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ダンジョンと魔法と、頼りない幼馴染み  作者: 東西 遥
第五幕 長期休暇には旅をしよう(後)
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二十一、老爺

「ソラ、何して遊ぼう?」

「うーんそうだな、リルは何かあるか?」

「んーじゃあせっかくこんなにたくさん水があるんだし、それを使って遊びたいなあ」

 そこまで言うと、何かを見つけたらしくリルは小走りでその何かを拾いに行った。

「……流木?」

 リルが拾い上げたものはすらっとした一本の棒だった。水を吸っていても重すぎるというほどではないようだ。

「これを木刀がわりにしてさ~」

「水、全く関係ないじゃん。それに一本しかないしどうやって」

「まあまあそのうちわかるから。これは僕の速唱の練習でもあるんだ」

 速唱……高速詠唱? 魔法を使うのか?

 リルは俺に流木を手渡すと、俺より少し深い方まで歩いていった。

「じゃあ行くよ! 〈コントロール〉!」

 いつもと違って、宣言してから詠唱を始めた。そんな魔法もあるんだな。

 などとのんびり考えていると、俺とリルの間にある水が突如盛り上がって俺の方に飛んできた。

「うわっ、なんだ!?」

 反射的に木刀を振るい、それを叩き落とす。ある程度は固まっているようで、手には予想以上の衝撃がきた。

「よーし。僕がこうやって攻めるから、ソラはそれを木刀で防ぐ。先に音を上げた方の負けだからね!」

 言うが早いかリルは、詠唱を続け俺に次々と攻撃を仕掛け、四方八方からの猛攻に俺はものすごく苦戦した。といっても同時に動かせるのは二つまでらしく、背後に注意していればそうそう直撃を食らうことはなかった。

 しかし俺は今、膝より浅いところとはいえ足を水に漬けているわけで、そんなところでは動き回るだけで体力がぐんぐん消耗していくのだ。

「ちょっ、リル! 待った!」

 案の定すぐに息が上がってしまい、俺は息も絶え絶えに休憩を提案した。

「それは敗北宣言?」

「……あー、そうだよ! 俺の負けだ!」

「やったぁ! ソラに勝った!」

 リルは嬉しそうに跳ね上がり、俺は浜辺に座り込んだ。打ち寄せる波は一波ごとに、火照った体から熱を奪っていった。

 リルも並んで腰を下ろして、俺たちは停泊している船や幾度も繰り返される波を眺めた。思えばリルを追いかけてダンジョンに入ったときから、俺の日常はずいぶんと変わった。それまでは冒険したこともなかったし、街を離れたこともなかった。ちょっと前の自分に「もうすぐ冒険者になるぞ」なんて言ったって絶対信じてくれないだろうな。

 でも一番変わったのはリルだろう。あの日までは魔法なんて全く使えなかったのに、今じゃ魔法を使って〈主〉と戦ったり、俺に勝ったりしている。

「なあリル、リルはどう思ってる?」

「何がさ」

「冒険者になったこと。いつ死ぬかもわからない日々を続けていくってこと。初めから本気だったのか?」

「ソラはどうか知らないけど、僕は本気だったよ。ずっと前から冒険者になりたかったんだ」

 リルは本心からそう言っているのだろうか。リルの口は時折ぼそぼそと魔法を唱え、その度にあちらこちらで水柱が立っては崩れ落ちていった。

「ソラもさ、こんなことに付き合ってていいの? 自分で言うのもなんだけど、僕って一緒にいてろくなことないじゃんか」

「まあそりゃそうなんだけど……。けどさ、俺は生まれたときからリルの兄みたいなもんだし、それくらいはしょうがないって思ってるよ」

 リルのせいでいろいろと面倒なことにはなっているのだが、なぜか憎めないのがリルなのだ。

「茨の道だろうが付いていくからな。というか放っとけねぇんだよ」

 言いながらこつんとリルの頭を小突く。

「へへ、頼もしいや。それじゃソラ、もう一戦、といこうじゃないか」

「おお? 今度は負けないからな?」

 第二戦は、俺がさっきより浅い位置を保って戦ったため戦力は拮抗し、俺は迫り来る水の塊を片っ端から木刀で受け止めた。

 激しい攻防のあと、ふたりともほぼ同時に倒れ込んだ。リルは危うくもう少しで溺れそうになった。

 急いで浜辺に引き上げて、座らせる。荒い息が落ち着いた頃、見知らぬ老爺が歩み寄ってきた。

「そこの少年たち、なかなかの腕じゃな」

「えっと、何か用でも?」

「ふむ、いや別にないが。時に喉が渇いてはおらんかな? 我が家に来れば水を飲ませてやることができるが」

 それを聞いた途端、猛烈な渇きを覚えて俺たちは顔を見合せた。それから俺は答えた。

「んじゃあお言葉に甘えて」

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