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桃太郎の弟子は英雄を目指すようです  作者: 藻塩 綾香
第3章 凍てつく桃の花
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48話目 薬草と宴

 家を出て数分歩き、村を少し離れた場所に農場らしきものがあるそうだ。だが、目の前の雪が積もった地面には草木など一本たりと視界に捕らえることはできなかった。


「ほんとにここにあるんですか?」


 蒼が尋ねるとガールは笑った。


「もちろんここが農場です。本来なら雪が深い地域では、野菜などは育てることが難しいのですが、この薬草は少し栽培方法が特殊でしてね。寒ければ寒いほど良い薬草ができるのです」


 そう言ってガールは雪を掘る。するとようやく見慣れた茶色の土が顔を出す。そして、茶色の土から生えた一本の草。


「この草が薬草?」

「いえ、使用するのは根の方です」


 一本土から抜くと、オレンジ色をした主根が顔を出す。


「これはニジンという薬草で、主に回復ポーションに使用される薬草です」

「でも、薬草と言っても草でしょ。雪の中の寒い環境でも大丈夫なんですか?」


 冬に薬草が盛んに成長するイメージが湧かない蒼は聞いてみた。


「まぁ、雪国特徴の栽培法ですね。越冬野菜などは聞いた事がありますか?」

「……いえ」

「簡単に説明すると秋に収穫する野菜をあえて冬を越させるのです。そうすることで美味しくなる、という栽培方法です」


「へぇ~。そんな方法があるんですね」

「それで、このニジンはその越冬野菜の方法で育てると良いんですよ」


 どうして冬に薬草を育てると良いのだろうか。


「越冬野菜は、冬になって凍りやすい水分を糖分に変えることで寒さを凌ぎます。そのため、越冬野菜は普通の野菜よりも甘く感じられるのです」

「それが……どう品質の良い薬草と関係が?」


「山に氷龍エクスキュース様がいることが原因だと思われるのですが、この一帯の土壌には魔力が多く含まれています。二ジンは、寒さを凌ぐために水分を糖分に変えるのではなく、土壌の魔力を吸収して水を魔力に変えることで寒さを凌ぎます」

「ということは、二ジンには多くの魔力が含まれた良い薬草になる」


「その通りです」

「蒼もこういう知識は知らなかっただろ」

「いや、全く……」


 刀ばかり振っていては、ほんとうに一本の知識しか芽生えないという事がよく分かる。

 草木を枯らすイメージしかなかった雪が、逆に野菜などを甘くする栽培方法。こんな方法があるなんて思いつきもしなかった。


「二ジンの主な出産地域は寒い地域が多いですからね。寒いだけじゃなく、土壌の魔力含有量が多いのも、キルス産二ジンの売りですよ」

「ちなみに蒼、このニジン。一本いくらだと思う?」

「えっ?」


 ガールが持っているニジンをまじまじと眺めてみる。

 とても発色の良いオレンジ色からは魔力含有量の多さ、手に持ったときのずっしりとした重さが薬草としての質の良さを感じさせる。蒼が薬草屋で見るニジンとは違うのが伺える。薬草屋での値段が一本三百ペリカだったはずだ。


「五百ペリカ……」

「残念だな。一本千ペリカだよ」

「せ、千ペリカ!?」


 蒼は持っていたニジンを落としそうになり慌てふためく。

 千ペリカといえば、蒼が最近食べ始めた石のようなライ麦パンとは違う普通のライ麦パンが五十ペリカで変えるので、二十食分。約一週間ほど食事を我慢すると、このニジンが一本買える計算だ。


「高い……」

「まぁ、高級品ですから。その分あまり生産量も多くない。結構品質チェックが厳しいので、高級と名付れらるのはごく一部ですけどね」

「最高級に指定されなかったニジンでも七百ペリカするしな。初級冒険者じゃ手が出ないよ……」

「中級冒険者でも手が出ないぞ……」


 ユリウスは、数本のニジンをガールに抜いてもらうと、一枚一枚に鑑定紙を当てていく。魔力の含有量を調べているそうだ。


「今年も良いニジンですね」

「そうですか。ありがとうございます」

「いえこちらこそ。うちの目玉商品ですから」


 ユリウスが剣ではなくて、鑑定紙を持ち薬草を持っている姿でも似合っているように見えた。それは、きっと剣を振るう意外に、知識があるという所だろう。そこが蒼との相違点。

 そんな事を考えていると、畑の奥のほうから一人の村人が駆けてきた。


「村長!! 宴の準備ができました!!」

「そうか!! 今行くから待っててくれ!!」


 大声でやり取りするとガールが「さぁ、行きましょうか」と勧めてくる。



◆◇◇ ◇◇◆



 宴が始まると同時に、レミは大勢の村人に囲まれる。

 色々と質問攻めにでもあっているようで、村人達の目がキラキラと輝いていた。レミは自分の過去を高々に語るような人ではないが、お酒も入っているからか、自分の冒険を語り始めていた。


 蒼達は、少し離れたテーブルで食事を摘んでいた。


「レミさん人気ですね」

「そりゃな。上級冒険者なんてそうそうなれる人間じゃないし、レミさんの誠実さとかを見ていれば納得するよ」


 エーラの質問に対して、蒼は納得したような表情で話す。

 レミのギルドとも少しながら友好があり、ギルドの初級冒険者や中級冒険者がレミさんを厚く慕っている様子をよく見かけるし、ギルドマスターからも大きな信頼を置いている。

 そういう観点からしても、レミが村人にここまで慕われるのも納得がいく。


「それで。蒼はレミさんのことをどう思ってるの?」

「へっ?」


 突然の千鶴の発現にびっくりして声が裏返る。


「どう思ってるのって聞いてるのっ!!」

「ちょっと、千鶴!?」


 千鶴に空いたジョッキで頬を押されながら、蒼は戸惑ってしまう。

 そして、ジョッキから香るお酒の臭い。


「千鶴、それお酒!!」

「知るかぁ!! それよりもどうなのよっ!!」


 完全に酔っている様子だった。

 千鶴はお酒に弱い。昔に甲斐家の就任式で酒を一杯飲んだが、その途端に倒れたときは、毒でも入っているのではないかと皆が慌てたものだ。ただ酔っていただけだったので、安心したんだが。


 少しお酒には強くなっているようだったが、寒空の下だからなのか、お酒のせいなのか、真っ赤な顔をした千鶴が俺に詰め寄ってくる。


「いや、別に俺は……」

「俺はぁ?」

「ふ、普通に冒険者として尊敬してるよ」

「ほんとにぃ~」

「本当本当。嘘はついてない」


 レミと冒険に出掛ける機会は少なからずある。そのたびに、よく話をする。それは、きっと蒼が英雄の弟子だからであろう。剣術はどこで学んだとか、英雄にはどんなことを教わったかなどだ。

 別に変なことは話していない。


「ふぅ~ん。でも蒼、平気で嘘つくしぃ~。この前の中級冒険者昇格試験だって『頑張り過ぎない』って約束したのに、ガーゴイルに一人で立ち向かうし!!」

「いや、それはこの前謝っただろ!!」

「足りないっ!! ぜっぜん足りない!!」


「いや、あの時『仕方ないね。次からは気をつけてね』って言っただろ?」

「あの時はあの時!! 今は今なの!!」

「そんな千鶴さん。お母さんの『他所は他所。うちはうち』みたいな言い方しなくても……」

「エーラちゃんは黙ってるのっ!!」


 お酒が入って威圧的な千鶴に対して、エーラが「は、はいっ!!」と声を上げる。


「はいはい、すいませんでした」

「蒼、適当すぎるっ!! もっと、こぉうやって、心を込めて!!」

「すいませんでした!! 俺が悪かったです!!」


 こんな場所で謝罪をさせられるとは思っても見なかったことに関して、蒼は表情を渋める。


「ゆ~~~るすっ!!」


 と声を上げた瞬間、千鶴を操っていた糸が切れたように蒼に千鶴がもたれかかる。完全に酔いが回って、寝てしまったようだ。


「おい、千鶴? 千鶴?」


 優しく頬を叩いてみても反応が無い。


「駄目だ。寝ちゃったみたいだ」

「お酒が入った千鶴さん、なかなか怖いですね」

「怖いんじゃないんだよ。いつもの真面目な千鶴と真逆の千鶴、めんどくさい人格が出てくるんだよ」


 バイト先での歓迎会で、お酒が入った千鶴を迎えに行ったことがあったが、もう手が着けられなかった。東のメインストリートの冒険者の前で、さっきみたいに大声で謝罪させられたのだ。


「普段がしっかりしてる分、お酒入るとスイッチ完全に切れちゃうからな……」

「まぁ、鬱憤晴らしも大切って事ですね……」


 そういうエーラは小声で「私もお酒入った時のために鬱憤晴らさなきゃ……」と呟いていた。


「俺が千鶴を運ぶよ」

「いえ、私が運びますよ。千鶴さんも女性ですし」

「えっ、そう……」


 デリカシーが足りなかったようだ。

 

 少し千鶴のほうが体格がいいはずだが、サポーターとして重たいバックパックを背負っていないエーラ。表情一つ変えずに千鶴を背負ってみせた。今日から三日ほど、村長の家に滞在させてもらう予定なので、エーラは酔って眠ってしまった千鶴を村長宅へと運ぶ。

 

 一人になってしまった蒼の元に来たのは、今回の宴のメインであるレミだった。


「楽しまれてますか?」

「先ほど千鶴が酔ってエーラに搬送されたところです」

「そうですか」


 小さく微笑むと、手に持ったお酒の入ったジョッキをテーブルに置き、蒼の隣に腰掛ける。

 そして、優しい目でレミが見つめる中央で赤々と燃え上がる炎は、村人達の高潮した気分を表しているようだった。


「蒼さん。頼みごとがあるのですが、よろしいでしょうか?」

「何ですか?」

「村に、氷鬼族アイスオーガが接近している話は父から聞いたと思います。そこで、私が村にいる間だけでもこの村の見回りをしたいのです。もしよろしければですけど、ご同行願えませんか?」


 つまり、村のために周囲に氷鬼族が現れていないか調査をするという事であった。

 それはもちろん村人のためになるし、なにより他人からのお願いを断ることなんてできない。


「もちろん、良いですよ」


 そういうとレミは、また優しい笑みを浮かべた。


「蒼さんは優しいですね」

「そんな事ありませんよ。レミさんだって、村のために率先して行動できる所、俺はすごいと思いますよ」

「私なんて全然ですよ」


 そう言ったレミの表情は、炎からの煙のように燻っていた。


「私が村を出た理由は村の出稼ぎみたいなものです。少しでも村のためになればと思っての行動でした。でも、この村の難を救ったのは、農業という視点でした。そんな視点を持たせてくれたのは、ピジョンスケープという大手ギルド。私なんかのちっぽけな力じゃ何もできないんだって、皆の笑顔を見るたびに思ってしまいます」

「それは、違うと思いますよ」


 悲観的になりすぎていると俺は思った。


「レミさんを見たときの皆を笑顔を見ましたか。あれは、資金的に裕福になったからの笑みじゃありません。レミさんが帰ってきた、それに対する喜びです。まるで、英雄凱旋のようでした」

「そんな事はありませんよ」


「事実、皆さんがこうやってレミさんのために宴を開いてくれてるじゃないですか。きっと、今のように裕福ではなかったとしても、レミさんが帰ってきてくれたなら宴は開いてくれていたと思いますよ。それに、事実レミさんは上級冒険者まで上り詰めたじゃないですか!! すごいことだと思いますよ!!」


「そうですか?」

「そうですって。レミさんは十分村のために役に立っていると思いますよ」


 蒼がそういうと、レミは煙の無い笑みを浮かべた。そして、小さく「蒼さんは優しいんですね」と蒼には聞こえないように呟くと、立ち上がる。


「それでは、明日の早朝からよろしくお願いできますか?」

「もちろんです。俺にできることなら、何だって言ってください」

「心強いお言葉ですね」


 そう言って笑うと、村人のほうへと歩いていき、村人に包まれていった。

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