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桃太郎の弟子は英雄を目指すようです  作者: 藻塩 綾香
第3章 凍てつく桃の花
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72話目 新しい仲間

「ラーヴァナまたなっ!! ガールさん今まで本当にお世話になりましたっ!!」

「蒼様!! また会える日を楽しみにしています!!」

「達者でな!!」


 ラーヴァナとガールさんが港から手を振ってくれている。

 キルス村の住民とは交流が図れたとはいえ、まだ氷鬼族はあまり親しみのある種族ではないため、ラーヴァナは深くフードを被った状態ではあったのだが、その声を聞くだけで蒼は安心する。

 ラーヴァナやガールさんに反応するように、エーラや千鶴たちも手を大きく振り返す。


「レミっ!! ちゃんとギルドの皆様にはご迷惑をおかけしないようになっ!!」

「分かっていますっ!! 村のみんなによろしく伝えておいて下さいっ!!」

 

 竜船はその速度をゆっくりと上げていき、巨躯のラーヴァナであってもすぐに見えなくなってしまう。

 そして、これから見られなくなる雪山を寂しげに見つめる視線があった。


「レシア……本当に良かったのか?」


 蒼の手を強く握り締めているレシアがあった。


「うん。これでよかった……」


 レシアにとってはこの山が、この氷龍の生きた地が故郷なのだ。そこを離れるという事、それに仲もよくなった氷鬼族や村の皆と別れること。蒼達の住むアレフレドに移住する必要も無いのだ。もしかすると、キルス村での生活が一番快適かもしれないのにだ。

 それでも、レシアと前日にしっかり話し合った結果なのだ。


 レシアが進むと決めた道が蒼達についていくことだった。


「ありがとう。お母さん」


 レシアの胸には、いっぱいの気持ちがあった。氷龍から受けたすべての恩恵が、レシアの旅立ちを応援しているはずだ。


「いってきます……」


 レシアは思ったのだ。

 母のように強くなりたい。自分は人間の体をしている。大きな爪も、硬い鱗も、鋭い牙もないけれど、母のような立派な存在になりたいと。


 グオォォォオオオオオオ――――


 レシアの気持ちを後押しするように、どこからか龍の咆哮が唸る。いや、風の音かもしれない。だが、その風はどこかレシアの背中を押している。そんな気さえしたのだった。



◆◇◇ ◇◇◆



「レシア、ここが俺達の拠点ホームだ」


 そう言って案内するのは、もう一ヶ月も前に旅立った懐かしの拠点ホームであった。

 みんなと別れた後、蒼達はレシアを連れて少し買い物をした後、エーラやレミさんと別れて蒼達は拠点へと帰ってきた。


「なんか……狭い……」


 レシアの頬が膨れたかと思うと、その口からいろんな言葉が流れてくる。


「壁に穴が開いてる。天井低い。ホコリ臭い。臭い。散らかってる」

「なんで臭いって二回も言ったの? レシア……」


 壁の穴はちゃんと見えないようにしてあるし、天井低いのは仕方がないし、ホコリ臭いのは一ヶ月以上も離れており掃除が出来てなかったからだし、散らかってるのは主に千鶴の机だな。

 一ヶ月以上開けていたため、様々な書類が溜まっている。

 ギルド関連の正式の書類やら、千鶴に当てられたバイトに来るようにとの催促の手紙など様々だ。


「どうしよう蒼……」

「ん? どうした千鶴?」


 蒼が千鶴のほうへと視線を向けると、そこには青ざめた表情でバイト先からの手紙を見る千鶴がいた。


「バイト……クビになった……」

「……」


 一ヶ月も連絡なしで欠勤したから、当然といえば当然だが、それの当事者である蒼たちはなんとも言いがたい気持ちになってしまった。


「千鶴……大丈夫。また新しいこと……始めよう?」


 この状況が理解できていないレシアはどこかお気楽気分だったが、蒼と千鶴にはこれが何を意味するのは重々承知だった。

 ようやく二人での稼ぎで、石のライ麦パンを卒業して、通常のライ麦パンの固さへと移行し、そしてついにお米という文化の導入が図れるかと思ったら、通常のライ麦パンへと逆戻りだ。ようやく手にした母国の主食に味付けると思ったら、これである。


「まぁ、千鶴。レシアの言う通りだよ。事務の仕事も今は溜まってるし、少し落ち着いたらまた働こう」

「そう……だね……」


 真面目な千鶴だ。初のクビという事実にどうにも落胆してしまう。顔がこの一瞬で痩せこけたの気のせいでは無いだろう。


 それから、蒼達で使っていなかった部屋を掃除して回っていく。

 窓を開けホコリを全部払い、汚れている箇所などもすべて洗っていく。


 そんなこんなをしている内に、時刻は夕方。夕飯時というわけだ。テーブルに座って待つレシアと千鶴。


 そんな二人にあるものを食べさせるために、蒼は手際よくあるものを作っていた。


「はい、どうぞ」

「蒼、なにこれ?」


 レシアがそういうのも無理が無いだろう。アレフレドでもあまり食べられない、蒼たちの故郷の料理の一つだ。

 レシアの目の前に置かれたのは、小さな淡黄蘗うすきはだ色をした丸い玉。


「これは、きびだんごって料理だ」

「……」


 分かる。大いに分かる。


 蒼は胸の中でそう思う。


 キルスの村では、レミの友人であるという事で、ずいぶんと豪勢な食事をさせていただいた。肉料理なんかもふんだんに振舞ってもらったし、魚料理の趣向を凝らして作られ、主食のパンも高価な小麦を使ったものだったからだ。そんな料理を目にしてきて、この小さな丸い玉が飯だといわれてもピンとこないかも知れない。


「食べれるの?」

「食べれるって!!」


 まさかの食べ物だと思われないこの始末。どこか悲しくなってきてしまう。


「このきびだんごには、師匠から教わった大切な意味があるんだ。まぁ、慣例みたいなものかな?」


 そう、これをレシアに食べさせることには大きな意味がある。


「昔、俺の師匠が仲間を迎え入れる際に食べさせていた料理だ。これを食べることによって、仲間となれる」


 が、実際は師匠の作ったきびだんごは正直食べることだ誰一人としてしなかった。だから、食べさせて仲間になるのかといわれると若干確証が持てない。

 なぜ食べないかと言われたら師匠のきびだんごは、もはや食べ物ではなかったからだ。それこそ、真っ黒に焼けあがった炭。それをきびだんごと称して、食べさせるのだ。恐怖以外のなにものでもない。

 

 きびだんごの作り方は至ってシンプルだ。

 いなきびを研いで、水に浸しておく。その後は砂糖と混ぜ合わせて、潰しながら混ぜ合わせる。そして形成し、きな粉をふって完成。


 なのに、師匠は突然『アクティブさが足りない』といい始め火にかけたり、『静けさが足りない』と言って水をハジャハジャとかけだしたりする。理解が出来ない。


 そんな師匠の駄目な話はレシアにしないでおく。

 だが、レシアはそのきびだんごをまじまじと見つめるばかりだ。


「これが……仲間の印……」


 そういうと、レシアはきびだんごを大きな口を開けて一口で頬張る。

 小さな拳大の大きさで、決して小さくはなかったはずだが、モグモグと咀嚼すると、ゴックンと飲み込む。


「これで、私も蒼達の仲間」


 レシアの元気一杯の顔を見た瞬間、蒼の口角は小さく上がる。


「あぁ!! よろしくなっ!!」

「レシア、よろしくね」

「これから頑張る。二人とも……よろしく」


 こうして、燃果の果実に始めての仲間が増えたのだった。



 ◆◇◇ ◇◇◆



 数日後。蒼とレシアはギルド『ピジョンスケープ』の元へと訪れていた。


 なぜかといわれると、蒼たちは氷龍の残してくれた大量の財宝。あれをピジョンスケープを通じて、現金へと変えてもらったのだ。そのお金を今日は受け取りに来たというわけだ。

 蒼とレシアを案内嬢が、応接間へと通してくれると、そこにいたのはピジョンスケープのギルドマスターにして、勇者級冒険者であるマーシー・プランケット本人だった。


 だが、いつもみたいに笑顔で迎えるわけではなく、そこか神妙そうな面持ちで蒼たちを待っていた。しかし、蒼たちを見ると、いつもの表情へと戻る。


「おぉ、これは始めましてじゃなレシアちゃん。わしはマーシー・プランケット。マーシーおばあちゃんと気軽によっておくれ」

「は、始めまして……。レシア・エクスキュース……です」

  

 レシアは母が死んだことによって、その名を引き継いでエクスキュースと名乗っている。これも龍種のしきたりなんだそうだ。


 蒼はふとそこにあるものが無いことに気がついていた。


「蒼もわかっておるとは思うが、とりあえず腰をかけい」


 マーシーおばあちゃんに促されるまま、蒼たちはソファーに腰を下ろす。応接間だからこそなのか、そのフカフカのソファーは蒼たちの体重を優しく包み込むと、静かに沈みこむ。


「それじゃあ、蒼。結果からいうが、あまり驚く出ないぞ」

「……」


 その文言を聞いただけで、蒼はまさかの展開を予想してしまった。まさか、売却ができなかったのだろうか。はたまた、ピジョンスケープの人間が立ち入るときには、すべて強奪でもされていたのだろうか。

 強奪をされたりあの巣を荒らされないように、ラーヴァナには協力を仰いでいたつもりだったのだが、甘かったのか。


「これじゃよ」


 そういうと、マーシーおばあちゃんは一枚の紙を蒼に手渡す。

 

「ふぇあ!?」

「ど、どうしたの蒼? 変な声だして?」


 その紙に書かれていた数字に蒼は目を見張る。


 『売却合計金額:100000000000ペリカ』


 千億ペリカ。


「……」

「蒼よ。とりあえず、すべての金額はギルド銀行に預けておいたし、この件に関してはわし以外知る人間はおらん」


 紙を持つ手が震える。


「そして、蒼が氷龍を倒したという事も伏せてるおるし、ユリウスにも口止めをしておる。ギルドの上層には、龍種案件とあって伝えてはあるが、蒼を思って討伐者は伏せてある」


 マーシーおばあちゃんの様々な計らいを見て、蒼は更に持つ手が震えてしまう。

 龍種案件とは、龍種に関する事を指し示す。天災級の魔物であるため、世界がその龍種の動向を気にしている。それだけ、氷龍という存在は大きな存在なのだ。


「だが、冒険者というのはどこからか情報を仕入れてくる生き物じゃ。流れ出たときは、覚悟せい」

「つまりは……」

「後ろから刺されることもある訳じゃな」


 蒼は突然後ろを振り返ってしまう。もしかすると、後ろに人物が居たら、刺されていたかもしれないからだ。


「大丈夫、蒼。そんな奴、私がぶっ飛ばすから」

「まぁ、そういう事じゃ。大金を手にして驚くのも良いが、その大金は娘っ子の母の形見。大事に使うがよろしいじゃろう。そして、龍種を討ったんじゃ。誇りに思うがよい」


 マーシーおばあちゃんがどこかレシアに語りかけるように言うと、レシアは小さく呟く。


「ありがとう、お母さん……」


 レシアがそう呟いたのを聞いて蒼はしゃんとしなきゃと直る。

 氷龍にレシアを頼まれたのだ。娘を頼まれたのだ。頼れる男じゃなくて、どうする。


「マーシーさん、ありがとうございました」

「なに、気にすることじゃない。わしらの関係じゃろ?」


 その後、マーシーおばあちゃんと少し話をした後、拠点へと帰って千鶴にこの金額の話をすると、千鶴は突然気絶してしまったりと大慌ての事態になったのだった。

◆◇◇ ステータスのコーナー!! ◇◇◆


【桃水 蒼】

種族:人間種

武器:村雨(刀)

防具:白翼の装備

MP:SSS

スキル:『鬼護者』『氷鬼王アイスオーガ・ロード

耐性:『氷属性無効』『水属性半減』『自然環境耐性』『魔力干渉耐性』『腐食耐性』『精神支配無効』

魔法:『物理強化魔法Lv10』

称号:『鬼に護られし者』『氷龍たりえる者』『氷鬼族を統べる王』



【レシア・エクスキュース】

種族:龍人種

武器:双氷龍エクスキュース(双剣)

防具:氷龍の装備

MP:B

スキル:『逆鱗』『氷鎧』『自動低速治回復』

耐性:『氷属性無効』『水属性半減』『自然環境耐性』『魔力干渉耐性』『腐食耐性』

魔法:『氷造アイスメイキングLv10』

称号:『氷龍』

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