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ダンジョンと魔法と、頼りない幼馴染み  作者: 東西 遥
第三幕 バカが揃うとろくなことがない
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十二、意地

 明くる朝、比較的早い時間でも〈門〉の前には活気があった。

「んじゃリル、昨日と同じ感じで行くけど大丈夫か?」

「ねぇソラ、あれ見て」

 唐突にリルが前を指差した。そちらに目をやると、少し先にひとりの冒険者が立っている。

「あれか? 弓士とは珍しいな」

 いないわけではないが剣士に比べればその数ははるかに少ない。不測の事態が多発するダンジョンでは危険が大きいのだ。

「なんか見たことある気がするんだよね、あのちっさい背格好」

「あんなちっさい冒険者なんて知らないだろ。そもそも冒険者の知り合いすらいないし」

「いや、あの背の低さ……」

 リルがそこまで口にした瞬間、その冒険者はくるっと振り向いて流れるように矢をつがえた。

「さっきから小さい小さいうるせーんだよ! 一発撃ち込むぞ!」

「やっぱりイリアだ!」

「なんだ、あんたらか」

「あれ、弓士なのか? 魔法は?」

 それに昨日見たときは、弓は持っていなかったように思うが。

「魔法も使うけど本業は弓。昨日はちょっと修理に出してた」

 俺の疑問を見透かしたようにイリアが答える。

「あんたらも今からダンジョン行くんだろ? 別にいいけど邪魔だけしないでくれよ」

 そう言うとイリアは〈門〉に近づいた。なんだその上から目線。まあたぶん実力も上だと思うが。

「フラトル・イリア――」

「とアーキア・リルとレイス・ソラ、ダンジョンへの立ち入りを望む!」

 イリアの声に重ねるようにリルが唱えた。途端に転送が始まる。さっそく邪魔してんじゃねぇか……。

 三人まとめて第一階層に送られた。うぅ、くらくらする。

「なんでいきなりついて来たわけ!?」

「俺もわかんない。なんでだ、リル?」

「イリアと組みたかったから」

 ああ、諦めてなかったのか。こうやってリルが意地を張り始めたら何をやっても無駄だ。どう頑張ったって折れやしない。

「絶対ろくなことにならないぞ、それでもいいのか?」

「どういう意味だよそれ」

 イリアは自分を疫病神扱いされたと思ってぼやいた。実際にはリルが疫病神なのだけど。

「うん、それでもいいよ」

「ってことでイリア、しばらく付き合ってくれないか? 利益についてはそっちの総取りでも構わないし、極力足手まといにならないようにする。リルの気がすむまででいいから」

「なんかよくわかんないなぁ……っと」

 目にも止まらぬ速度で構え、撃ち出された矢が俺とリルの間を抜ける。少し後ろで魔物の鳴き声が響く。恐る恐る振り返ると一匹のヘア(草食で耳の長い魔物。あまり強くはないが逃げ足が速い)が体に矢を突き立てて倒れていた。

「おれはあんたらを仲間とは思わない。だけどついて来るのは勝手だ」

 イリアはそう言い放つと俺たちの間を通って死んだヘアを拾いに行った。

「……協調性ないやつ」

 その背中を、俺のつぶやきが追いかけた。

 薄明るいダンジョンをイリア、リル、俺の順に並んで歩く。あちこちにある〈魔光石〉に群がるように苔や草が生え、それをヘアが食んでいる。そこにハウンドなど肉食の魔物がやって来るのだろう。ダンジョンとはいえ案外地上と変わらないんだな。歩きながらぼんやりとそんなことを思った。

 ついて歩くだけというのも退屈だ。気を抜いてはいけないのだが、ついつい思考が独り歩きを始める。

 リルのこと、イリアのこと、魔法のこと、ダンジョンのこと。とりとめもない思考はあてもなくさまよった。

 ふわっと足が空を切って、俺は現実に引き戻され、それと同時に盛大にすっころぶ寸前までいった。

「うおっ! って降りるのかよリル!」

 いつの間にか俺たちは階段のところに来ていた。これを降りれば第二階層だ。

 イリアはこちらなど気にしないというようにすたすた先に進んでいく。リルはそれに遅れず歩き、リルと離れるわけにはいかない俺もしかたなく階段に踏み出した。

 リルを背負ってこの階段を登ったのが懐かしく思える。あれからまだ数日しか経っていないのだけど。

 第二階層は全体的に起伏が大きく見通しが悪い。天井を支える柱も太くて頑丈なものが多数を占める。

 崩落に巻き込まれたときはちょうど盛り上がったところに落ちたからあのぐらいの被害で済んだんだな。改めてあのときは幸運に助けられたのだと実感する。

 慣れているのか、イリアは迷う様子もなく進む。やっぱり俺たちじゃ足手まといになるだろうに。リルは組むべきだと言っているが、リルの勘が間違っているのだろうか。そんな疑念が頭に浮かぶ。

 すぐに疑念が確信に変わる。イリアは第三階層に降りようとしていた。

「おいリル! さすがにこの先は……」

 イリアが振り向いた。その顔には「ついて来られないだろう」という勝ち誇った表情。それを見たリルはためらいもなく歩き出した。負けず嫌い……。ろくなことにならないぞ。

 ため息を吐き出して階段を降りる。何かあったらリルを守ろう。それが俺の責務だ。

 風が少し冷たくなった。それに湿り気を帯びているようだ。イリアについて歩きながら背筋が寒くなるのを感じた。何か、忘れているような、気がする。

 その音に最初に気付いたのは当然俺だった。低い衝撃と唸り声。背後から急速に近づいてくるそれに、ぶわっと鳥肌が立つ。

 続いて振り返った俺の視界に飛び込んでくる巨体。それが柱が折れるんじゃないかと思うほどの勢いで柱に激突する。

 ――最悪の事態、だった。

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