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ダンジョンと魔法と、頼りない幼馴染み  作者: 東西 遥
第二幕 冒険者業は儲からない
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五、湯気

「終わったー!」

 最後の教科の試験が終わり、リルが伸びをしながら叫んだ。

「お疲れ。直前の努力で、寝てた分くらいは取り戻せたな」

「ふふん、意外と何とかなった」

 さほど難しい問題も出ず、ほぼ一夜漬けらしいリルでも大半は埋められただろう。つくづく要領がいいやつだ。そんなことを考えているとリルがさらに続けた。

「でさ、ちょっと考えたんだけど。将来の夢について」

 将来の夢? ……ああ、「冒険者」か。死にかけてようやく頭を冷やしたってところか。さすがのリルもあれだけのことがあれば考え直すんだな。

「冒険者になりたい、じゃなくてソラと一緒に冒険したいになった!」

 聞くやいなや俺の右手がリルの頭をひっぱたいていた。

「いってぇ! 何すんだよ!」

「バカなこと言うな。俺はもう冒険なんかしたくもない。二度とごめんだね」

「え~、何があっても?」

「何があっても、だ」

 リルは少し考え込んでから言った。

「じゃあひとりでダンジョン行くのかー。それはすごく危険だなー。そんなことさせていいのかなー」

 ……ひどい脅しだ。

「俺がいなくても冒険者にはなるのかよ」

「うん、でもソラがいなかったらたぶんやっていけない。だから一緒に冒険したい」

「はは、そりゃあ信頼の厚いことで」

 もう乾いた笑いしか出ない。一体こいつの頭はどうなってるんだ。

「両親はいいよって言ってくれたんだけどな~」

「え、本当かそれ」

「初めは反対してたんだけど、話し合いの結果、好きなように生きなさいってことになった」

 それはもはや説得できないから諦めたのでは?

「でも絶対にソラと一緒にやりなさいって。それならまだ安心だからって」

 俺はゆっくりと拳を握った。心なしか手が震えているような気がする。どいつもこいつも俺を何だと思ってやがるんだ。

「わかったよ。俺も親父に聞いてみる。絶対無理だと思うけどな。それから条件がひとつ。職業としての冒険者にはならない。俺も、お前も」

 何か他に生きる道を持っていれば冒険者としてやっていけなくなっても何とかなるし、それに四六時中ダンジョンに潜っているわけにはいかない。

「了解。じゃあこれからソラん家に行って聞いてこようよ」

「今からかよ!」

 確かに今日は親父は家に居たと思うけど……。なんかものすごく嫌な予感がする。

 リルにせっつかれながら家に向かう。リルがいつも以上に上機嫌で、それが俺の不安を増させる。いや、でもあの親父が許すわけがない。それだけは絶対だから安心して大丈夫なはずなのだが。

 家に帰ると親父が剣を打っていた。工房を兼ねた小さい家には熱気が渦巻いている。

「ただいまー」

「おうソラ、おかえり。それとリルだな? ま、言いたいことは多々あるが生憎今は仕事中だ。ゆっくりしてけ」

 親父は手を止めずに返事をした。

「いやちょっと話あるんだけど」

「そうなのか? ならこれが終わったらだな」

 よどみない手さばきで剣を作っていく姿は、やはり少し憧れる。俺も小さい頃から鎚を振るっていたし、将来は親父を継ぐのもいいかなと思っている。その手つきにリルとふたりで見とれていたが間もなく打ち終わり、水に突っ込まれた剣が勢い良く湯気を立てた。

「よっと。んで、話ってなんだ?」

 親父が額の汗を拭いながらこちらに歩いてきた。俺は慎重に話を切り出す。

「あのさ、もし、俺がダンジョンに行きたいって言ったらどうする?」

 案の定、親父は予想外の話を聞いてすぐに顔の笑みを消した。

 それからため息をひとつ吐いて、言った。

「それがお前の決めたことだったら止めはしない。お前が冒険者になりたいんだったら俺はそれにどうこう言うつもりはない」

 意外だった。親父なら絶対止めると思ったのに。

「ただし、バカな真似はするなよ。ろくな準備もせずに夜中のダンジョンに入るなんてのは論外だからな。ある意味、冒険者は冒険しちゃいけないんだ」

 この言葉にはリルがびくっとした。リルにはまじで反省してほしい。俺の命まで危なかった。

「……は争えない、か」

 親父がぼそっとつぶやいたが俺は良く聞き取れず聞き返した。しかし親父はそれを無視して立ち上がった。

「さーて仕事に戻るか」

 そう言うが早いか親父は金床の前に戻ってしまい、あとには俺とリルが残された。

「えっと、許可、出たな」

「うん、出たね」

 頼むからそんな満面の笑みを浮かべないでほしい。俺はやれやれと思いつつも不思議とどこかこの状況を楽しんでいるような気もした。

「じゃあ、装備でも整えに行くか……?」

「よっしゃあ!」

 ものすごく簡単に認められてしまったのでいまいち実感が持てていない。俺が冒険者? 全く予想もしていなかった未来だ。

「ソラ! 早くしないと日が暮れるよ!」

「はいはい、今行くから」

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