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ダンジョンと魔法と、頼りない幼馴染み  作者: 東西 遥
第二幕 冒険者業は儲からない
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六、金と銀

 ……財布が軽い。俺は無意識のうちに大きなため息を吐き出していた。

「どうしたの、ソラ?」

「ああ、結構したなって思って」

 冒険者向けの防具は一般向けのものと比べ様々な違いがある。ダンジョンの魔物は道具や、場合によっては魔法まで使ってくるので対策が必要なのだ。その分値段が跳ね上がるわけで、中古でも貯金をだいぶ使うことになった。

「でも似合ってるよね」

 リルがくるくると回りながら言う。

 リルには回避率が下がりにくい革鎧を、俺は防御性能の高い鎖帷子を選んだ。軽めのものにしたんだが結構肩にくるな、これ。

 まあ実を言うと前回みたいな鈍器に対してはほぼ無力だったりする。いや、少し吹っ飛びにくくはなるかもしれないけど。

「そんで俺の武器はいつもの長剣だけどリルは? 魔法一筋でやっていくつもりか?」

「ううん、当面は武器も持つつもり。とっさに魔法を出せるかって言われたら微妙だし」

「とっさに剣を使えるかも怪しいな……」

「あ! ひど! 僕だって剣の扱いはそこそこ得意なんだからね!」

「ハウンド相手に恐怖で固まってたけどな」

 俺の言葉にリルはぐっと黙ってしまった。ちょっと言い過ぎたか。

「まあまあそうふてくされるなよ。俺だってコボルトに一撃で沈められてるんだし似たようなものじゃん」

 肩を叩いて励ますがリルはなかなか機嫌を直さない。

「しょうがないな、お詫びに何か奢ってやるよ。何がいい?」

 言い過ぎたのは確かだから多少の損失は覚悟しよう。それで直るなら安いものだ。

「じゃああそこで売ってる、果物の砂糖漬け」

「……案外高いやつを選んだな。もっと腹にたまる肉とかかと思った。別にいいけど」

 街の周辺には果樹栽培に適した土地が少なく、多くの果物は遠方から行商人が持ち込んだものである。当然加工品になるし値段も決して安くはない。

「何にするんだ? 林檎か? 梨か?」

 自分だってめったに口にしないが、奢ると言った以上やっぱりそれは駄目とは言えない。すでに軽い財布を開き、残りを確認する。ぎりぎりだがなんとかなりそうだ。

「いや、でも……」

 リルを引き連れて店の前まで行ったものの、リルがはっきり返事をしない。

「なんだよ?」

「あの、やっぱり」

「やっぱり?」

 ひとりの少年が俺たちの横をすり抜け、店の主人に注文をした。

「おっちゃん、これと、あとこれを頼む」

「はいよ、銀貨五枚」

 ためらいもなく買い、平然と金を出したその少年は見るからに裕福そうだった。思わず少年の走り去った方向を見ると綺麗な馬車があって、少年はカトラの紋章が描かれたその馬車に乗り込んだ。

「ああ、カトラ家か」

 それなら納得だ。カトラ家は街の成立の頃から脈々と続く魔法使いの多い家系で、今でもこの街で最も力のある一族である。

「ん、リル、決まったのか?」

「……やっぱりいいや。なんか食べたい気分じゃなくなった」

「そうなのか? 砂糖漬けなんて空腹じゃなくても食べられそうだけど」

「でもやめとく。帰ろ」

 なんでかはわからないがリルは逃げるように店を離れ、家に向かって歩き出した。確かにもう日はだいぶ傾いていて、しばらくすれば夕暮れが迫ってくる時刻ではある。結局なにも奢っていないが、リルが欲しがらないなら無理に奢る必要もないか。俺はそう思ってリルのあとを追った。

「それでさソラ、早速だけど明日ダンジョンに行こうよ」

 もうすぐ家というところでリルがそう言った。

「あのなあ、遊びじゃないんだぞ? わかってるのか?」

「わかってるよ」

 口ではそう言うが、本当にわかっているのか少々不安だ。ダンジョンは子どもが遊べるほど安全な場所ではないし、気軽に行って楽しめる場所でもない。非常に死と近い場所であるというところはちゃんと理解していてほしい。

「俺はなるべくリルを守るつもりではいるけど、絶対に守れるわけじゃない。自分の身ぐらいは自分で守ってもらわないとな」

「僕だってソラを守るよ!」

「その心意気は頼もしいがまずは自分を守れ。俺を守るのはそのあとだ」

 まったく、リルが冒険者になるとはね……。いくら専業じゃないからって危険なことに変わりはない。当分は第一階層で修行ってことになりそうだなあ。

 そこまで考えて、俺は本日何度目かのため息を漏らした。

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