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ダンジョンと魔法と、頼りない幼馴染み  作者: 東西 遥
第八幕 決心は揺るがない
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三十五、武器

 リルの考えは次のようなものだった。

 おそらくあの修復魔法はとてつもない精度で魔法陣を復元するが、ひとつだけ絶対に復元できないものがある。それは修復の魔法陣そのものである。それ自身が破壊されてしまえばもはや修復を発動すること自体が不可能になるからだ。

 だからまず壊すのは発狂の魔法陣ではなく修復の魔法陣の方だと、リルが言うにはそういうことらしかった。

「そうは言ったって修復の魔法陣はどこにあるかわかってないだろ?」

「だいたいの目星はつくよ。復元対象は街の全域に広がってるわけだから、効率よくやるなら中心部に限られる。それに対称性の観点からも中心にあった方が安定するしね。そう、つまり、あれだよ」

 リルがぴっと指さした先は塔――空に高く伸びたあの塔だ。

 さっきまで一緒だったトナンさんはこのあと何か用事があるらしく、残念そうな顔をしながら去っていった。冬至の祭りに向けて、各ギルドは準備やらなんやらで大わらわになる。トナンさんの用事もたぶんその関係だろう。

 俺たちはふたりで塔まで歩いた。具体的な行動すら決まったのに、俺は逆に不安になっていた。イーゼスが魔物を発狂させたのには理由があるのではないか。それを素人が壊してはならないのかもしれない。そんな疑念がむくむくと湧いてきたのだ。

 そんな気持ちはお構いなしにリルは斜め前を進んでいく。俺も仕方なくついていった。

 塔の下、〈門〉の前。冒険をするようになって何度も訪れた場所だ。しかし今、用があるのはその大きな開かずの扉ではなく、隣の通用門である。

 ふとリルが立ち止まって、ちょっと目を凝らしてから叫んだ。

「イリアー!」

 確かに向こうには、背の低い冒険者が立っていた。

「ああ、ふたりとも久しぶり。しばらく会ってなかったな」

 えーっと十日ぶりくらいか。

「ああ、学校で忙しくてな。今はもう休みだ」

「ねえソラ、相手があの魔法使いだって考えると仲間は多い方がいい気がする。イリアにも協力してもらおうよ」

 一理あるな。魔法陣を防御するためにわなが仕掛けられている可能性が高い。発見できる確率があがるし、それにイリアの弓はなにかと便利だろう。

「そうだな、イリアにもついてきてもらおうか」

「どういうこと? どこに、なんのために行くんだよ?」

 リルがちゃっと経緯を説明すると、イリアはいまいち腑に落ちない、みたいな表情を浮かべた。

「結局なんでそんなことをしたのか、それがわかんないんだけど」

 そう、それがわからないのが問題なのだ。このままうかつに動いてよいものか。やめた方がいいんじゃないか。

「でもおもしろそうだし、つきあうよ」

 イリアは止めてくれなかった。乗り気になったリルが先陣を切ってまた歩き出す。……まあ乗りかかった馬だ。最後までつきあうほかないな。

「それで、塔の中のどこにあるのかの見当はついてるのか? まさかしらみつぶしに調べるんじゃないだろうな」

「たぶんあんまり人が来ない場所で、ある程度広くないとだめだから、地下が怪しいと思うんだよね」

 塔の地下は倉庫や書庫が並んでおり、めったに人は立ち入らない。魔法陣を隠すにはぴったりといえなくもない。

 地下へは光も差し込まず、死んだような風が漂っていた。階ごとにおおまかな分類がされているようだが、やはり最も怪しいのは研究者ギルド管轄の書庫だろう。全員の意見が一致したので迷わずそこに向かった。

 歴代の研究者たちの書き記した研究報告や調査結果、そして本が所狭しと詰め込まれていた。しかし決して適当に収納されているわけではなく、著者ごとに分類されているらしい。

 リルが床を調べ、魔法陣が仕込まれていないかを確かめた。しかし何も見つからず、床はただの冷たい石でしかなかった。

 俺はふらりと本棚の間に入って目をさまよわせた。カトラ・イーゼスの著書はあまり多くはないが、そのほとんどが比較的最近に書き写されているようだ。今でも重要な資料なのだろう。しかしそれはつまり多くの人の目にふれているということで、そのような場所に何か隠してあるとは考えにくい。

 少し移動して部屋の壁際、ほこりをかぶった棚に何か引っかかるものを感じた。些細な違和感。棚に並ぶ背の隙間から見える、後ろの壁の色が違う……?

 数冊を取り出してみて、確信した。昔は壁と同じ色に塗られていたようだが、長い時を経るうちに木はぼろぼろになってしまったのだろう。塗装は剥がれていて、表面も荒れている。

 つまりその棚の後ろには、朽ちかけた扉があったのだ。


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