交戦
その頃、山の斜面では直攻部隊の魔導師たちが息を潜めて目標の到着を待っていた。
正確には、彼らには息を潜める必要は無い。魔力によってその存在を別の次元に置いており、感覚器官だけをこちらの次元とリンクさせているからだ。
冬眠中の羆が洞穴に身を潜めるようにその場には鼠一匹ほどの気配もなく、また、いざそこから飛び出せば一騎当千の破壊者と化すのだった。
北方征伐軍は約200名の魔導師で編成されており、そのうち直攻部隊は144名。12の部隊にそれぞれに小隊長を含めて12名の魔導師が配属されている。
このような、魔導師のみの軍が編成されるということは、魔力によって周辺国を支配下に収めてきたセト王国であっても、まず例がない。
なぜなら、彼らは”破壊し尽くしてしまう”からだ。
街も、田畑も、建築物も、すべてをなぎ払い荒れ地と化す存在、それが従軍魔導師だった。彼らひとりの戦力でおおむね100人から200人の無能力者の兵士に匹敵すると言われているが、純粋に破壊して駆逐することだけを考えたならば、後方部隊も含めて200名以上の魔導師で構成されたこの北方征伐軍の戦力は、数十万の軍隊にも匹敵するだろう。
直攻第1部隊の小隊長は視覚を強化しており、遠くからゆっくりと近づいてくる目標の姿をすでに確認していた。
年老いた男が、そのへんに落ちていたであろう折れた枝を杖にして、山道をゆっくりと歩いてくる。腰は曲がり、身にはボロを纏い、履物はなく裸足だった。
もしその男の横を通り過ぎる者がいたとしても、ただの貧しい老人だと判断するだろう。ましてや、一週間前に街を一つ滅ぼしてきたばかりの魔王であるとは、うかがい知る余地もない。
だが小隊長は、そのような姿を確認しても髪の毛一本ほどの油断も見せなかった。魔力の強さがその姿形に影響されるものでないことを、彼は熟知していたのだ。
(……いまだ!)
目標が攻撃地点についた瞬間、彼は迷うこと無く一斉攻撃の指示を出した。
直攻部隊の魔導師たちは隠密を解いて姿を現し、すぐさま手元に白く輝く魔法の槍を出現させて狙いをつけた。
―魔槍―
それは極めて単純な攻撃魔法だった。魔力の塊を投げつけるという、魔法を覚えたての子どもでさえも扱える初歩中の初歩。
だがそれを、熟練の従軍魔導師が用いた場合は話は別だ。
魔力の量だけでも桁が違う上、鉄よりも固く凝縮し、先端は針よりも鋭利に尖らせ、音よりも速く放たれた槍は、城壁をも打ち崩す威力があった。
魔槍による360度からの一斉飽和攻撃、それが北方討伐軍大将サングリアの作戦だった。
峠にたどり着いた老人は「ほう」という声を上げて顔を上げた。
何か面白いものでも見つけたような顔で。
次の瞬間、老人をめがけて144本の魔法の槍が撃ちだされた。
この物語は将棋✕ファンタジー✕青春小説『魔法を使って将棋を指したらダメだなんて誰が決めたの?』の前日譚になります。
https://kakuyomu.jp/works/4852201425154876316
こちらもあわせてお楽しみください。




