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ダンジョンと魔法と、頼りない幼馴染み  作者: 東西 遥
第四幕 長期休暇には旅をしよう(前)
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十五、商人

「ソラ、早く早く!」

「もうちょいゆっくり行こうや……。まだ日は高いんだぜ? 元気だなあ」

「だって杖買うんだよ!? 盛り上がらないわけないじゃん!」

「あーはいはい」

〈主〉の牙を売って手に入れた金を、俺は貯金することにした。いつ必要になるかわからないなら備えておくに越したことはない。一方リルは杖を買うことにしたらしい。そして今、俺はそれに付き合っているというわけだ。ちなみにイリアはあの次の日、朝方に旅立っていった。

 魔法を使うとき、杖は意識を集中させるためのいい目印になる。また、魔法の指向性が安定するという効果もある。そんなわけで杖を愛用する者は多い。

 杖は剣と同様、命を賭ける武器である。安物を買って危機に瀕するのはバカのやることだ。だから俺たちは塔の中の杖専門店に来ていた。ここなら粗悪なものをつかまされることはないだろう。

「これなんかどうだ? しなやかで丈夫、難燃加工。値段も手頃」

「うーん、そういうのよりもっとがっしりしたやつがいいなあ」

 俺が手に取った小型の杖を見てリルが言う。最近の流行りは軽くて細い小型の杖だが、昔ながらの太くて重い杖もないわけじゃない。だがもう少し値が張るだろうな。

 売り場を移動して、俺の身長ほどもある杖が何本も立て掛けられたところに来た。やっぱり高いぞ……。俺は値札を見て顔をしかめる。

「これに決めた!」

 しかしリルはすぱっと好みの杖を見つけたようだ。ずらっと並んだ杖の中から一本を持ち上げる。

「どうかなこれ?」

「どうだろうなあ、重すぎないか……ってそれ完全に棍棒の持ち方だろ!? 殴る気満々かよ!?」

 さすがに両手で杖を振り上げるのはどうかと思う。

「まあでもそういう使い方するんだったらいいかもしれないな」

 見たとこかなりしっかりした杖だし、よっぽどのことがなければ折れたりはしないだろう。

「じゃあそれにするのか? えーっと銀貨四十枚だと昨日の儲けほとんど使っちまうな。言っとくが俺は出さないからな」

「もちろん。全額自分で出すよ」

 そう言ってリルは杖を店の主人に持っていく。

「あんた杖を買うの初めてか?」

「うん、そうだけど?」

「その杖が〈同調〉するかどうか見たのか?」

 なにそれ、といったふうにリルが首をかしげる。

「なら杖を持って、魔法を使うときみたいに意識を集中させてみろ。杖の先端にだ」

 リルが言われた通りにすると、途端に杖が振動し始めた。

「う、わわ、なにこれ」

「ああ全然問題ないみたいだな。むしろこんなに相性がいいのも久しぶりだ」

 杖が初めて使用者を受け入れるときの現象らしい。これが起こらない杖は持ってもただの棒と同じなんだと教えてくれた。俺たちは逆に、杖ってただの棒じゃなかったのかと驚いていた。

「そりゃただの木の棒に高い金払うバカはいないだろうに。使用者が体の一部みたいに感じられるように加工されてんだ」

 そう言われれば確かにそうだ。木の棒なら拾ってきた方が明らかに安上がりである。

 主人からお墨付きをもらったリルはうれしそうにはしゃいでいる。杖を振ったり持ち変えたり、どう見ても目が輝いてる。まあ俺も初めて自分の剣をもらったときは似たようなもんだったしリルにとってはそういうもんなんだろう。

「おっと」

 リルの背中が中年の男にぶつかった。あわててリルが謝る。

「いいよいいよ。君たち冒険者かい? ずいぶん若いじゃないか。そういえば最近聞いたけど、もしかして〈主〉を討伐したっていう少年たちなのかな?」

「あ、はい。そんな噂になってるんですね」

 黒い髪に白髪が混じった、親しみやすそうな男性だった。

「十六だっけ? この街ではまだ学校に行ってる年齢だろう?」

「ちょうど今は休みの期間なんで」

「そうかそうか」

 男は楽しそうに笑った。

「私は剣も魔法もまるで駄目でね。学生時代はそういうのが得意な人がうらやましかったなあ。今は自分の仕事に満足してるが」

 そう言いながら男は杖をどさっと台に乗せた。

「こういう魔法関連の道具ってこの街以外だとなかなか手に入らないだろう? だけど欲しがってる人がいないわけじゃない。そういう人と取り引きするのが楽しいんだ。ああ親父さん、ちょっとまけてくれないかな。今後ともひいきにするから」

 へぇ、商人なのか。じゃあいろんな街を回っているんだろうな。

「うーんそうだなあ、金四枚銀二十枚、まけられるのはそこまでだな」

「よっしゃ買った! ありがとな。じゃあな、君たち。まだしばらくはこの街にいるつもりだからまた会うかもしれないな」

 若々しいという表現がぴったりくる軽い足取りで男は歩いていった。

「リル、俺たちも帰ろうか」

「うん帰ろう、ソラ」

 帰り道でも、リルは杖を片時も離さなかった。

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