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桃太郎の弟子は英雄を目指すようです  作者: 藻塩 綾香
第8章 茎の折れた桃の花に水をやる
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209話目 悪魔の支援

「レシア様ッ!!」


 ギラファが声を上げるが、レシアの小さな体は迷宮ダンジョンの壁に思いっきり叩きつけられ、壁にクレーターを作る。そして、重力に引っ張られて埋まった体が地面へ落ち、壁面の石も同時に落ちて、寝そべったレシアの体に降りかかる。


 一撃で沈んでしまった燃果の羽翼の最大の要。


「……ッ!!」


 ギラファはすぐさまオピーオーンから距離を取る。


 明らかな好機だった。

 レシアとオピーオーンとの距離が接近し、レシアがナイフを振り下ろした瞬間に、オピーオーンの体が一瞬ぼやけた。それと同時にレシアが吹き飛ばされ、壁に埋まった。


 だが、ギラファの目はオピーオーンの動きを捉えられずとも、脳は何をしたのかは理解していた。

 オピーオーンが地面から尻尾を振り上げて、レシアの腹部に向けてまるで鞭の如く薙いだのだ。つまり、オピーオーンの物理攻撃を一撃食らっただけでレシアはノックアウトしてしまった。


「くッ!!」


 ギラファの舌打ちは、燃果の羽翼全員に伝播する。

 敵は遠距離攻撃という点で、光属性、闇属性の二対の砲撃を持ち合わせており、さらにタイミングをずらして狙う風の刃での攻撃。近距離に持ち込んだとしても炎の盾が接近を阻む。仮に接近したとしても、オピーオーンの身体能力は異常で、言葉通りに目にも止まらない速さでの攻撃が待っている。


 遠距離、近距離共に、今の燃果の羽翼の面々では打つ手が無し。


「ギラファッ!! バールッ!! 暫し足止めを頼みんすッ!!」

「えぇッ!!」

「分かりましたッ!!」


 ヴェルは要であるレシアを失ってはいけないとすぐさまレシアの元へと駆け寄る。


「これっ!! 龍娘っ!! 目を開けてくんなましっ!!」


 ヴェルは声を掛けながら、攻撃を食らったであろう腹部を撫でる。

 触診で分かった事は、あばら骨が数本折れている事。骨折で済んだというのが幸いであり、あれほどの攻撃であれば衝撃で内臓がバラバラになっていてもおかしくはなかった。水龍の鱗を編み込んで作った防具のおかげで人間の原型を何とか留めている。


「ラーヴァナ。龍娘に上級ポーションを二本くらい飲まして、見ていてくんなまし。わっちは戦闘に専念しんす」

「ヴェルさん……」

「あの魔法の砲撃を防げるのも、盾を消せるのも、わっちしかいやせんっ!!」


 ヴェルはレシアからは離れると杖を構える。


 今、白と黒の砲撃はギラファとバールに向けられている。加えて速攻の風の刃も二人に向けられている。二人は攻撃に転じることができず、ただ回避に専念している。だというのに、体の節々には切り傷や砲撃によって焼け焦げた跡が見える。


 この光景を言葉にするなら、まさしく敵に踊らされている。


「煉獄よ。罪の浄化と、新たなる死を巻き起こさん」


 今のバールとギラファ、さらにはレシアではあの素早すぎる尾での一撃を回避する事は出来ない。さらには避けるだけで精一杯の三人ではジリ貧である。

 避けていてもいつかは体力が尽きて倒れてしまう。


 だからこそ、今必要なのは阻害デバフではなく補助バフだ。


「【煉獄一門悪魔の補翼(デモンズ・バッキング)】ッ!!」」


 ソロモン七十二柱の長であるヴェルのみが使える固有魔法オリジナルマジック、『煉獄十門』。その威力故に使用する魔力量が異常に高く、通常の戦闘では使用するのを躊躇ってしまう程の魔法。だが、その効果は通常の魔法を優に超える。


 ヴェルの背後に高さ三メートルはあろうかという石門が突如空間を歪め出現する。その石門には、杖同様に死者の恐怖の面の彫刻や、角の生えた悪魔が人間の首を持ち遊んでいる情景や、地獄の業火が森を焼き尽くす様子などが彫刻されている。まさに地獄そのものであった。


 石門が開くと、人体の顔のようなものが現れる。だが顔というには歪であり、口だけで構成された顔であった。その顔の口がゆっくりと開く。


『グキィャヤヤヤヤヤヤヤヤヤッッ!!』


 して、咆哮。


 悪魔の咆哮は仲間を鼓舞する。仲間が居るのだと鼓舞する。


「ヴェル様、ありがとうございますッ!!」

「バールは前だけ見ていてくんなましっ!!」


 これで終わらない。

 あの砲撃を何とかしなければ、このジリ貧の状況が改善されるとは思えない。


「煉獄よ。燃え盛る炎に、悲しみ涙を。荒れ狂う魂に、悲しみの涙を」


 まずはあの砲撃を止める魔法を掛けなければこの状況は変わらない。

 威力から察して、第六階位魔法程の威力があると見える。あれだけ連発していれば魔力切れは必至だが、惜しげもなく使うところを見ると、オピーオーンの保有する魔力量は相当なものだろう。蒼にだって引けを取らないかもしれない。


 無尽蔵ではないにせよ、ヴェルの吸収ドレイン系の魔法で吸い取れる程の魔力とは思えない。故に、今は相手に対して阻害系の魔法で威力を下げるしかない。


「【煉獄三門悪魔の血涙(デモンズ・ティア)】ッ!!」


 今度はヴェルの背後に先ほどとは違う石門が出現する。描かれているのは、人々が嘆き悲しむ姿。死人が多数描かれており、それと同数の人々が涙を流している。

 そんな石門が開かれると、中から暗雲が立ち込め、迷宮ダンジョン広間ルームの天井を覆い尽くすと、ポタリ、ポタリと水がしたたり落ちてきたかと思うと、オピーオーンを中心に雨が降る。


『――――?』


 オピオーンは自身の砲撃の太さが明らかに小さくなったのを感じた。雨に触れた瞬間、威力がどこか霧散していくような感覚。触れた雨によって魔力が形を成すことができずに空中に溶け出すような感覚。


 事実、ギラファとバールの目にはその砲撃の大きさが小さくなっており、回避がしやすくなっている。さらに、風の刃での攻撃も速度が落ち、先ほどまでギラファの装甲を削っていた威力が落ち、ギラファの装甲に触れても弾かれるようになった。

 今の状況であれば、風の刃での攻撃はギラファの装甲に傷をつけることができない。


 だが、まだ安心はできない。


 ギラファは風の刃での攻撃を克服できたが、バールは未だに攻撃を食らってしまっては危険な状況だ。砲撃はまともに喰らえば、バールであっても戦闘不能になってしまうのが目に見えており、風の刃は威力が落ちたとしても傷はついてしまう。


「ラーヴァナッ!! お主は二人を援護してきてくんなまし。今の威力なら砲撃を食らっても、お主なら吹き飛ばされたりはしないはずでありんす」

「分かりましたっ!!」


 先ほどまでの砲撃ではラーヴァナが受けるには荷が重たかった。だが、威力が半減した今であればラーヴァナの技量ではうまく受け流せるだろうという判断だ。


「はぁ……はぁ……」


 ヴェルは思わぬ魔力消費につい息を荒げてしまう。


 煉獄十門はその効果故に魔力の消費が尋常ではない。一門を使用するだけでヴェルの魔力の三分の一を消費する。さらに、門の数が増えるだけでその消費量はさらに増えていく。煉獄十門の中でヴェルが一人で使用できる魔法は五門まで。


 三門はほとんどの魔法の威力を半減させるという破格の効果を持つ。さらに、門が出ている間は持続して敵の魔法を阻害し続ける。故に、持続してヴェルの魔力を奪っていく。


 ヴェルの持つ『大地の恵み』というスキルは魔力の回復を手助けするスキル。普通の魔力回復スキルとは桁違いな回復量を持つが、それでも煉獄十門の使用に対してはやはり酷だ。


「わっちが……ここで倒れる訳にはいきやせん……」


 ヴェルという魔術師が倒れてしまっては、前衛が困る。前衛をうまく回すための後衛だ。前衛が居なければ敵を討つ事などできない。だからこそ、前衛を活かすための後衛なのだ。


 魔力の大量使用による脱力感に見舞われながらも、ヴェルは杖を地面につきたてながら、何とか立つ。


 そして、その後衛の思いを引き継がない前衛ではない。


「ギラファさんッ!!」


 バールの掛け声とともに、ギラファが動きを合わせる。


「私も行きますッ!!」


 さらに背後からラーヴァナが追いつく。

 砲撃が荒れ狂う中で回避から攻撃に転じるのは非常に難しい。だが、前衛盾としてラーヴァナが駆け付けてくれたのは非常に心強い。


「私が決めます。二人は援護をッ!!」

「分かりましたッ!!」

「はいっ!!」


 バールの声掛けに、ギラファとラーヴァナが返事をする。


「英傑へ成れ。豪傑であれ。奇傑と化せ。かつての英豪に倣え」


 まずはバールが砲撃を弾くために魔法を唱える。

 バールの使用できる属性は火、水、風の三種類。その全種類を一斉に打ち出す魔法。

 風が火を煽り、水が火を宥め、火が水と違える。三属性が互いに互いを高め、争い、競いあった先に生まれる、属性融合の果ての爆発的な火力。


「【三傑の瞬刃(トライデントカリバー)】ッ!!」


 剣術に秀でたバールが炎の剣で光の砲撃を弾き、水の剣で闇の剣を弾く。


「はぁぁぁぁあああああああッ!!」


 最後に神速の風の剣で二つの魔法陣を叩き割る。

 バールの耳元でガラスが割れるようなどこか心地よい破砕音が鳴り響くと、後衛から二人が飛び出す。


「ラーヴァナ。離れなるなッ!!」

「はいっ!!」


 ギラファは重装備のラーヴァナを背後につけると、短文詠唱を始める。


「渦巻けッ!!」


 バールが面倒であった光属性と闇属性の砲撃の魔法陣を破った。次は風属性の刃を打ち破るしかない。


「【渦紋雷流ライトニングボルテックス】」


 ラーヴァナが安全にオピーオーンの元まで辿り着くために、周囲にばら撒くように打ち出される風の刃が非常に邪魔であった。

 それをギラファの【渦紋雷流ライトニングボルテックス】によって、すべて弾き落とす。だが、これで終わらない。


 目の前には風の魔法陣と、炎の盾。


「甲斐流無武ッ!! 龍泉香風りゅうせんかふうッ!!」


 ギラファの雷属性が宿った脚が、龍が風香る地面を滑空するが如く迸る。

 最初に地面を右手が触れると同時に、手の力を駆使して空中に浮かび上がると、踵落としの要領で風の魔法陣を叩き割る。さらに体を捻る。


 炎の盾がギラファの猛追を止めようと襲い掛かるが、むしろそれはギラファにとっては好都合。


 砲撃も止んだ。刃も失せた。残るは盾だけ。


「ふんッ!!」


 横薙ぎに脚を振り払う。

 炎の盾の腹と、雷のギラファの脚がぶつかり合う。衝突の瞬間の衝撃インパクトで、ギラファの装甲が悲鳴を上げるが、それでも負けない。この盾を破らぬ限りには敵に近づけないのだから。

 割るしかない。


 雷が炎に勝った瞬間、ギラファの背後から交代スイッチするように先頭に立つのはラーヴァナと、攻撃の要となるバール。

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