たちは昼食をここでとることにした。

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