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接敵

「まさか、これほどまでの魔力だとは」


 少女は声を震わせ、その美しい顔を歪めて親指の爪をガリリと噛んだ。


 彼女の視線の先にある戦図グラフィカには、この辺り一帯の地形が立体的に表示されている。

 中央部の茶色く盛り上がった部分は山岳地帯で、そこから少し南側にあるマークは少女がいる野戦陣地を表している。そして北方には、じわりじわりと陣地に向けて南下してくる黒い点があった。

 魔力を現すゲージには数字の代わりに『計測不能アンノウン』という文字が表示されている。戦図グラフィカの測定範囲を超える魔力など、歴戦の従軍魔導師ストレガである彼女にしても初めて目にするものだった。




「サングリア殿、そのような顔をしては、せっかくの美貌も台無しですぞ」


 冗談めかした声で少女に声をかけたのは、この北方討伐軍の副将を勤めるフィールズ将軍だった。

 銀色の頭髪を短く刈り込み、顎には無精髭、頬には刀傷があり、背中に背負った大剣を見れば、人は彼を剣闘士か傭兵だと言うだろう。


 しかし彼もまた少女と同様に従軍魔道士ストレガであり、若い時分にはその鍛えぬかれた肉体と両手剣に魔力を宿らせ、歩く破城槌アリエテとして名を馳せてきた勇士だった。

 40を手前になって将軍職に任ぜられて前線を退き、現在はその経験を生かして、このように副将として戦場に出ることが多い。




 サングリアと呼ばれた少女もまた、北方討伐軍大将などという称号にふさわしくない姿をしている。

 その肌はエルフの血が混ざっているのではないかと噂されるほど白く透き通っており、白金色の髪の毛も相まって、神々の国より舞い降りた天使のような神々しさを放っていた。


 一方で彼女は、あらゆるものを焼きつくす豪炎の使い手でもあった。

 彼女はまだ14歳にしかすぎなかったが、8歳でその才能を認められて魔導師の称号を手にした異能の天才少女であり、10歳の頃から一軍の将として戦場に立って闘いぬいている。

 灰燼と化した廃墟を歩みゆくその可憐な姿から、兵士たちは畏敬の念を込めて彼女を『不死鳥のサングリア』と呼ぶ。




「フィールズ将軍、油断は禁物ではないでしょうか? ”あれ”はたったひとりでグレイシアの守備隊を壊滅させたと聞いております」


「ふん、あの街には無能力者ペブルの兵士しかいなかった。魔導師抜きの軍隊を壊滅させるなんぞ、赤子の手をひねるよりも容易いことよ」


「そ、そのような物言いは、不敬でありますぞ!」


 二人の会話に割って入ったのはアロー特務大使だった。その役割は、魔導師たちの行動を逐一監視し、王家に動向を報告すること。

 彼もまた王家の血をわずかながらに受け継ぐ貴族であり、全く魔法を使わない。

 魔法などという下賤げせんの力は誰かに使わせるものであって、自分が使うものでない、というのが高貴なる御身分の方たちの価値観である。

 従って、フィールズが口にした魔法を使うことができない者を指す無能力者ペブルという俗語スラングは、貴族たちにとって看過することができない許されざる言葉だったのだ。


 この男であれば、決戦を控えた今になって「副将軍を更迭するべきだ」などと言いかねない、そう思ったサングリアは、直ちにフィールズを叱りつけることにした。


「フィールズ将軍。アロー特使の仰るとおりです。そのような物言いはげんつつしんでください」


「かしこまりましたよ。大将軍閣下」


 口ではそう言いながらもフィールズは傲岸不遜ごうがんふそんな態度を崩さず、アロー特使をぎろりとにらみつけた。


(王家の七光ななひかりがなければ何もできない若造めが……)


 これまで何年もの間、命を危険に晒して王国のために尽くしてきた自分の忠誠心を、このようなぽっと出の青二才から疑われるとは世も末だ。


 フィールズは腹立たしい気持ちをため息として吐き出し、こうやって我慢できるようになるなんて、若い頃の自分には考えられないことだな、と自嘲した。




「サングリア将軍、第1から第12までの直攻ちょっこう部隊、配置完了したとの報告がありました」


「目標が攻撃地点に到達したら直ちに攻撃を始めること。それまでは絶対に発見されないように、と呼びかけてください」


「了解しました」




 戦図グラフィカに表示される黒い塊は、刻一刻と攻撃地点に近づいていた。決戦の時は、もう間近に迫っている。


この物語は将棋✕ファンタジー✕青春小説『魔法を使って将棋を指したらダメだなんて誰が決めたの?』の前日譚になります。


https://kakuyomu.jp/works/4852201425154876316


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