28話目 略奪者と被害者
―――スキル『略奪者』
かつて勇者まで上り詰めた男がいた。その男には仲の良い仲間、ライバルとも呼べる存在がいた。だが彼はひとつ思うことがあった。なぜ、自分にはないものが、アイツにはあるのだろうかと。勇者の彼はそれを妬み、悋気、嫉妬に駆られた。
いつしかそれは彼の手にナイフを握らせていた。そして、最後には刺し殺し、勇者を堕落するという結末に終わっていた。その代わりに彼は仲間の能力を手に入れ、後世に『略奪者』として語られることになる。
その能力は、敵の魔力を奪い取る。
だが、ルシア・パントゥーナにはスキルが二つ備わっていた。
それに気がついたのは、『聖槍の騎士』のギルドマスターであるジェット・グルーヴァーに最初の一撃を貰ったときだった。
一緒だけ、体から意識が抜け、死んだのだ。
だが、自分の体は呪いのような自然高速回復により体は再生される上に、死ぬことが許されない体により、再び自由を得ることになる。
だが、それだけでは終わらなかった。
相手は気づいていたかもしれないが、ジェットの行動速度が若干低下していたのだ。
最初の一撃以来、自分が死んだという感覚が無かったのもそのためだと、後で気がついた。
――――スキル『被害者』
かつて勇者までのぼり詰めた男がいた。その男には仲の良い仲間、ライバルとも呼べる存在がいた。だが彼はひとつ思うことがあった。なぜ、俺はヤツに殺されたのだろうか。なぜ、俺はヤツに殺されなければならなかったのか。
死ぬ間際、彼はそのことを恨み、憎み、呪った。
いつしかそれは、呪いのように彼に纏わりついた。彼が違和感を覚える程度の全ステータスを下げた。だが、それだけしか叶わなかった。
いつしか彼は『被害者』と呼ばれるようになる。
その能力は、全ステータスの低下。
私は、この二つのスキルに気がついたからなのか、それとも単に惚れた青年の惨めな姿が見たくなかったからなのか祈ってしまったのだ。願ってしまったのだ。
勝利してほしいと。
その願いのために、私は何度も死んだ。
触れれば発動する『略奪者』で触れるたびに魔力を少しずつ削っていき、死ぬ度に発動する『被害者』によりステータスを少しずつ下げていく。
これによって、ヤツは今頃ステータスだけで言えば上級冒険者と大差ないだろう。それに加え、魔力もほとんど削り、蝋燭の火よりも弱々しく残っているだけだろう。
この選択は、失敗だ。
もしかすると彼は死んでしまうかもしれない。
だけど、消える瞬間、最後のひと時に彼の勇ましい姿を納めておきたかった。
それだけだった。




