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桃太郎の弟子は英雄を目指すようです  作者: 藻塩 綾香
第3章 凍てつく桃の花
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52話目 大変申し訳ありませんでしたっ!!

「「大変、申し訳ございませんでしたぁぁぁぁぁッ!!」」


 という声に続いたのは


「許さないっ!!」


 という拳だった。


 蒼と千鶴、そしてレミは目の前の光景にただ黙って見守ることしか出来なかった。

 村長の家の中でひっくり返っているジグリーとアバールの二人の氷鬼族。その巨体を吹き飛ばしたのが、蒼よりも頭一つ低い身長の目の前の銀髪の女の子。


 彼女は「ふんっ!!」と鼻息を荒くつくと、机の上のあったターキーの骨を掴むと、それに齧り付く。口の周りを脂一杯にしてモグモグとおいしそうに噛み締めて、喉に肉を流し込んだ後、言い放つ。


「お前らが……急に襲ってきた。私は……死ぬ思いで戦った。その謝罪が……『申し訳ありませんでした』? ふざけないで……」


 そういうと、彼女はターキーを握らない左手を持ち上げる。


「殴り足りない……。顔、あげて……」

「ちょっと……もう……良いんじゃないかな?」

「うるさい」


 左手が氷鬼族のジグリーに振り下ろされた。


 蒼は、心の中でどうしてこうなったんだ、と考えた。


 蒼が氷鬼族と和解した後、レミの下へ戻ってみると、蒼達が助けた彼女は意識を失っているようで、腹部の怪我に加えて、骨などにも損傷が見受けられたのですぐさま村へと引き返した。

 レミさんの回復魔法と、村自慢の回復ポーションなどのおかげで怪我は傷跡残さず綺麗に治すことが出来た。


 目覚めた時、ぐぅ~、と可愛らしくお腹を鳴らしていたので料理を振舞っていくうちに、彼女の求める料理の値が上昇。スープからパン、魚を経ていく。「肉、肉が足りない……」というものだから、鶏を使ってターキーのように焼き上げて提供したら、今や武器になっている始末。


 氷鬼族は、彼女が起きる間に事情を聞こうと思ったら「俺達の党首がやってくるまで事情はお話できません」と頑なに拒否をするので、言うと言っているのだから無理に聞き出すことはせずにいた。


 そして、村長宅に氷鬼族がいることに関して、今村長は村人に説明をしているところだ。なんと説明するのかは、少し不安なところだがきっとレミさんからの助言もあるし、ユリウスやエーラが一緒なので上手くやってくれていることだろう。


 そして、目が覚めた彼女と氷鬼族が顔を合わせた瞬間、氷鬼族が誠意を見せて謝罪をした時、蒼はとても感動したものだ。互いに殺しあった仲だというのに、その相手に対して礼儀をなせるというのは並大抵のことじゃない。きっと、党首という氷鬼族はすごく良い人で教育がなっているのだろうと感じた。


 が、その誠意を、彼女は拳でねじ伏せた。

 氷鬼族に対しての第一声よりも、拳が出たのだ。


 仕方が無いことなのかもしれない。気を失う前まで殺しあった中で、突然目の前に敵が現れたら拳が出ることもあるだろう。だが、謝罪の言葉を言った直後だったため、蒼は少しだけ氷鬼族にかわいそうな目を向けてしまった。


「本当に、申し訳ありませんでしたッ!! この通りですッ!!」


 ジグリーが膝を折って、手を床につけて、額と床を密着させる。そう、土下座である。まさか、氷鬼族にも土下座の文化があるとは思わなかったが、とても謝罪の意が伝わってくる。


「許さない……。どの面が言ってるの?」


 そう言って彼女がジグリーの頭の上に足を乗せると、グリグリと踏みつける。


(((うわぁ……かわいそう……)))


 蒼達三人がジグリーにかわいそうだと視線を送ると、それに助けを求めるようにアバールが哀訴する。しかし、それに対して蒼達は手をこまねいていた。


(((殴られたくないなぁ……)))


 心情は同じだったようだ。

 彼女はジグリーの頭を足でグリグリやりながら、左手に持ったターキーの肉を食い終わったその左手でアバールを叩き始める。


「そろそろ……良いんじゃないかなぁ?」

「はぁ!?」


 蒼が言うと、彼女は怒ったような表情をした後、蒼が言ったと分かるとジグリーとアバールに一瞬視線を向ける。


「仕方ない……。蒼が言うなら……許す……」


 そう言ってジグリーの頭から足を上げ、アバールを叩くターキーだった骨を机の上に置く。


「「ありがとうございまぁぁぁぁぁぁすッ!!」」


 誠意のある謝罪が村長宅に響く。


「次やったら……絶対に許さない。……ラーヴァナも、殴ってやる」


 と怒りに燃えながら、席に着くとスプーンを手にとりスープに手を付け始める。

 よっぽど腹が減っているのか、それとも怒るのが先に出てしまって食べた料理が即刻栄養へと変換されておなかが減っているのかさっぱりだった。


「そういえば、名前、聞いてなかったわね」

「ん? 名前?」

「そう……名前?」


 千鶴が言うと、銀髪の子は少しだけ険しい表情をして、口に入っているスープを飲み干した後答えた。


「レシア」

「レシア? それがあなたの名前なの?」

「そう……だけど?」


「ミドルネームやラストネームはないの?」

「ミド……? わたしは……いつもレシアって呼ばれてる」


 レシア。それが彼女の名前らしい。


「それじゃあレシア、君ってどこに住んでるの? この村の住人じゃないよね?」


 蒼はてっきりこの村の人間だと思っていたのだが、村長に聞いた所によるとこの子はこの村の子では無いらしい。それじゃあ近隣の村かといえばそうじゃない。一番近い村までは一週間程の道のりあるのだ。この豪雪の中、徒歩で歩く距離にしては厳しすぎる。


「この裏の山」

「や、やまぁ!?」


 千鶴が驚きの声を上げると同時に、蒼は山という言葉と同時にある単語が思い出された。


「氷龍……?」


 小声でレミが呟く。

 山には氷龍が住んでいるはずなのだ。そこには人間でさえ立ち入ったことは無いという話だった。なのに、その山に一人で、それも蒼と同年代くらいの女の子が一人でだ。

 一体、彼女が何者なのかについて、蒼の思考が巡っていくうちに彼女の口から答えが出た。


「山の中の……氷龍の巣に……住んでる」

「ひょ、氷龍!?」


 次に声を上げたのはレミだった。

 レミの驚きも納得できる。天災級の魔物である氷龍がまさか人間と暮らしているなんて思いもしなかったのに加え、彼女が氷龍と暮らしているのにびっくりだった。


「氷龍は……私のお母さん」

「お、お母さん!?」


 最後に驚きの声を上げたのは蒼だった。

 彼女の姿をじろじろと眺めてしまう。


 皮などによって作られた服の下にあるのは、傷一つ無い綺麗な白い肌で、鱗なんて一枚も生えていないし、彼女のお尻からは尻尾が生えているわけでもなく、その爪は人間を簡単に切り裂くほどの凶暴さはなく、少し乱雑に切られた小さな爪が指に生えているだけなのだ。


 蒼に対して不思議そうに眺める瑠璃色の瞳に、艶やかな銀髪、少し痩せた頬をしているが、至って健康な彼女。その姿を見て、誰がドラゴンと見間違うだろうか。

 信憑性はゼロだし、彼女が龍種の子孫だという事がにわかには信じがたく、蒼達三人は厳しい表情で彼女を見つめる。


「まさか……俺達は……」

「エクスキュースの子孫に、戦いを挑んだのか……」


 蒼の横でガタガタを震えだす氷鬼族の二人。

 その表情はまるで、地獄の門を覗いたかのようだった。

 手足は震え、呼吸が少しずつ荒くなっていき、タダでさえ白い肌から色が抜けていく。


「お、おい大丈夫か?」

「一族が……滅んじまう……」

「早く、ラヴァーナ様に報告しなければ……」


 氷鬼族が立ち上がったのとほぼ同時に、その扉は開かれた。


 外から入ってきたのは、この村の住人だった。

 その顔は真っ赤であり、寒さからなのか、全力疾走でこの家まで駆けてきたのか。肩で息をするほどに呼吸が荒いことから見ると、この家まで全力で走ってきたのだろう。


 そして、その目がレミを捕らえた瞬間、大声で言い放った。


「れ、レミちゃん大変だッ!! 氷鬼族が来たッ!!」

「氷鬼族ですか?」


 その村人の表情は、隣で震える氷鬼族同様に恐怖の面が張り付いていた。


「あ、あぁ。めちゃくちゃデカイ氷鬼族なんだが、丸腰で『冒険者を出せ』って要求してきてる!! 今、ユリウスさんが一人で交戦してる!!」

「ユリウスさんが!?」


 千鶴が驚いて見せるが、ユリウスと氷鬼族のランクを考えれば一対一の状況であっても、少し荷が重いだろう。それにユリウスはパーティー戦が得意で、単独で戦うのにはあまり慣れていないのだ。


 蒼は他に気になったことがあった。なぜ、丸腰の氷鬼族が単騎でこの村に乗り込んできたのだろうか。それも目的は冒険者だという。

 発生源の分からない違和感をひしひしを感じていた。


「すぐに向かいます。案内してください!!」


 レミが細剣を持つと、村人に連れられるまま家を飛び出していってしまう。


「党首だ……」

「あぁ、きっとラヴァーナ様が来てくださったんだ」

「それは本当なのか?」

「あぁ、間違いない。計画通りだ……」

「計画……?」


 氷鬼族が話せないと言った事だろうか。

 計画。その言葉から連想されるのは、この村の掌握、襲撃といったところだろうか。

 だが、先ほどの村人の話だと丸腰の単騎という話だ。


 ますます意味が分からない。


「千鶴、俺達も行くぞ!!」

「う、うん!!」


 蒼は村雨を握ると、家を飛び出そうとしてあることに気がついた。


「レシア、お前も来るか?」


 スープを口に運んでいたエリシアだったが、そのスプーンを机に叩き付けるように置くと大きな声で「行く」と言って見せた。


「ジグリー、アバール。村人の前に顔を出すことは出来ないけど、裏からなら現れた氷鬼族を見られるかも知れない。ついて来るか?」


 蒼が催促すると「もちろんだ!!」と声をそろえて返事を得られた。


「行くぞ!!」


 そう言って蒼は村長宅を後にした。

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